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限界


 意識が戻ると、目の前にリズの顔があった。私の愛しい、この世界で一番大切な存在。

 そっと手を伸ばしてその頬に手を伸ばすと、彼女が私の手を力強く握ってくれた。


「~~~~!」


 リズが必死に、私に何か話しかけている。でもその声が聞こえない。


 なんて言っているの?何をそんなに必死になっているの?


 ボーっとその顔を眺めていると、段々とその声が聞こえるようになってきた。


「──……ズ!シズ!おい、シズ!死ぬな!しっかりしろ!」


 聞こえてきたその声は、ルレイちゃんの声だった。

 アレ、おかしいな。声と目の前のリズの口の動きが完全にマッチしている。おかしいよ。だって目の前にいるのは……あれ。ルレイちゃんだ。


 リズが、ルレイちゃんに変わった。

 どうやら私の見間違いだったようで、少し残念に思ってしまう。


「……はぁ」

「は?なんで今、オレの顔を見て溜息ついた?喧嘩売ってんのか?」

「ち、ちがっ……違います。私の勝手な勘違いで、残念になっちゃっただけで……!」

「まぁいい。お前が無事なら、それでな……」

「そ、そうだ。私どうなってますか?どれくらい気を失ってましたか?」


 直前に、災厄の強烈な一撃を受けた私は身体がバラバラになったのではないかと思う程の衝撃を受けた。同時に痛みも全身を駆け巡り、死を悟るような状態に陥った。

 クシレン曰く死んではいないみたいだけど、私自身はそう言われなければ死んだと思って死んでいる所である。


「時間は全然経ってねぇ。お前の身体は……血まみれだ。見たくもねぇくらい傷ついてる」

「……そっか」


 私はルレイちゃんに頭を抱えられた状態で、横たわっている。その状態で目線を自分の身体へと移すと、ルレイちゃんの言う通り酷い状態だった。まず、胴体に大きな傷が出来ている。そこから血が溢れ出していて、それを見た瞬間思い出したかのように大きな痛みに襲われた。

 手足も無事なのはルレイちゃんに握られている右手くらいで、その右手もプルプルと震えている。他は指が折れていたり、やはり大きな傷が出来ていたりして、血が溢れている。


 確かに死んではいない。でも普通なら死んでいるくらいの傷はついている。


 私は不死の力を失ったはずだけど、どうやらそれなりの生命力は持ち合わせているようだ。もしかしたら災厄と同じように、ぐちゃぐちゃにならなければ死なないのだろうか。

 いや、それで生きていられる自信はさすがにない。ちゃんと、死なないようにしなければ……もう遅いか。


「う、ぐっ……!」

「お、おい、起きるつもりか!?無理だ、そんな傷で!」


 私はルレイちゃんに預けている上体を起こすと、ルレイちゃんが慌てて手を貸してくれながら訴えかけて来た。


 よく見れば、ルレイちゃんだって傷だらけじゃないか。体は泥で汚れ、あちこちに切り傷があり、出血している。


「ゆ、ユリちゃん、は?それと、災厄は?」


 更に気になったのは、ユリちゃんの安否だ。

 次いで災厄の事が頭に浮かんだ。


「ユリエスティは無事だ。お前が庇ったおかげで、ちゃんと生きてる。多少怪我はしてるけど、お前よりはだいぶマシだ。んで、災厄と戦ってる。ジルフォと一緒にな」

「ジルフォ?」

「ああ。アイツ、逃げるフリしながら隙をついて黒王族を倒す事に成功しやがって、オレ達の所に戻ってきやがった。今は災厄から厄介がられてる幻影を駆使して、ユリエスティを援護してる。嫌な奴だけど、大した奴だよ」


 ルレイちゃんは若干嫌そうな顔をしながらジルフォを褒め、その視線を空へと向けた。

 そこには竜の姿のユリちゃんがいて、どうしてそうなったか分からないけど、空高くから落下して来ている災厄に対し、炎を吐いたり、尻尾を振り抜いたりして攻撃を仕掛けている。

 攻撃を仕掛けるユリちゃんの身体もけっこう傷ついていて、空中で激しく動く事によって周囲に血を飛ばしている。痛々しい姿だ。


 ユリちゃんの背中にはジルフォが乗っており、ユリちゃんの攻撃が度々揺らいで幻影のようになり、災厄を翻弄しているようだ。


 しかしその攻撃も長くはもたなかった。災厄が反撃に転じ、真っ逆さまの状態からユリちゃんに向けて刀を振り抜いた。同時に触手が魔法を発動させ、複数の黒いトゲがユリちゃんに襲い掛かる。

