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妻から三行半の置き手紙……これ、どういう意味なんだ?




恵汰(けいた)との

 

 其方義、此度離縁したく候

 此後、再縁随意するへき事

 此方にては、少も差構無御座候

 依而如件


            海夜(みよ)




 長時間の残業後、フラフラになりながら朝方家に帰り着いた。

 スーツを脱いでソファに放り投げ、なんとなしにダイニングテーブルの上を見た。

 ぽつんと置いてある手紙。

 それを開いて、脳が停止したような気分になる。

 

「…………読めねぇ」


 驚くほどに意味がわからない。

 なんで筆ペン書き?

 古文とか懐かしすぎて記憶の片隅にもない。

 いや、拾える単語はある。


 『離縁』、離婚だろこれ……。

 『したく』、離婚をしたい、と?

 『再縁』、再婚とかそんな意味だな?

 『随意』、思うままにとか、自由にとかだろ?

 『御座候』、まんじゅう?


 つまりは………………え?


「離婚したいぃ!?」


 え、まじか!? 何で!?

 ……いや、思い当たる節が多すぎるな。


 会社で新たなプロジェクトが立ち上がり、夜中や朝方まで帰れないことが増えた。今日もソレだ。

 時々はプロジェクトメンバーに相談されて、急遽飲んでから帰ったり。

 用意してくれているご飯に手をつけないこともしばしば。

 

 たったいま脱ぎ散らかしたスーツを見る。裏返ったシャツと靴下。

 これいつも怒られるんだよな。


 やばいなぁと思いつつ時計を見る。朝五時。

 どうしようかと悩みつつもLINEを送ってみる。

 既読にはならない。


「電話……」


 履歴から妻の名前を選び、押す。

 プルルと機械音が耳元で鳴っている。

 なぜか少し遠くでもジリリリンと機械音が…………って、これ海夜(みよ)の着信音じゃん。寝室で鳴っているのか。

 なぜか黒電話の音なんだよな。音楽とかにすればいいのに。


 スマホを置いて出てったのか。

 連絡を取りたくないほどだった?

 俺、そんなに見限られてたんだ?

 どこに行ったんだろうか。

 実家? 友達の家? ホテル?


 華やかに飾られた玄関内、綺麗に掃除されたリビング、いつでも整えられているキッチン、俺の好きな飲み物が必ず入っている冷蔵庫。


海夜(みよ)…………」


 妻はいつも柔らかに笑い掛けてくれていた。そのはずなのに、妻の顔が思い出せない。

 最近、妻の顔を見ただろうか?

 飯を食いながら、何かを話しただろうか?

 

 ぶわりと浮き出た脂汗と、溢れそうになった涙。

 寝室に飛び込んで焦りながら服を着た。


「んあー? あ、おけぇりー」

「…………………………へあ?」


 くしくしと目元を擦りながら、ベッドから起き上がった海夜(みよ)

 

 ――――いたのかよ!




「あはははは! ごめんごめん!」


 時代劇を見ていたら、三行半(みくだりはん)の手紙が出てきたらしい。元々は夫が妻や妻の父親に『離婚成立しました』の報告の手紙だったとか。


三行半(さんぎょうはん)で簡潔にかけるものかなぁと思ってさぁ」

「なんだよぉ…………遊んでただけかよぉ」

「んー? さぁて、どうだろうね?」

「え…………それ、どういう………………え?」


 ポカンとしてたら、妻がくすくすと笑い出した。


「惰性で一緒にいるのかと思ってたけど、違ったみたいね? 少し、ホッとした」

「っ…………」


 ホッとしたと言ったときの妻の顔は、凄く寂しそうだった。あの手紙は、半分かそれ以上は本気だったのかもしれない。

 朝ごはんをパクパクと食べ続ける海夜(みよ)をジッと見た。


海夜(みよ)」 

「んー?」


 箸を置いて、頭を下げる。


「ごめん」

「へ?」


 妻の目を見て、ちゃんと伝えよう。


海夜(みよ)……その、あー…………っ、あいしてます」


 肝心なところでゴニョゴニョしてしまった。

 こんな時にだけ言うなんて、また怒らせそうだよなぁと思った。でも伝えたかった。


「っ――――」


 妻の顔がみるみるうちに赤く染まっていき、涙目でプイッとそっぽを向いてしまった。

 やっぱ怒らせたよな……。


「たまには…………一緒に出掛けたい」

「っ! ん! あぁ! うん!」


 前のめりで返事したら、妻がクスクスと笑い出した。

 



 心もち本気の三行半(さんぎょうはん)三行半(みくだりはん)を突きつけられたが、どうにか離婚にはならずに済んだらしい。

 これからは、妻にちゃんと伝えたり、話し合ったりしよう。

 取り敢えず、脱ぎ散らかした服から片付けを始めた。




 ―― 終 ――




閲覧ありがとうございます。

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