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お姫さん  作者: ぺんなす
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触れてほしい

最近、一之瀬さんが変だ。


「ただいま」

「おかえりお姫さん」

おかえりを言ってくれた一之瀬さんは、すぐにドアの方へ向かった。

「……どこか行くの?」

「うん。ちょっと仕事があってね。でも夕飯は一緒に食べるから安心して。じゃあ、少しだけ出てくるね」

「…うん。いってらっしゃい」

「行ってきます。お姫さん」

そう笑って出かけてしまった。

やっぱり変。手を握ってくれない。頭を撫でてくれない。

───抱きしめてくれない。

いつもなら帰ってきてすぐ抱きしめてくれた。頭も撫でてくれたし、ずっと手も握ってくれた。それなのに……最近は全部無くて……私…………嫌われたのかな……。

真っ暗な部屋に一人うずくまる。少し開けた窓から、冷たい風が入って頬をかすめた。伝う涙も冷たくて。

寒いよ一之瀬さん……─────。



ふぅ…少し遅くなっちゃったな。お姫さん、少し元気がないように見えたから、早く帰りたかったんだけど……。

「ただいま」

その言葉の後にいつも聞こえる声はどこにもなくて。

「お姫さん?」

リビングにいないとなると、部屋にいるのかな。いつもならすぐにおかえりって言ってくれるのに…。

お姫さんの部屋に向かおうとすると、ドアが開いた。

「……おかえり…一之瀬さん…」

やっと名前を呼んでくれるようになったお姫さんが、また一之瀬さん呼びになっていた。

「ただいまお姫さん」

平静を装って笑ってみせた。けれど、お姫さんの顔はすごく暗くて

「お姫さん…どうしかしたの?」

「……最近抱きしめてくれなくなった。頭も撫でてくれないし…ねぇ、どうして?」

「……!」

泣きそうな目で見つめるお姫さんの姿に胸が締め付けられた。けれど触れるのはまだ怖くて。もし、歯止めが効かなくなったら──────。

「嫌いになった…?私のこと……」

「! 違うよ、お姫さん。君を嫌いになるなんてありえない」

「じゃあ……どうして………」

「……お姫さんのことが大好きだから、だよ。好きすぎて…制御が効かなくなって、おかしくなったら…そうなったら、きっと…お姫さんを傷つけてしまう。それだけは絶対に嫌なんだ」

お姫さんは俯いたまま、しばらく沈黙が続いた。

その時間がすごく長く感じて、不安が一気に広がった。

「おかしくなったらダメなの?……一之瀬さんは、私のことが好き…なんだよね?」

「うん、もちろん。大好きだよ」

「好きすぎるのは、いけないこと…なの?」

お姫さん……そんな風に見つめられたら……俺───っ、ダメだ。我慢……しないと。

「…いけなくは、無いと思うけど……やっぱり、だめだよ。君を守るためにも」

「……私が嫌だって言っても……?」

「え?」

嫌だって、言っても────?お姫さん、そんなこと言ったら

「ためらってほしくないって言っても、ダメなの?」

「……!」

ダメだよ、お姫さん。俺はただ───君を失いたくない。ただ、それだけで……。

「私は、一之瀬さんにならなにされてもいい。それに……ほんとに嫌なことはしないでしょ?」

「そんなの、当たり前だよ!でも……俺は、怖いんだよ。君に嫌われるのが。君が離れていなくなるのが…すごく、怖い……。どこまでなら触れていいのか分からないから」

だから、ずっと…我慢していたんだ。

それなのに───君が……

「離れないし、いなくならないよ」

君に、そう言われたら…俺は────。

「……お姫さん─────」

たまらなくなってお姫さんを抱きしめた。

「嫌ったりもしない。だって私たち……お互い大好き同士なんだから、なにがあっても大丈夫」

お姫さんが抱き返してくれて、少しだけ心が落ち着いた。

「不思議だな、あんなに触れるのが怖かったのに、お姫さんが大丈夫って言ってくれたから…もう、怖くない」

「……もう躊躇わないで。絶対に」

「大丈夫。もう我慢しないし、躊躇わない。そのほうが君を傷つけないって気がついたから」

「よかった。私の気持ちちゃん届いて」

「もちろん届いてるよ。……お姫さん、本当にごめんね。君のためだって思ってたのに、傷つけてしまって……」

少し前に見た泣きそうなお姫さんが頭によぎった。

あんな顔……もう二度とさせないって誓ったはずなのに。

「そんな顔しないで。寂しかったけど、今はちょっと、嬉しいから」

「嬉しい?またこうして抱きしめ合えたから?」

「それもあるけど……深也さんが私のことすっごく大好きみたいだから。こんなに思ってくれてるの改めて知れて嬉しいな…って……」

頬を染めたお姫さんが、また…名前を呼んでくれた。もう呼ばれなかったらどうしようって…不安で、俺が泣いちゃうところだったけれど。よかった……本当に、よかった。

「ふふ。お姫さん…俺の気持ち知れて嬉しいんだ」

「うん。ちゃんと知ってるけど、その……寂しかったから、いつもより嬉しくて……」

「俺も、今すごく嬉しいよ。名前……また呼んでくれて、すっごく嬉しい」

「…寂しかったんだから…………。もう、やめてね…」

「わかってるよ。だって俺たち両想いだもんね?」

「うん」

俺を見上げたお姫さんは頬を少し赤く染めていて。

あぁ、お姫さんはどうしてこんなに可愛いんだろう。

もっともっとお姫さんに好きだって伝えてもいいんだよね。お姫さんの言う通り、俺たちは両想いなんだから。

「……ねぇ、お姫さん。どんな俺でもそばにいてくれる?もっとお姫さんを抱きしめて、手も繋いで。頭もたくさん撫でて…そんな俺でもそばにいてくれる?」

弱い俺を見せたってお姫さんはそばにいてくれた。

「うん。一緒にいる。あなたといたい」

それはきっとこれからも変わらないんだ。臆病になりすぎてそんなことにも気づかなくなるなんて、お姫さんといなきゃ一生知らなかったな。ありがとうお姫さん。君のおかげで俺はもっとお姫さんを愛せるよ。


「お姫さん」

「ん?」

「この先の未来でもっと君に触れて、たくさん甘やかして、愛してもいい?」

「……! うん。たくさん愛して。これから先もずっと」

「愛してるよお姫さん。この先もずっと」

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