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災厄に怯える世界で、夢見る少女と。  作者: あめふる
一章 災厄に怯える世界
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災厄の殺戮


 でも、ウルエラさんのその攻撃は捨て身に等しい。攻撃しているのは一体のみで、もう一方の魔物に対しては意も介していないから。

 まるで目の前の一体のみを倒すつもりかのような戦闘スタイルなので、当然もう一方の魔物からの攻撃に対処出来る様子は全くない。

 ウルエラさんの背後から伸ばされた触手が、そんな隙だらけの彼女に襲い掛かろうとしている。


 触手には毒があると、ウルエラさんが言ったんじゃないか。その触手に刺されれば、黒王族ではないウルエラさんは死んでしまう。


 私は自然と駆け出していて、そんなウルエラさんに襲い掛かろうとした触手達を素手で叩き潰した。


「──イルラレイト」


 一方でウルエラさんは、そんな事を気にする様子もない。彼女は目の前の敵にのみ集中しているのだ。

 最初から、私の援護をあてにした行動だったようだ。

 そんな他力本願なウルエラさんが、技名のようの物を呟くとその剣に雷が宿った。青白い光が剣を走り、バチバチと嫌な音をたてて周囲を威嚇する。

 これも、魔法なのだろうか。私が元居た世界では、通常剣に雷は宿らない。だけどウルエラさんはその剣に雷を宿し、目の前の触手の化け物に向かってその剣を振るった。


 雷がやどった剣は、強力な一撃を繰り出した。剣を通った後を、青白い光が残像として残り、それが魔物の身体を殻ごと通り抜けている。

 あまりの切れ味に、魔物の身体が崩れ落ちたのは魔物が少し身体を動かしてからだった。真っ二つに割れた魔物が、地面に落ちて動かなくなる。

 だけど先程もそうだったように、触手だけは別だ。触手が動かなくなった身体から抜け落ちると、まるでそれぞれが別の生き物かのように地面を這ってウルエラさんに襲い掛かろうとする。


「はあぁぁ!」


 しかしそれらもまたウルエラさんの剣に切り刻まれ、ウルエラさんを倒すという目標が達成される事はなかった。


『ピイイィィィ!』


 ウルエラさんがあまりにもカッコよくて思わず見つめていると、私が相手していた魔物が鳴き声をあげて襲い掛かって来た。でも私はその動きを察知していて、すぐに振り返ると襲い掛かって来た触手達に向かって拳を突き出し、それらが一瞬にして霧散して消え去った。更に本体の方に向かって飛び上がり、そちらにも拳を突き出すと殻ごと跡形もなく吹き飛んで魔物は死んだ。

 今度は油断しない。残った触手達も残らずに踏みつぶしたりパンチをして、しっかりと全てを倒した。


「ありがとう、シズさん。やはり貴女に背中を預けて正解だった」

「っ……!」


 背中を預けるって、なんかカッコイイ。私はその台詞に、少し胸がときめいた。


「しかしのんびりもしていられないな。私は最期の時まで戦うと決めた。貴女にもその時まで、皆を守る手伝いをしてほしい。私は裏へ行く。シズさんは正面を頼む」

「あ……」


 そう言い残すと、ウルエラさんは人とは思えない跳躍力を見せ、家を飛び越えて行ってしまった。家の裏側に降って来た魔物に対応するためだ。


 私はこの世界に来てから、黒王族の力を手に入れた事によって、人とは思えない身体能力と、怪我をしても再生する力を手に入れた。

 でもウルエラさんは違うよね。彼女は人のはずで、黒王族ではない。じゃあその身体能力はなんなの?剣を振るうスピードも、今の跳躍力もそう。私の知っている、『人』の身体能力じゃない。この世界の人の身体能力って、割と高めなのだろうか。


 それにしても、さっきから最期最期ってなんだろう。この感じなら、最期は訪れそうにない。敵は確かにデカくて不気味で気持ちが悪いけど、私やウルエラさんの敵ではないようだし。このまま2人で戦い続ければ、少なくともこの家の中にいる人達くらいなら守る事が出来るだろう。


 ふと気づくと、周囲に暖かな空気が流れだしていた。それはこのあたり一帯を包み込み、その空気が鮮やかな藍色の光を発しだすと、リズリーシャさんの家の2階へと向かって収束していく。

 そこには、リズリーシャさんがいた。2階に設置されたテラスに立ち、何やら呪文のような物を唱えている。その手には鮮やかな藍色の宝石が先端につけられた杖が握られており、光はそこへ集まっていっているようだ。


 これは、魔法だ。リズリーシャさんが何かの魔法を発動させようとしている。


 一体どんな魔法を使おうとしているのだろう。楽しみに見学している場合ではない。

 よく見れば、リズリーシャさんの遥か上方から、あの魔物が降り注ごうとしているではないか。


「むぅ……!」


 リズリーシャさんの邪魔はさせない。私は地面を蹴り、家の出っ張りに飛び移って更にもう一段空へ飛ぶ。その先の家の屋根でもう一度踏ん張って、降って来る物に向かってジャンプ。勢いそのままに、空中で身体を翻して降って来た物を蹴り飛ばした。

 蹴りが魔物にぶつかった瞬間、殻が砕けるような凄い音が響き渡った。よく見れば、飛んでいく魔物の殻が割れてくの字に変形している。そのまま飛んで行った魔物は、遠くの建物に突っ込んで行った。その後はどうなったか知らない。


