私と同じタイプ
お風呂では、不思議な石にリズリーシャさんが手を触れることによってお湯が流れ出て来た。そのお湯を使って石鹸を泡立て、髪や身体を洗う事によって2人の身体がどんどんキレイになっていく。
ちなみに誰かとお風呂に入るなんて、初めての経験だ。美しいリズリーシャさんの身体がどんどんキレイになっていく姿を、私は間近に眺めて凝視しながら目に焼き付ける。
「えへ、えへへ……」
「どうかしましたか、シズ」
思わず笑いが漏れてしまっていた。
不思議に思って振り返るリズリーシャさんの身体がまた美しくて、目を離す事が出来ない。
白い肌に、程よい大きさのおっぱい。ぷっくりとしたお尻が、一糸まとわぬ姿でそこにある。今は少し痩せすぎてはいるけど、食べればすぐにお肉がついてもっと美しくなるはず。ていうか今も美しい。それがもっと美しくなるなんて、どうなっちまうんだって話である。
「き、キレイだなって……思って……」
「ありがとうございます。でもシズの方がキレイ。思わず見惚れてしまうくらい」
私がおどおどとしながら言った事を、面と向かって真っすぐに言われ返されてしまった。率直な感想に、照れてしまう。
男にこんな事言われても、気持ち悪いだけだ。でも女の子に言われるとこんなにも嬉しい気持ちになってしまう。
「触ってもいいですか?」
「え。はうっ!?」
私の返事を待つ前に、リズリーシャさんが私のお腹に手を伸ばしてきた。そして私の肌の感触を楽しむかのように撫でてくる。
「とても良い触り心地です。お肌が信じられないくらいキレイ。胸は控えめですが、でも可愛い。食べちゃいたい」
「た、たべ!?」
衝撃的な発言に、私は心底驚いた。リズリーシャさん、なんかよく見れば息が荒くなって来て興奮してない?もしかしてリズリーシャさんも、女の子の裸を見て興奮するタイプなのだろうか。私と同じように。
だとしたらこの状況はマズイ。リズリーシャさんの身体がピッタリと私の身体にくっついていて、逃げ場がない。もしかしたら私は、今日この日この瞬間に、初体験を迎えてしまうのだろうか。その相手は、美しいリズリーシャさん。
「お嬢様。安全地帯とはいえ、もたもたはしていないでください。もし中で余計な事を始めるようなら、今すぐ引きずりだしますからね」
浴室の扉の向こうから、そんな声が聞こえてきた。どうやら先ほどの赤髪の女性が、外で私達の会話を聞いていたようだ。
「よ、余計な事など何もしません。身体を洗ったらすぐに出るから待っていてくださいっ。仕方ありません。早く身体を洗って外に出ましょう」
「は……はい……」
邪魔をされ、残念のような、助かったような……。複雑な気持ちだ。
とりあえずさっさと身体を洗い、私はリズリーシャさんと共に浴室を後にした。
服は、新しく用意してもらった。きちんと下着も用意されていて、これまでの下着抜きの生活からようやく解放される事が出来た。むしろ下着は白色のキレイな花柄の下着で、超オシャレ。こんなの前の世界でもつけたことないよ。
その上から着込んだ服も、立派な物だ。丈が長めのノースリーブのシャツを着て、それを腰のあたりで上からベルトで固定。下は短パンで、腿まであるタイプのソックスを履いてそれも腿でベルトで固定する。これだと少し腕が寒いので、上着を羽織って着替え終了。靴も新しい物を用意してくれて、ようやくボロボロの靴ともおさらばする事が出来た。新しい靴は茶色のブーツだ。履き心地、めっちゃいい。
というか全身どの服も凄く着心地がよくて、良い素材が使われているんだなと分かってしまう。
一方でリズリーシャさんも見違えた。上下一体のワンピースの服を着込んだリズリーシャさんは、足首までスカートが伸びて隠している。その上から上着を羽織り、お腹でベルトを止めて固定。後ろを見ると上着の先が3つに分かれていて、動くたびにそれぞれが躍動して可愛い。彼女もまたブーツを履きこんで、裸足ではなくなっている。
ちなみに傷ついたリズリーシャさんの足は、赤髪の女性が魔法で治療してくれた。
更にちなみに、リズリーシャさんの下着はネグリジェタイプの下着を着込んでいる。色は私と同じ黒色。銀髪と白い肌に映えて、とてもキレイな姿だったよ。
服を着た私とリズリーシャさんは、ある部屋に連れてこられた。窓のない部屋で、外界から遮断された部屋だ。そこにはリズリーシャさんのお母さんと、赤髪の女性もいる。
彼女たちも今は下着姿ではなく、服を着込んでいる。お母さんの方は赤色のドレス姿で、赤髪の女性の方は鎧を身に着けた、その凛々しい見た目と喋り方に見合った騎士のような姿だ。
「まずはよく無事に脱獄出来ましたね。町もまだ騒ぎにはないっていないようですし、とても上手に逃げる事ができたようで母は感心です」
「こちらのシズのおかげです。シズがいなければ、私は今頃生きているのもおぞましく想うような酷い目に合っていた所です」
「それは感謝しなければいけませんね。ですがタイミングが悪い。貴女を心配し、憂うウルエラを可愛がるのはとても楽しかったのに……」
「お、奥様……!」