 刀の斬撃は、ジルフォが作り出した偽のユリちゃんに命中し、回避に成功した。しかしトゲはユリちゃんの本体の方に襲い掛かり、その身体を貫通していく。


 攻撃によって空中を飛んでいられなくなったユリちゃんが、こちらに向かって落下を始めた。


「ユリちゃん……!」


 私はルレイちゃんの手から離れて立ち上がると、ユリちゃんを受け止めるために足を引きずりながら落下地点へと移動を開始した。


「あの巨体を受け止めるつもりか!?」

「ルレイちゃんは、ジルフォを!」

「っ……!」


 落下してくるのは、ユリちゃんだけではない。その背中に乗っていたジルフォも、ユリちゃんの背中を離れてこちらに向かって落ちてきている。


 ジルフォの方はルレイちゃんに任せると、私は落下地点で手を広げてユリちゃんを受け止める態勢をとった。

 例え竜の姿の巨体であろうと受け止める覚悟で待ち受けていたけど、途中でユリちゃんがこちらに目を向けた。そして私と目が合うと、その身体が光り出して人の姿の小さいユリちゃんに変化した。

 そして降り注いで来たユリちゃんを、私は両手で受け止めた。


「いっ……!」


 人の姿のユリちゃんでも、けっこうな高さから降って来たことによって中々の衝撃を私に与えてくれる。全身怪我だらけの私はユリちゃんを受け止めると同時に全身に痛みが駆け抜け、足は踏ん張りがきかずに地面を2人で転がってしまった。


「くっ……シズ!大丈夫か!?」

「……はい」


 転がった先で、ユリちゃんが私の上に乗ったまま顔を覗き込み、心配そうに尋ねて来てくれた。

 この小さな身体で災厄という強大な敵に挑み、そしてあちこちに怪我をしている。ユリちゃんの方こそ大丈夫かと、その身体をまじまじとみつめてしまう。


「二人とも平気か!?」


 とそこへ、ルレイちゃんが駆けつけて私達2人を抱き起してくれた。


「あ、あれ?ジルフォは?」


 そう尋ねた直後に、ジルフォが降って来た。ルレイちゃんはそちらを気にする素振りすら見せず、降って来たジルフォは地面に直撃する事となってしまう。


 ああ、絶対に死んだな。


 一瞬で彼との数少ない思い出が脳裏をよぎるも、カッコつけて髪の毛を振り上げたり、くねくねと身振り手振りをしたり、サリアさんに向かって泣きながら許しを請う姿等、情けのない姿しか思い出す事が出来なかった。


 しかし地面に衝突したジルフォは、潰れる事なくそのまま地面の中へと入っていった。正確にいえば、ルレイちゃんの影の中へと吸い込まれて行ったのだ。


「はぁ!助かりましたよ、ルレイ!」


 影の中へと入っていったジルフォが、直後に影から顔を出してルレイちゃんにお礼を言った。

 どうやらルレイちゃんは、ちゃんとジルフォを助けるための行動に出ていたらしい。彼が影の中に入れば助かる事を知っていて、動いていたのだ。


「感謝してる場合じゃねぇ。さすがにもう、無理じゃねぇか……?」


 続いて空から降って来たのは、災厄だった。降って来たというか、落下して地面にぶつかった。落ちて来た地面がつぶれて衝撃の強さを物語っているものの、何事もなかったかのように普通に立ち上がった。

 災厄はユリちゃんから攻撃を受けたところから出血しており、黒い血が地面を黒く染めている。その血の中から、手が出て来た。


 血の中から姿を現したのは、黒王族の戦士だ。5人の黒王族が新たに現れて、首を曲げたり、手首をプラプラとさせて準備運動のような行動を見せる。

 準備運動を終えると、彼等は災厄と共にこちらに向かって走り出した。


「くそっ!逃げろ、シズ、ユリエスティ!」


 唯一の利点であった、数の利も失った。

 ルレイちゃんが向かい来る彼等に向けて慌てて矢を放ったけど、回避されてそのまま突っ込んで来る。更にルレイちゃんは駆け出して、距離を詰めて矢を放つ。

 ルレイちゃんは自分を犠牲にして私達を逃がそうとしてくれているけど、無理だ。逃げるのも、逃げるための時間稼ぎも……。


 ついに、限界が来た。これ以上はどうにもならない。


 数度目かになる、死の予感を感じる。今回は色濃くて、本当にこれ以上はどうにもならなそうな予感だ。


 でもまるでその予感を吹き飛ばすかのように、背中から日の光がさし、こちらに向かい来る災厄達を明るく照らした。私の背の地平線から日が昇り、朝を迎えたのだ。


 その光は、どこか私達に希望をもたらす神秘的な魅力を秘めていた。


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