 私はその後何事もなかったかのようにリズリーシャさんの家の屋根に降り立ち、周囲を見渡す。


 高い所から見ると、それはまるでこの世の終焉のような光景だった。

 人々が化け物に襲われ、殺される。抵抗する力を持つ者も、敗れて死んでいく。逃げ惑う人々の先に、魔物が降り注いで道を塞ぐ。どうにか逃げ延びた人達も、そうして先回りをされて殺されてしまう。逃げ延びる事が出来そうな人は、ほんの一握りだけ。

 泣き叫ぶ人。諦めてその場にとどまる人。怒って捨て身の攻撃を仕掛ける人。絶望し、自害する人。こんな時にまで己が欲望に走る人。

 惨く、あまりにも醜い。コレが、人か。


 視線を変える。私の視線の先は、天へと向かう光の柱だ。

 その光の色が、変わった。光は出所から真っ赤に染まり、そこから侵食するように空に伸びる枝も赤色に染まる。


「──術者たる我が望むは絶対なる盾。最強の矛ですら弾き返す防御を望む。その盾は人知を超えた神たる力の証拠。神の力をもって今こそこの世に具現化し、我を守れ。守ってみせろ。パラデアテネ!」


 リズリーシャさんが詠唱を終えると、手にした杖が激しく光り輝きだした。その光は、真っ赤な空と対象となるような藍色で、どちらの光もとてもキレイ。

 だけど赤い光の方はとても不気味で、これから何か悪い事が起きようとしている予感を私に与える。


 赤い光が、天から地上に向かって落下を始めた。枝分かれしていた部分の光が固形物にでもなったかのように、本体から離れて落ちてくる。まるで地上の全てを飲み込むかのような光景に、それまで逃げ惑っていた人々も天を見上げてその景色に見入ってしまう。私も、そうだ。じっと空をみつめ、それが降り注ぐ姿をただただ見つめてしまう。


 降り注いだ赤い光は、この町で一番高い建物であるお城に衝突した瞬間、爆ぜてお城を飲み込んだ。飲み込まれたお城は一瞬にしてその姿を消して、消滅。破壊され、ほんの一瞬前まであった豪壮な姿が嘘のように、あとに残ったのはほんの一部の残骸だけとなる。

 それと同時に、他の赤い光たちも爆発を始めた。上空に差し迫っていた光が爆ぜて、次々と町を飲み込んでいく。飲み込まれた人々の中には、消滅せずに空高く舞い上がり、それから突然内側からふくらみ破裂する人の姿もある。どうやら赤い光は、重力をも壊してしまう威力を持っているようだ。残骸も空を飛び、上空をくるくると回りだしている。だけど残骸ももれなくその内破裂し、消え去っていく。

 その破壊は、当然同じ町、同じ光の下にいる私達にも及ぼうとしている。上空から降り注いだ光が、爆ぜて、私達を飲み込もうとする。

 けどそれは、家を守るように包み込んだ青い光が盾となり防いだ。とてつもない衝撃に襲われ、家が揺れて地面が裂ける。けど、私達は無事だ。


「くっ……!」


 杖を天に掲げるリズリーシャさんの魔法のおかげである。でもその表情は苦し気で、その理由はすぐに分かった。


 私達を守る青い光の一部に亀裂が入り、家が破壊された。家の端の方で始まった盾の破壊は、どんどん広まって大きな家が破壊され残骸が空へと浮いていく。

 家の中心部分にいる私達はまだ無事だけど、それでも危うい。


 屋根に立つ私の眼下では、リズリーシャさんにメルリーシャさんが抱き着いてその時を待っているようにも見える。ウルエラさんも、裏側にいた魔物を倒し終えてメイドさん達を守るようにして覆いかぶさっている。

 ああ、これがウルエラさんの言っていた、最期の時か。今更になって理解した。


 いつか私も、元居た世界で世界の最期を望んでいたっけ。皆、全て破壊されて消え去ればいいと思っていた。それ程までに私にとってあの世界は、住み辛い世界だった。

 もしかして、この世界にも私と同じようにそう想った人がいるのではないだろうか。その人が、この光景を作っている。だとしたら私と気が合いそうだ。


 ところでこの場合、私はどうなるのだろう。さすがにあんな破裂して跡形も残らないような死に方をしたら、復活出来ないのではないだろうか。それは嫌だな。あんな死に方、ごめんこうむりたい。そしてリズリーシャさんにもあんな死に方をさせたくはない。

 そう考えた私は、頭上で押されて私の眼前にまで迫っていた青い光を、内側から両腕で押して押さえた。


「いっ……つ……!」


 その腕に、引き裂かれるような痛みが走った。皮が破れ、肉が破裂し一部では骨が露出する。あまりの痛みに腕を引き下げたくなるけど、私は下げずに光を押さえ続ける。

 気づけばこの家で残っているのは、もう私がいる屋根の下だけだった。他の部分は青い光がなくなっており、守る物がなくなって消滅してしまった。


 私達がそうならないよう、私は青い光をとにかく押さえ続ける。必死に、全力を持って。どれくらい耐えればいいのだろう。分からないから、とにかく耐える。腕がどれだけ痛くとも、砕けようとも、私は押さえ続けた。


 やがて腕にかかる負担が段々と減って来た気がする。でも私が必死に押さえていた青い光もついに消滅し、私自身の身体も限界を迎えてしまった。私はその場にうずくまり、その後に訪れる事態を受け入れる事しか出来なくなる。


 こんなに頑張ったんだから、せめてリズリーシャさんだけでも無事だといいな。そう願いながら、私は自分の意識が離れていくのを感じる。さすがに、頑張りすぎた。腕が痛い。力も入らない。

 遠くなっていく意識を繋ぎとめる事は出来ず、私はそこで気を失った。


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