短編
1
うれしいことがあると、おそそわけしたくなるものだ。
さあ、なにがほしい?
真っ赤なドレスがいいかな。
君の血で染めたドレスがよく似合う。
2
他人の不幸は蜜の味。
見ている方は、痛くないから。
他人の幸福は、面白くない。
見ている方は、つまらないから。
なら、自分の不幸は、どんな味?
3
「姫様、さすがでございます。よくぞ、見破られました。この二人は宝物庫から大事な宝を盗み、それを、あろうことか、売り捌こうとしておりました」
「よいよい、この妾の瞳は、真実を映す。妾の前では、嘘はツケぬわ」
「いやいや、さすがでございます。亡き、父上様も、さぞや、お喜びでございましょう」
「おい。いま、妾に、嘘をついたな……」
「いいえ、そのようなことは……」
「嘘を言うでない! そなたは、妾に嘘をついた。おい、衛兵、このモノを、打ち首にせい!」
「姫様! お待ちください! わたしくは、神に誓って、そのようなことは!」
「えい! うるさい! うるさい! だまらんか!」
「ひめさまぁああああ!」
男は、姫様に嘘をつき、打ち首となった。
「お姫様、たいへん、似合っておられます」
「そうであろう、妾に、ピッタリな服である」
「さすが、姫様。……姫様は、スタイルがよく、なにを着ても、よく似合います」
「おい、いま、妾を笑ったな……?」
「いいえ、けっして、そのようなことは……」
「えい、だまれ! 妾には、わかる。そなたは、心の中で、妾をコケにした!」
「姫様! お許しを――っ!」
召使いは、姫様によって、その場で斬り殺されてしまった。
「おお、これは、見事な壺だな。妾の部屋に、ピッタリである」
「お気に召し頂き、まことに、嬉しいかぎりでございます」
「して、この壺は、いくらだ?」
「こちらの品は、遠い異国の地から、取り寄せたものでございます。値が、少々高くなっておりまして……」
「えい! もったいぶらずに、はよ、言わぬか!」
「資産の三分の一でございます」
「そんなに? する、ものなのか?」
「はい、それほど、高価な品ですので」
「うむ。しかたない……」
「では!」
「そなた……いま、妾に、嘘をついたな」
「いえ、そのようなおこない」
「だまれ! 高価な品と言って、妾を騙そうとした。その罪、死罪に値する」
「姫様、何かの、御戯でしょうか……」
「そう、思うなら、そう思っているがよい」
その日、商人は火炙りによって焼き殺された。
ある旅人が、姫様の前に現れる。
「ほう、これが魔法の鏡……なんと、美しい」
「姫様、わたしが持つ魔法の鏡は、真実のみを映し出します」
「ほう、面白い。では、それを試すのも、また一興よ。鏡よ、この世で一番美しのは誰だ」
鏡には、ボロボロの服を着た。少女が映った。
それを見た姫様は、激怒する。
「なんだこれは! ただの小汚い、スラム街の娘ではないか! えい! 妾に、嘘の真実を見せたな!」
旅人は、答えます。
「いいえ、姫様、この鏡は、真実だけを映します。その少女は、間違いなく、この世で一番美しいお方です。そして、わたしは、この少女こそが、この国の次の姫様になられるお方だと、神からお告げを受け、ここに来たのです」
「えい! 嘘をつくな! 妾に嘘をついたな! そなたを、海に沈め魚の餌にでもてやる!」
「では、失礼ながら。姫様は、本当に、真実が見えているのですか? わたしの目には、とても、そうには見えません。もし、姫様の嘘によって、多くの命が奪われたのなら、その罪は、自らの死で償わなくてはなりません」
「えい! そなたは、妾を試そうというのか!」
「はい、そうでございます。人を疑うことは、それほど罪深いものなのです。ましてや……嘘を真実と言い張るなど、もってのほか」
「だまれ! 妾をコケにしよって、もうよい。そなたは、打首じゃ! その首を大衆の面前で、晒してくれる! おい、衛兵! この者を捕らえよ」
衛兵は動かない。
「おい、どうした! 妾の命令が聞かぬというのか!」
「姫様、あなたの言葉に耳を貸す人はいない。もう、おわりです」
「えい! ふざけるな! ようやく、手にした妾の国を」
姫は衛兵に取り押さえられ、大衆の面前で、打ち首になった。
旅人は、家臣から、一生遊んで暮らせるお金を受け取った。
4
一千年、生き続けた。ただただ、時間が過ぎていく。
死ぬことはできない。
この身は、死ぬことを許してくれないのだ。
歳は取らない。
永遠の若さ。
そんな人生、羨ましいか?