侵略者
「この世は、蟻地獄に似ていると思わないかい? どんなに、這い上がろうとしても、必ず下の方に沈んでいく」
「皮肉ですか?」
「ああ、皮肉だとも」
「わらえないですね」
女は一拍おいてライフルに弾丸を込めた。
「来ますよ」
そう言うと、女はライフルを構え、向かってくるソレに弾丸を撃ち込んだ。
一発。二発。と銃声が聞こえる。地面に弾丸が転がった。
続けて、もう一発。
「ギャエエエエエエエ!」
「やったか」
「いや、まだだ」
私は、すかさず銃を構える。スコープで覗き、慎重に標準を合わせた。
「くたばれ。ムシケラが」
指にかけた、引き金をひく。
爆発したような、発砲音のあと、それは静かに動きを止めた。
巨大な黒い物体――この世界の支配者。
「蟻」
女は、忌々しげに言った。
体長、四、五メートルといったところか。これでもまだ小ブリな方で、中型だと、だいたい十四メートル、巨大なものだと、三十メートルを超える個体まで存在する。このサイズは巨大なクジラに相当する大きさだ。
知性が高く、集団で襲ってくることもある。その時は、逃げるしかない。
さっき倒したような、小型なら銃が通る、だが、中型、大型になってくると、その装甲が厚く、銃弾を防いでしまう。
この蟻を倒す方法は、大量の爆薬を使うか、古代兵器を使っての戦闘でしかない。
爆薬を使っての戦闘は、ワナを張るやり方が、有効。
蟻を、誘導させる必要があるが、うまくいけば、何匹かは道連れにできる。だが、そのぶんリスクも大きい。
蟻は、時速六十キロでこちらに向かってくる。
それから逃げるために。こちらも移動手段として、バイクを使うが、ヤツラは狡猾。
何匹か、地面に潜り、足下から襲ってくるのだ。
すでに、仲間の何人かは、犠牲になっている。
古代兵器は、その動力源にヒトの生命を使う、巨大なロボットだ。
破壊力は凄まじく、腕を振るえば、神風のような突風を巻き起こすことができる。
太古の剣を使えば、銃を弾く硬い装甲も、その一振りで、蟻を貫くことができる。
刃先には高温の熱が発せられており、その熱が、蟻の胴体を焼き切ると言うのが、正しいかもしれない。
これが古代兵器の主な戦闘方法だ。だが、その威力に似合った対価として、乗った人は、その生命の灯火を失うことになる。
まさしく諸刃の剣だ。乗る人は、相当の覚悟が試される。
蟻がこの世界に出没したのは、歴史としては、まだ新しく、約百年前に突如、地球に現れたとされている。
資料のほとんどが、焼け落ちてしまったため、確かなことは言えないが、残されていた資料をかき集め、つなぎ合わせると、その始まりは地球に降り注いだ隕石が原因だとわかった。
その隕石を調べると、未知の細菌が発見された。
隕石は、月から降ってきたものと判明した、