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仲間を求めて


 2週間ほど村長さんの家で生活をすると、リズに随分と体力がついてきた。少し前とは違って身体にお肉がつき、肌色もよくなって健康的な女の子となっている。

 毎日の朝練と、村長さんの手伝いや狩りも、疲れた様子もなくこなせている。


「──さて、リズリーシャ。体力もついて来たみたいだし、改めて聞くよ。あんたは今後、どうするつもりだい?」


 いつも通りの朝食の場で、村長さんがリズに向かってそう尋ねた。


 リズは、災厄を倒すための組織の紹介を村長さんから受けるかどうかの返事を、今まで保留にしてきた。体力が戻って来た今、その返事を保留にする事はもう出来ない。

 災厄を倒すためには、いつまでもこの家で過ごす訳にはいかないから。


「……正直に言えば、私とシズだけでは災厄を倒す事は難しいです。となれば、仲間が必要になります。しかし情けない事に、私のツテでは仲間を集める事は難しい。となれば、やはりウプラさんの言う通り組織に属するのが手っ取り早いという結論に至りました」

「つまり、アタシの勧めを受け入れる、と」

「その組織はちゃんと、災厄を倒すための活動をしているのですよね?」

「勿論」

「なら、ウプラさんの勧める通り、その組織に入りたいです」


 リズは、村長さんの提案を受け入れる事にした。リズがそう決断したのなら、それでいいと思う。どうせリズの言う通り、私とリズだけで災厄を倒す事は無理そうだし。

 いや、災厄を見た事もないのでなんとも言えないんだけど……でも、あんな殺戮を繰り広げる化け物を倒すのは、やっぱり私には荷が重い。だったら仲間を作って一緒に戦った方がいいのだろう。あるいは、後方で皆の応援役というのもイイ。というかその方がイイ。


「シズはどうなんだい。アンタもそれでいいのかい?」

「わ、私は、リズと一緒にいます」

「つまりどうしたいんだい。アンタも組織に入りたいのかどうか、アタシはそう聞いてるんだよ!」

「は、入りたい、です」


 リズと一緒にいたいと言う事は、そう言う事でしょ。聞かなくても分かるはずだ。あと、声もデカイ。ちょっとイラっとした。


「……いいだろう。なら明日村を発つよ!組織がいる場所には馬を飛ばしても一週間はかかる。旅に備えて、今日は仕事はなし!アタシも休むから、アンタ達もゆっくりと休んどきな!」

「ま、待ってください。明日村を発つのですか?」

「そうさ。善は急げってね」

「それはまぁいいのですが……今の言い方だと、ウプラさんも一緒に来るような感じに聞こえるのですが……」

「そのつもりだよ!アタシもアンタ達に同伴して、組織のいる場所に送り届ける!」


 それは……衝撃的な発言だった。組織に入るのどうこうより、この先に待ち受ける旅に村長さんもいるというのが、正直言って嫌だ。

 毎日大きな声で怒鳴られ、リズとの関係も邪魔され、細かい事を口うるさく言われるのはストレス以外のなにものでもない。


「村はどうするおつもりですか?この村の人々は、ウプラさんがいなければ困るのではないでしょうか」

「村の問題点はおおかた片付いてる。アンタ達が手伝ってくれた書類整理で経理やらの細かい事は大体済んだし、アタシがいない間に問題がおきても、それに対処する方法は皆に伝えてある。この辺をうろついていた魔物も、シズが中心となってこの二週間で退治し終えた。今森は平和で、安心して狩りにも採集にも出かける事が出来る。アタシが長期間いなくなったって、なんら問題はない」


 村長さんの言う通り、周辺の魔物は大体私が倒した。狩りとは魔物狩りの事で、大きな声を出したり食べ物の匂いを出しながら森の中を歩きながら魔物を呼び寄せ、襲い掛かって来た魔物を私が倒して回った。そうして大体一週間くらいで魔物は出なくなり、その後は森の動物を狩って食料の確保に奔走した。

 書類の方はリズが素早く処理していて、私は指示された事をしていただけでほとんど何もしていない。


 今思うと、それらの仕事は村長さんが私達に同伴するために準備していた事だったんだ。書類整理も終わり、村の周りの魔物もいなくなった。

 安心して村を出る事が出来る、と。


「ウプラさんは、最初から私がその提案を受け入れると思っていたのですか……?」

「受けざるを得ないだろう?アンタのその夢を実現させるためにはさ」

「……はい。でも良いのですか?私の夢のために、ウプラさんを村から連れ出すなんて……」

「この村の連中だって、赤子じゃないんだ。アンタが心配するような事は何もないよ。さぁー、明日からの旅が楽しみだねぇ!村を長期間留守にするなんて数十年ぶりだよ!あっはっはっは!リズ!洗い物は頼んだよ!」

