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罪の告白

 私は一つの罪を犯した。

 仕方がなかったんだ。

 そうしなかったら、私が殺されていた。

 考えている余裕もなかった。そして私は考えるよりも先に、私の指はその引き金を引いていたのだ。


 そしてその男は、私の引いた引き金のせいで死んでしまった。


 これは私が悪いのか? それとも、そういう状況に追い込んだ、この女が悪いのか?


 わ、私のせいじゃない。私は嫌だった!! 

 違う、……わ、私は悪くない。


 そう、あなたは何も悪くない。

 でもね。


 彼女はそっと私の耳元に近づきこう言った。

…………でも、……その銃の引き金を引いたのはあなたでしょ…?


 その男を殺したのは私じゃない、……あなたよ……。


 うっ、うわあああぁああぁああぁああ!!!!



 今は思い出したくもない、遠い記憶のこと。

 時々、夢に出てくるんだ。

 あの女の邪悪に満ちた顔が……。


「…………」


「本当のことを教えて下さい! 私は事件の真実が知りたいんです、あなたはそれを知っている。……父の最後の姿を」


「私も突然のことでよくは覚えてないんです」


「覚えてない?! ふざけないで、そんなので言い逃れする気ですか、」


 この事件は、公にはならなかった。本当はあった出来事のはずなのに、誰かがそれを揉み消した。

 そして、罪の意識から、私は高いビルからこの身を投げた。……そう、自殺を図ったのだ。

 だが悪運の強い私は、運悪く、生き残ってしまった。


 その時の後遺症か、私は数日間の記憶が抜け落ちている。

 まるでパズルのピースがバラバラになったような気分だ。

 でもそのピースは、再び私の手元に戻ろうとしていた。


 私の入院する病室に、一人の少女が私を訪ねて来たのだ。


 その顔を見た瞬間、激しい激痛、吐き気に襲われた。

 閉じてしまった記憶の箱が、再び開かれようとしていたのだ。

 だが、私はそれを拒んだ。いや、受け入れたくなかったのだ。

 それを受け入れてしまったら、……私は、……もう、……今のまっさらな私では居られなくなる。


 そんな恐怖が、私を支配していた。

 

 だが、運命の悪戯は、そんな私に罪の重さを思い出させようとする。そして彼女はそんな運命に導かれて、私の前に現れたのだ。


 中学生くらいの女の子、

 クラスの中心になって、みんなを引っ張っていきそうなタイプ。


 私の目から見た彼女の印象。


 そんな彼女が、……私のもとに訪れた。


 


「あなたが、私の父を殺したんですか」



 そう彼女は、私に言った。


 私は答えることが出来なかった。

 だって私は、飛び降りる前の、記憶を、失っているから。

 だから。私は彼女の質問に答えることができない。



 いや違う。

 

 これはただの言い訳、

 だって私は、こんなにも罪の意識を感じている。

 記憶を失った今でも、私の体は、……それを憶えているのだ……。


「…………。すまない、今の私は記憶が曖昧なんだ。だから君の質問に答えることができない」


「……………ひとごろし…」


「え」


「私はあなたが、私の父を殺した犯人ではないかと思ってここに来ました。………そして私はあなたを見た瞬間、それは確信に変わりました。あなたが、私の父を殺した、犯人です」


 彼女は真っ直ぐ私の顔を見て、そう言った。

 私は逃げたい気持ちでいっぱいになった…!

 だが、それは叶わない。


 私の体はベットから起き上がれないほどの重体を負っているのだ。

 そんな体で、この少女を跳ね除けてここから逃げ出すことは不可能だ。

 

 私の病室は個室だった。これはうちの母が私のために気を利かせてくれたもの。

 それが今となっては、……私を閉じ込める檻となっている。


 ここから出られない。

 なにがあっても。


 この少女は、私の記憶が戻るまで。いや、私が自らの罪を認めるまで私を解放しないだろう。


 でも、無駄さ。


 私は何も憶えていない、

 たったその一言で私は言い逃れすることができる。

 私の口から真実が語られない限り、この箱は永遠に開かれることはない。


 そして私はその鍵を、…どこかに落としてしまったのだ。


 だから、開かないさ。

 




「ある旅人が私に言いました。この箱の中には、あなたが今、一番欲しいと思っているものが中に入っています。ですがそれと同時に。この箱の中には、あなたが今、一番見たくないと思っているものが中に入っている可能性もあります。……私は少し悩みます。…………そして、意を決して。箱の中を開けてみたのです」


「…………中には、……なにが入っていたんですか……?」

























 箱の中には何も入っていませんでした。





 これはどちらを選んでも、同じ結果だったのです。





「これが、私があなたに教えられる。……全てです。決して意地悪で言っているわけじゃないんですよ。………真実は知らない方がその人にとって幸せなこともある。だから、……忘れなさい……。それがあなたにとっても、……私にとっても、一番なのです」

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