最強の殺し屋
今宵は、月が綺麗だ。
せっかくのパーティーが血で染まるのは、少し残念だが。いたしかたない。
これも仕事だ。運がなかったと思って、諦めてくれ。こんな日もある。そう、粋なことを言うのは、俺の宿痾だ。
そんな俺は、殺し屋だ。
金さえ積まれれば、殺し、誘拐、強盗、人探し、人生相談、猫探しだって受け持つ(積まれる金額にもよるが)。まあ、殺し屋なってみんなそんなもんだ。これじゃあ、何でも屋じゃねぇかって言う、ツッコミは、無しにしてくれよ。
生きるためには、金が必要なんだ。
三途の川を渡るのにだって、金がいるんだぜ。
ほんっと、現金な世の中だ。
俺は、ただ、その三途の川を渡るための、駄賃を稼ぐために、仕事をする。
黒いスーツケースから、折り畳み式の銃を取り出し、手際よく組み立てる。すると、本来の形に戻った。
今日は調子が良さそうだな……相棒。
黒く光るスナイパーライフが、早く獲物をよこせと、催促してくる。
仕方ない、俺は腹ペコの相棒に銃弾を食わせてやる。
さあ、仕事の時間だ――
スコープで覗き込み、ターゲットを確認する。
そして、パーティーの開演の合図、その狼煙が上がった。
派手に、ぶちまける。
そして、すかさず、次の銃弾を与える。
無感情に、引き金を引き続けた。相棒は、高鳴り、徐々に熱を持ち始めた、このままでは、こっちが火傷しちまう。
どうした、相棒。
今日は、やけに、ご機嫌じゃねえか。
銃声がするたびに、人が倒れる。
ひとり。またひとり。真っ赤なケチャップを撒き散らしながら、つぎつぎと。そろそろ頃合いか。
まだ、食い足りない、相棒を止める。
おいおい、そう怒るなよ。今日は、ここまでだ。
相棒が機嫌を損ねる。今日のメンテナンスは、しっかりしておかないとな。こいつに、拗ねられると、当たるものも当たらなくなる。
俺は、手早く道具を片付けて、この場を去った。
証拠は残さない。それが、一流の殺し屋だ。
◇◇◇◇
「お〜い、ミケランジェロ! どこだ、出て来い!」
俺は、重要な任務の最中だ。生死を分かるかもしれない。相手は、それぐらい、凶暴な生き物だ。舐めなら、やられる。
殺し屋としての第六感が、そう告げていた。
「おーい、動くなよ……」
『ニャーッ――!』
「ひっ!」
……あっ、おわった。
「どうも、ありがとう。ああ、よかったわ。早くお家に帰りましょうね、ミケランジェロ」
いかにも、裕福そうなマダムが、飼い猫 (ミケランジェロ)を抱え、「それではご機嫌よ」と言い、満足に帰っていった。
今なら、まだ間に合う、ここからヘッド・ショットでもお見舞いしてやろうか。ちょうど、良い。相棒のご機嫌とりになるかもしれない。
窓から、狙撃の準備をする。
だめだ。アレでも、一応、依頼主だ。
金のためとはいえ、ここは、グッと抑えろ。
それにしても、一流の殺し屋が、猫一匹に、これほど手を焼くとは。猫も……末恐ろしい。
猫対策マニアルを作るかどうか、本気で検討した方が、よさそうな気がしてきた。
ここ最近の依頼は、こんなのばっかりだ。
『サンドリア相談事務所』ここが、俺の隠れ蓑、表向きは何でも屋として、こういった、仕事を受け持っている。まあ、これも値段交渉によるが、安い仕事はしない主義だ。これだって命懸けの仕事だ。
仕事は、信頼が命だからな。
そして!
電話の音が響く、おいおい、せっかく、カッコよくキメようと思っところなのに、だれだよ、ごっら。いっちょ、文句言ってやる。
「はい! もしもし! こちら、サンドリア相談事務所です!」
普段の、サンオクターブは高かっただろうか……変にテンションになってしまった。不審に思われなければいいが。
「殺し屋さん……ですか」
6〜7歳くらいの子供の声だった。
「いいえ。違います。こちら、ハウスクリーニングです」
受話器からは、啜り泣く声が聞こえていた。女の子か?
「殺して……ほしい人がいます」
「殺してほしい……? 白蟻でしたら、まず、家周りと、全体を確認させていただく必要がございます。ダニの駆除でしたら、作業は、一日あれば、終了しますが……」
「お父さんと、お母さんの、仇を……討ってください」
これは、只事ではないようだ。俺は、そう思った。