孤独な旅
「ああ、感動の一冊ですね。何で面白い本は、読み終わると、こうも切なくなるのでしょうか。やっぱり、最後のオチが、いいからなのなか」
私は、読み終わった本を、そっと閉じた。
もう何回、読んだのかわかりません。ですが、また開いて読んでしまう。
何回も読んだシーン。あっ、ここが一番好き。
目を閉じて、妄想にふける。
一国のお姫様が、不運にも、生まれながら言葉を話すことができなかった。
そして、お姫様は、国から追い出されてしまうのです。
お金はありません。
ですが、お姫様には、侍女のアンナがいました。
歳は近く、子供の頃から、よく二人で過ごしていたのです。
アンナは大きな鞄を背負います。ぱんぱんに膨れ上がったリュックサックの中には、一週間分の食料と、水が入っていました。
お姫様とは、手を使って、会話をします。
最初は不安だった旅も、二人でなら、怖くはありません。
二人は、歩いて多くの町を、見てまわりました。
砂漠を越えると、次の町が見えてくる。お姫様は、アンナに次の町が見えてきたと、手で伝えました。
ふと、気づいた。アンナの様子がおかしい。この暑さにやられてしまったのか、汗が止まらない。意識が朦朧として、呂律もあやしい。
アンナは、熱中症になっていたのです。
お姫様は、町に着くと、病院をさがしました。
だが、そこで、困難が待ち受けていたのです。普段は、アンタと会話するときは、手を使っていました。だが、町の人には、それが通用しなかったのです。
身振り手振りでは、話が通じない。それどころか、奇人を見るような眼差しを向けられてしまう。
この時ほど、自分の喉から声が出ないことを、呪ったことはありませんでした。
ごめんなさい。アンナ、私のせいで、苦しい思いをさせて。
手で伝える。
大丈夫ですよ。姫様のせいではありません。だから、そんな顔をしないで下さい。
アンナは額から汗を垂らしながら、微かに笑った。
それから、しばらくして、アンナは息を引き取った。
お姫様は、啜り泣きました。
そこで、二人の旅は、終わってしまったのです。
私は、目を開けた。