表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

透明な壁の向こう

 わたしの世界は狭い。

 その境界線も。

 この白い箱の世界が、わたしの全てだった。


 生まれながら身体が弱く、ひとりで歩くこともできない。


 がっこうは……もう、だいぶいってない。


 べんきょうは、好きだった。

 ともだちと遊ぶのも好きだった。


 きゅうしょくに、あこがれていた。

 わたしのがっこうは、お弁当だった。おかあさんが、わたしのためにお弁当をつくってくれる。


 でも、ぜんぶ食べれなくて……いっぱい、残した。


 ごめんなさい。


 おかあさんは笑いながら。


「いいのよ。さっちゃんの為なら、お母さん、毎日、お弁当作るから」


 そのことばが、わたしには、とてもつらかった。

 

 がっこうには、車椅子で通っていた。

 毎日、おとうさんが車で、送り迎えしてくれる。


「ありがとう」


「いいんだ。今日も、いっぱい、楽しんでおいで」


 とても……つらかった。


 おとうさんも、おかあさんも、わたしに、とても優しい。

 だけど、その優しさが、わたしを苦しめる。


 ほんとうは……知ってるんだ。わたし、もう、がっこうに通えないんでしょ?

 

 自分の身体のことくらい、自分が一番よく知っている。


 たがら、その優しさが、よけいに、わたしを苦しめる。


 小学2ねんの、三学期。わたしは、がっこうに通えなくなった。

 ベッドから起き上がることもできない。


 誰かの手を借りないと、ひとりで何も出来ない体になってしまった。


 生きるのが、しんどい。

 

 また迷惑をかける。


 わたしは、おとうさんと、おかあさんの、お荷物でしかない。


 わたしの生きる意味は、なんだろう。何のために生まれてきたのだろう。

 

 ひとに迷惑をかけるために、生まれてきたのかなぁ。


 しろくて四角い部屋に、おおきな機械がならんでいる。

 ここがわたしの全て、わたしの世界。透明なガラスの壁が、わたしと世界を区切っている。


 わたしは、この小さな箱の中で生活するようになった。


 ある日、男の子が迷い込んできた。


 透明なガラスの外から、わたしを覗いている。


 わたしと目が合うと、男の子は出ていってしまった。


 次の日、また男の子がわたしの部屋に現れた。


 手に、けん玉を持っている。


 男の子は、わたしに向けて、けん玉を披露する。

 一通り終わると、男の子とは、むすっとした顔で出ていってしまった。


 また、次の日。


 今度は、あやとりだった。


 男の子は、橋を作ったり、むずかしい技を、わたしに見せてくれる。


 そしてまた、むすっとして、部屋を出ていく。


 その次の日。


 今度は、画用紙に黒く塗りつぶしたクレヨンの絵をわたしに見せる。

 

 画用紙は真っ黒で、まるで、わたしの心のように、黒く先が見えないように思えた。


 男の子は、爪楊枝(つまようじ)をとりだり、黒い絵に何か描いていく。


 星だ。


 黒い夜空に、満点の星があらわれた。

 

 黒く塗りつぶした画用紙には、あらかじめ、クレヨンで別の色を塗っていたらしく、爪楊枝で描いた部分から鮮やかな色が表れ、本物の、星空のように綺麗だった。


 わたしは自然と、涙を流していた。


 そして、


「ありがとう」


「やっと、笑った」


 そう言って、男の子は嬉しそうに笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