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禁忌の術、再生記

「ようこそ、勇者様。貴方が来るのを、ずっと、お待ちしておりました」


 黒いローブを(まと)い、仮面で顔を隠した者。

 ここからでもわかる。重圧とした重苦しい空気、うなじの辺りが、ひりひりと痛みが走る。


 ただ者ではない。


 みんな、それを理解したらしく。僕たち勇者一行パーティーは、目の前の圧倒的な存在に、逃げ腰になっていた。


 仮面の者は、立っている。ただ、それだけなのに、もう負けた気になってしまう。


 そういえば、と思い出す。


 達人同士の戦いでは、戦う前から、すでに勝敗がついているという。(イマジネーション)頭の中で、実際に戦闘を行うのだ。これは、シャドウボクシングに近いかもしれない。


 達人同士は、まず、目でお互いの間合いを測ることをする。

 相手の間合い、ぎりぎりの線――デッドラインに踏み込んだ瞬間、閃光にもにた火花が脳裏をよぎる。


 その刹那。


 首が付いている方が勝者で、付いていない方が敗者になる。


 ゆえに、勝敗は、戦う前から、すでに決しているのだ。

 

 達人同士は、そういったことから、無駄な争いはしない。一見、臆病風に吹かれたように見えるかもしれないが、実力が拮抗(きっこう)していない相手に挑むのは、ただの無謀、無駄死にするのと同じことである。


 その心得がない、冒険者は数多く見てきた。

 そして、みんな死んで行ったよ。生き残るのは、ほんの一部の実力者たち。その中でも、生きる伝説、マスタークラスのメンバーがここに集まった。ただ一つ、魔王を倒す、その望みのために……。


 だが、どうだろう。


 マスタークラスが集まっても、このザマだ。ここにいる、みんなが一斉にかかっても、勝てる気がしない。


「どうしましたか? そんな怖い顔をして、(わたくし)を打つ、そのためにはるばる遠い地から、ここまで来たのでは、ないのですか?」


「ああ、そうだ! お前のせいで、多く人間が死んだ、なぜだ。なぜ、戦争を起こそうとする?」


 大剣を向け、大男が怒りの目の色をして、声を荒げる。


 そうだ。僕たちは、戦争を止めるために来たんだ。


 僕たちの世界では、人間と魔族が、戦争を行なっていた。

 ある日、突然、魔族が襲って来たのだ。


 この国――随一を誇る王国が、たった一夜で滅びた。

 魔王軍が、突如、前触れもなく現れたのだ。

 そこには、二つの悪条件が重なった結果である。

 まず一つ目は、これが夜間に行われた奇襲だったこと。人間側は防具も付けず、戦う準備を一切していなかった。


 そして二つ目は、魔族は夜になると気性が荒くなること。


 人間の子供と同じぐらいの身長もつ低級兵のゴブリンであっても、夜間には、クマ三頭ぶんの力に匹敵する怪力を発揮する。


 ゴブリンの戦闘スタイルは、怪力にものをいわせたもので、人間の首を引きちぎり、全身に生き血を浴びることに、この上ない喜びを感じるようだ。

 とくに、小さな子供の首を好む傾向があり、夜間絶叫の中、小さな首が、いくつもお手玉のように宙を舞ったという。


 仮面の者は、知りたいのは、当然であろうと、うなずく。


「まずは、これを見てくれ。話はそれからだよ。勇者一行」


 突如、マスクのような仮面を取る。そこに現れたのは。


「これを見て、どう思う?」


「おいおい、なんの冗談だ」


 大剣の大男が、鋭い眼差しで言った。


「そんな」


 聖女が、両手で口を覆う。


「にんげん」


 賢者が、つぶやいた。


 そう、魔王の正体は、僕たちと同じ()()()()()だったのだ。


 見た目で言えば、15くらいか……。


 だが、これは、たかだか、15年生きた少女が出せるようなオーラではない。


 もっと、いえば、1000年という長い時間。


 膨大な時間の中で、人生を歩んだ者にしか出せない貫禄のようなものが、この少女から感じられた、というのが素直な感想である。


「まさか、魔王の正体が、人間だったとはな」


 だが、疑問に思う。


 なぜ同じ人間が、魔族の王とになり。同族――人間を滅ぼそうとするのか。


 心を読んだのか、魔王が答える。


「私は、こことは違う世界、日本と呼ばれるところから来ました。この世界に伝わる、禁忌の術によって、召喚されたのです」


 禁忌の術。

 たしか、違う世界から、この世界に、他の人間を呼び寄せる召喚術。だがあれは。


「そうです」


 魔王が、こちらを見て、深くうなずいた。


「禁忌の術は、未完成だったのです。召喚された者に、何かしらの災いが降り注ぎます。私の場合は、時間です。この見た目と、実際の実年齢は違います。ここに来て、すでに1500年は経過しています。そして、長い時間の中で、私は待っていました」


「何を?」と僕。


「貴方たちが来るのを」


 みんな、首を傾げた。


「私は、長い時間の中、この身にかかった災い。呪いを解くための方法を探していました。いろんな書物を漁り、禁術にも手をつけました。その産物が、魔物兵です。彼らは、私が創り出した人形。土と水で練り上げ、そこに、ありったけの魔力を注いで作ったものです。命令一つで、何でもしてくれます。気性が荒いのがネックですが」


 魔王は、笑みを浮かべる。


 何が、そんなに面白いのか。


「そして、見つけたのです。これでやっと、解放されると、その時は喜びました。ですが」


 だから、何だというのだ。それで、どうして人を殺すという選択肢になる。話についていけない。理解に苦しむ。


「それには、人柱が必要だったのです。同じ境遇の者、その条件を満たした者のみ、この苦しみから解放される」


 オカルトか、何かか。話がおかしな方向に進んでいるぞ。


「そうです、私は同じ境遇――勇者を待っていました。この世界では、不思議なことに、世界の危機に陥ると、どこからか勇者が現れるという、言い伝えがありました。私は、それこそが、同じ境遇の者、禁術で呼び出された。存在であると、気づいたのです。その存在は、数ある書物の中から、すでに答えを得ていました。そして、今日――ほんとうに長かった。待っていましたよ。勇者アルフ。日本にいた時は、橋山透と呼ばれていたそうですね」


 背筋が、ゾワッするような感覚が押し寄せてきた。


 なぜ、僕の名前を知っている。


「何でも知ってますよ。ずっと、貴方のことを見ていましたから……」


「みんな! にげ……!」


 何だこれは、声が出ないぞ。それに、鎌縛りにでもあっているのか、身体が動かない。


「ずっと、アナタを待っテぃまシた」



 魔王は、手を払うと、マスタークラスの仲間全員、跡形もなく消し炭になった。嫌な匂いが鼻に残る。

 そして。

 魔王が僕の目の前にいた。そして、鋭利な刃物のような手刀が、首を跳ね飛ばした。


 まったく。見えなかった。


「今度は、アナタの番ですよ。私の代わりに、魔王として、余生を楽しんで下さい。大丈夫です。お仲間も一緒ですから、すぐに会えますよ。武士の情けというヤツです。寂しい思いはしないはずです」


 混沌とする意識の中、邪悪に笑う声が、耳から離れなかった。


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