人喰い
これは僕が彼女と出会った時の話をしよう。
それは、そこにいた。
喰っていた。
ヒトを――
肉を引きちぎり、ぽりぽりと骨をしゃぶる。その姿はまさに、人食い。グール。カニバリズム。
ヒトがヒトを喰らう。まさに、鬼。
恐怖したね。だがそれと同時に、美しいとも思ってしまった。
あのときの僕は、どうかしてたんだ。だが、この非日常の中で、彼女は美しく、輝いていた。
黄金に輝く髪。透き通るような白い素肌。大きく膨らんだ胸が、彼女をよりキュートに見せる。
薄汚いビルの隙間、彼女は緋色に目を光らせながら、食事を摂っていた。
うっとりと、肉をかじる。
血の臭いが、やけにリアルで、強烈な鉄の臭いがした。
「くんくん。おい、そこのお前、なにレディーの食事を覗いてんだ? あん?」
やばい。ばれた。
逃げようとしたが、足がもつれ、その場でこけた。
「いって」
「……逃すか」
それはものすごいスピードで飛び乗ってきた。
腕を掴まれ、手の甲を反対に捻られる。痛みが全身を襲った。
「人払いの術をかけておいたのに。まじ、さいあく。見たからには、どうなるか、わかるよね?」
「僕を、食べるのか?」
「半分正解。半分外れ」
彼女は、できが悪い人間を見るように、言った。
「あんたは私の食糧になってもらう。そろそろ、このやり方にも、限界を感じてたし、効率が悪いのよね。人払いをして、獲物が罠に掛かるのを、じっと待つなんて、私の性に合わないわ」
だからと、指差し。
「あんたは、今日から、私の食糧になってもらう。あんたは私に、肉を提供する。その代わりに、あんたを殺さず、生かしてあげる。悪い話じゃないと思うけど……?」
肉を提供する?
倒れている、死体が目に入った。
「結局は、お前は、僕を、食べるんだろ?」
彼女に提供する肉が尽きたら、それは、死を意味するのではないか。
「だーかーら! あんた、頭が悪いの? 馬鹿なの? 一回死んでみる? これも良い経験かもね」
そう言って、彼女は、躊躇することなく、僕の心臓を貫いた。