「は、はい!」


 村長さんは笑いながら家を出て行った。何がそんなに面白いのだろうか。私はちっとも面白くない。


 村長さんは本当に、本気で私とリズについてくるつもりのようだ。私達に拒否権はない。どうやら強制イベントらしい。


「……どのような組織なんでしょう。少し、不安です」


 この先の事を不安に思っているのは、私だけではない。

 組織に入るという決断はした。でも次にやってくるのは、不安だ。リズも、その組織が本当に大丈夫なのだろうかとか、村長さんとの旅の事とかが頭に渦巻いているに違いない。


「だ、大丈夫、です。リズならどんな所でも……きっと大丈夫」

「……シズが一緒にいてくれるなら心強いです」


 そう言って、リズが机の上に置かれている私の手を握った。

 リズの手、暖かくてとても心地がいい。

 その行動に、励ました方のはずの私が逆に元気づけられてしまう。リズは私にとっての、精神安定剤だ。この子と一緒にいて、触れ合っているだけで不安なんかどこかへ吹き飛んで行ってしまう。


 まぁ村長さんは口うるさいけど、ああ見えて女の子だ。男と旅するよりは数倍、いや数十倍マシである。あまり不安に思う事もないだろう。

 そう思っていた次の日、大問題がおきた。


「おはようございます、リズリーシャ様!」


 リズの温もりに包まれてよく眠れた良い朝だと言うのに、村長さんの家の前にはウォーレンがいて、大きな声で挨拶をして来た。


「お、おはようございます、ウォーレンさん」

「これからしばらく一緒ですね!よろしくお願いしまっす!」

「一緒……?」


 ウォーレンが妙にイキイキとしているのは、そのせいだ。


「ウォーレンも一緒に行くからね。それと、カークス坊やもさ」

「何故オレまで……」

「か弱い乙女に荷馬車の御者をさせるつもりかい?」

「だから村長は全くか弱くないだろう……」

「なんか言ったかい!?」

「な、何も言っておりません!荷物の整理をします!」


 おじさんの方は、あまり乗り気ではなさそうだ。それでもやる気はあるようで、てきぱきと馬車に荷物を運び入れ始めた。


 つまりどういう事かというと、私達の旅に男2人が同伴するという事だ。大問題である。


「……」

「ひっ!?」


 イキイキとした表情でリズと馴れ馴れしく話すウォーレンを、私は睨んだ。

 するとウォーレンが悲鳴をあげてリズと距離を取った。そして私をみて怯えだす。


 いいか、お前はリズに近づくな。旅に同伴するな。同伴するなら今ここでお前の人生を終わらせてやる。


「まぁそう嫌そうな顔をするんじゃないよ」


 心の中で物騒な事を呟きながら睨んでいると、背後から頭に手が乗せられた。

 振り返るとそこには村長さんがいる。


「女だけの旅ってのは、色々と大変なんだ。男手が必要な時がきっと訪れる。それに道中も最近物騒でね。旅人や商人が、忽然と姿を消す事件が何件か起きてるんだよ。盗賊か人攫いか分からないけど、男がいれば少しは弾除けにでもなるだろう。と言っても、男は確かに獣だ。己の欲望を我慢できずに寝床を襲われるかもしれない」


 私もそれには同感だ。男は欲望を我慢する事が出来ない。男と一緒の旅なんて、私はともかくリズが危険だ。だから旅に男はいらない。


「だけどアンタがいれば大丈夫!ウォーレンとカークスが寝床を襲うようなら、アンタがリズリーシャとアタシを守りな!」


 村長さんが私の頭を軽く叩きながら、笑って言った。


 確かに今の私ならウォーレンとおじさんが変な気をおこしても、殴って止めさせる事が出来る。でもそういう問題でもなくて、だったら最初からいなければいいじゃない。そもそも私は、男と同じ空間で同じ時間を過ごすのが嫌なのだ。


「ウプラさんの言う通り、男手が必要な事もあるかもしれません。シズ。いいですか?」


 リズが私の手を握りながら、確認するように尋ねて来た。リズは私の男嫌いを知っている。ここで私が拒否すれば、きっとリズも同調してくれるのだろう。


 でも2人は男が同伴する事に反対という訳でもないようだし、私が少数派だ。ここで我儘を通すのはみっともない。というかリズにみっともなく思われたくない。嫌われたくない。


「わ……分かり、ました。我慢、します」


 私は断腸の思いで男2人の同伴を許可した。そもそも私に決定権がある訳ではないけども。


 それから荷物の運び入れが終わると、早速出発となった。

 おじさんが操る馬車の荷台に私とリズと村長さんが乗り、ウォーレンとおじさんは馬を操るための台に座っている。

 荷台は暗くて落ち着く。これで男がいなければいいんだけどね。


「村長!気を付けていってきてくださいねー!」

「皆も、アタシが留守の間村は頼んだよ!ダズ!ブロック!喧嘩すんじゃないよ!レッグは少し運動して痩せな!」

「余計なお世話だ!」


 発車した荷馬車の外には、多くの村人達がいる。皆、村長さんを見送ってくれているのだ。意外にも、人望はあるらしい。


「旅の途中でくたばるなよババア!」

「今ババアって言ったの誰だい!?出て来なぶっ殺してやる!」

「う、ウプラさん!」


 荷台から飛び降りんばかりの勢いで身を乗り出す村長さんを、リズが掴んで必死に押さえる。

 その様子に、外では笑いがおきた。皆笑いながら手を振って、村長さんを見送っている。

 あまりにも平和な光景だ。男がいなければ、凄く良い。でも私の願いは届かない。


 むしろ男が操る荷馬車に揺られながら、リズの夢を叶えるための新たな旅が、今始まったのであった。


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