「可愛かったですよ?泣きながら、まるで赤子のように私のおっぱいに──」
「奥様!」
赤髪の女性が、怒鳴るようにお母さんの言葉を遮った。
今の言葉は、2人の関係を表している。それはつまり……抱いて抱かれて、なんか色々とくんずほぐれずするような関係だ。
想像して、自分の顔が赤くなるのを感じる。赤髪の女性も、顔を隠している。
しかしリズリーシャさんとそのお母さん親子は、優しく微笑むだけで全く照れていない様子だ。なんか、そこには慣れを感じる。
「冗談はさておき、娘のリズを救っていただきありがとうございます。心からお礼を申し上げます。それにしても可愛い子ですね、リズ」
「ダメですから」
「少しだけでも」
「ダメです」
「……残念です」
この親子のやり取りがよく分からない。何がダメなのだろうか。誰かに教えてほしくて、赤髪の女性を見る。
でも赤髪の女性は顔を赤くするだけで、目をそらしてしまった。
「申し遅れましたね。私の名前はメルリーシャ。そちらはウルエラと申します」
自己紹介に対し、私はペコリと頭を下げて会釈する。既に私の名前は紹介されているので、言う必要はないはずだ。
「それで、単刀直入に聞きますが貴女達はこれからどうするおつもりですか?」
「シズと一緒に、町から逃げます。それにあたって、出来れば資金的な援助をしてもらえると助かります」
「それは勿論。いくらでも持っていきなさい。ですが良いですのか?追われる身になれば、その先に待つのは苦難の数々。耐え難い苦しみが待っているかもしれないのですよ?」
「……母上。この国はじきに亡びると思います」
「何故ですか?」
「今の王政は、堕落しきっている。この世の人々を苦しめる災厄を打ち滅ぼすための研究が、もうじき完成しそうだったのに邪魔をして、しかもその研究者たる私を処刑しようとしたのですよ。己の醜い嫉妬心にかられ、己の欲のままに行動する者がいて、その者の言う通りに動く王……その先に待つ未来はもう見えています」
「……」
メルリーシャさんは静かに目を閉じ、少ししてから静かに頷いた。
「今の王政に対し、私も思うところがあります。他の貴族達も、不満を口にしてそれを隠そうとしない所まで来ている。この国の最期は、恐らくそう遠くはないでしょう。私も、そう遠くない内にこの国を出ようと思っています」
「母上も、ですか?」
「ええ。お義父様が守ろうとした国、カルスペロナ王国は、もうありません。貴女は早くこの国から逃げ、逃げた先で自由に暮らしなさい。私もすぐに後を追います」
「はい。……ところで、父上はどこに?」
「グラハムは貴女の無実を晴らすため、サレンド村に行っています」
「あ、あそこには災厄の欠片がいるはずですよ!?いえ、ですが」
リズリーシャさんが、私の方を見てくる。その意味が分からず、私は首を傾げた。
「危険は承知です。貴女の無実を晴らすため、彼なりに必死に動いているのですよ」
「……」
リズリーシャさんが、歯を食いしばった。その表情はとても悔し気で、後悔の念を見る事が出来る。
彼女は最初、家に戻って家の人達に見つかるのを嫌がっていた。自分を見捨てた者達に見つかるのが嫌だったのだ。でも本当は、誰も彼女の事を見捨ててなんかいなかった。リズリーシャさんの勘違いだ。彼女は皆から、ちゃんと愛されている。
それを前にして、私はつまらないと思った。こんな茶番、私は望んでいない。
まぁコレは嫉妬だ。家族に恵まれなかった私の、醜い嫉妬。だからこの気持ちは胸の中にそっとしまっておく。
気持ちをごまかすために、部屋の周囲を見渡した時だった。壁に飾られている肖像画が目に入った。そこにはおじさんがキリッとした表情をして描かれているのだけど、その人物には見覚えがある。
「……あ、あの人、誰ですか?」
「私の夫、グラハムです。ユーリスト家の当主であり、リズの父でもあります」
指さして尋ねると、メルリーシャさんがそう答えた。
その答えを聞き、私は顔を伏せる。私はあの絵の人物を、この世界に来て一番最初に見た。彼は素っ裸の私を見て歓喜し、私に向かって手を伸ばしてきたけど化け物の手によって殺されてしまった。そのシーンを、私は目の前で見ている。
他人の空似の可能性もあるけど、でもたぶん、同じだ。
「シズは父に見覚えがあるのですね。教えてください。父はどうなりましたか?」
「え、えと、その……」
特に言うつもりはなかったんだけど、リズリーシャさんが全てを察したかのように尋ねてきた。そうなるともう、隠すのは不自然となってしまう。
「……化け物に、こ、殺されて……死にました」
私の返答を聞いたリズリーシャさんの表情が、一瞬だけ曇った。でもすぐに元通りになり、前を向く。
「……やはり父は、辿り着いたのですね。そして私が作り出した魔法を発動させ、シズをこの世界に呼んだ……本当に、バカで不器用な人です」
「どういう事ですか、リズ」
一人だけ察したように呟くリズリーシャさんに、メルリーシャさんが解説を求めた。私も是非、私がこの世界に呼ばれた理由を聞かせてもらいたい。
解説を求めるように、リズリーシャさんを見つめた。