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災厄に怯える世界で、夢見る少女と。  作者: あめふる
一章 災厄に怯える世界
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穴に落ちた

久々の連載です。


 私の名前は、『天神 静(あまがみ しず)』。どこからどう見ても普通の女子高生。

 突然ですが皆さんは、女子高生と聞いてどのようなイメージを持つでしょうか。明るくてきゃぴきゃぴとした、可愛い女の子?放課後は同じ女子高生と町に繰り出して、お買い物をしたり?はたまた部活動に精を出して、スポーツに青春を捧げていたり?或いは男の子と恋愛をして、イチャイチャとしたり?女子高生と聞くだけで、様々なシーンがイメージ出来てしまう。


 ちなみに私はそれらのどれにも当てはまらない。

 黒髪を三つ編みに結び、黒縁眼鏡をかけている。スカートの丈も不意にパンツが見える事のないひざ下まで伸びていて、周囲の男からいやらしい視線を向けられる事はまずない。私の場合胸も小さいので尚更だ。こんな地味な女子高生を、好んで見学するような人はまずいない。見学するならスカートの短い女子高生に限る。

 ちなみに私は女子高生なので、同じ女子高生のパンチラをよく目撃してしまう。不可抗力な所もあるけど、わざと消しゴムを落として拾う時に視るパンツも素晴らしい。あと着替えの時の下着姿もみ放題で、そこは女子高生としての役得だ。羨ましいでしょ。

 女子高生はいいよ。男なんかよりも可愛いし、男なんかと違ってやらしい視線も送ってこない。


 お察しの通り、私は男よりも女が好きで、恋愛ゲームも男性向けの物をプレイしてグヘヘってしてる。


 こんな性格が生まれてしまったのは、きっと私の生活環境もあるのだろう。両親が早死にしてしまい、預けられる事になった叔父の視線がとにかくやらしくて気持ちが悪いのだ。その視線を避けるように私は地味な身なりを好むようになり、また男が嫌いになって気づけば女好きになってしまっていた。

 実際この地味な身なりになる前は、見知らぬ男に襲われそうになった事もあるんだよね。その時はなんとか逃げて無事だったけど、怖かった。

 叔父と、見知らぬ男のせいで私は男が嫌いになってしまったという訳。ま、別に恨んではいない。むしろ感謝したいくらい。だって女好きじゃなかったら、今の環境を楽しむことが出来ないでしょう?


 とはいえこの地味な見た目と、あまり社交的でない自分の性格のせいで、仲の良い可愛い女子高生の友達という存在がいないのは少し残念だ。


「天神さん。今日うちらこの後カラオケ行くんだけど、よかったら来る?」

「ご、ごめんなさい。帰ってご飯を作らないといけない、ので」

「そっかぁ。毎日大変だよねぇ。……ごめんね。また誘うから、その時は一緒に行こうネッ」


 授業が終わって放課後になると話しかけられ、せっかく遊びに誘われても目も合わせず断るせいで、友達もいない。コレは私が悪い。むしろ孤立した私を虐めなどせず、こうして積極的に話しかけてくれるいい子達だらけである。そして可愛い。

 こんな可愛い子達と密室で過ごすとか、どれだけ楽しい時間となるだろう。色々な想像がはかどる。

 でもさ……カラオケって何!?みんなの前で声を出して歌う所だよ!?こわっ!そんなの絶対無理無理絶対行けないし!

 という訳で無理。


「……」


 帰ってご飯を作ったら、恋愛ゲームの続きをしよう。ゲームはいい。女の子は可愛いし、皆の前で歌う必要もない。皆が私を愛してくれて、私だけを見てくれる。


 癒やしを求めて私は教室を後にする。その際、不意に男の子とぶつかってしまった。


「おっと……わりぃ」


 謝られたけど、あまり悪いと思っていなそうだ。それだけ言い残し、さっさと行ってしまった。むしろ、ぶつかった相手の私を見て少し嫌そうな顔をしたのを私は見逃さない。

 こちらは全く悪くなかった。曲がり角を確認もせず勢いよく曲がって来た相手に非がある。私は気づいて立ち止まっていた所に、相手がぶつかって来た。


『ちょっと待たんかいゴラァ!何様のつもりだテメェ!謝る気があるなら地べたに額つけて、指の一本を切り落とすくらいの誠意を見せんかい!』


 と、私にぶつかっておいてそそくさと去っていたクラスメイトの男に向かい、私は怒鳴りつけた。


 心の中で。


 現実でそんな事を怒鳴る勇気、私にはない。


「……はぁ」


 小さくため息を吐いて、私は歩き出す。学校を出て、向かうのは近所のスーパーだ。家のご飯は、基本私が作っている。クラスメイトには偉いね、なんて言われるけど、そうじゃない。押し付けられているだけ。

 あの人達は、私の両親の遺産目当てで私の身柄を預かっている。あの人達とは、勿論今の私の両親の事だ。家にいたければ家の家事をやって少しは役にたてと、そう言われて仕方なくなっているんだよ。


 たまに、全てを投げだして逃げ出したくなる。

 誰か私を、こんな世界から連れ出してくれないかな。そんな甘えた気持ちを胸に空を仰ぐ。

 でも空にはなにもない。私にヒーローは訪れない。こんな生活から解き放ち、どこへでも連れて行ってくれる……悪を倒し、正義を貫く救世主。憧れるけど実際にそんなものはこの世に存在しない事は、とうの昔に理解して諦めてしまった。


 ならば自分の力でどうにかすべきなのだろうけど、いかんせん私にはそんな事をする力も勇気もない。


 ……現実を見よう。そう思って視線を空から前方に移す。


「えっ……?」


 その時だった。突然足元から地面がなくなった。地面がなくなった事により、私は落下し始める。


 ──穴に落ちた。


 でも何故こんな穴が道にある。もしかしてマンホールの蓋が外れていたのか?


 ……違う。違う。

 私が落ちた穴は、下水に繋がる穴ではない。その穴は地面にあいているのではなく、空間に開いていた。慌てて壁を掴んで落下を止めようとするが、その手は空をきるばかりで落下は止まらない。その内に上も下も分からなくなった。落ちた穴を見上げようとしてもそこにはもう何もなかった。どんどん、どんどん真っ暗闇に包まれて行く。

 助けを求める声を出そうとしても、声は出なかった。


 ああ……そうか。私は今この時、地獄のような生活から解放されたんだね。 


 どういう事かよく分からないけど、そんな気がした。


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