吸血鬼である彼女を、俺は殺さない
二つの刃を互いに向ける。
交差する視線、見つめ合う、ふたり。
……どうしてこんなことに、……なってしまったんだ…。
これが私たちの運命だったんだよ。……私たちは、…こうなる運命だった。
これが本当に運命だというのか? お前は本当に、それで納得できるのかッ?!
……うん。
…私は、……リィーネに出会えて、本当によかった。リィーネに出会ってなかったら、今の私は、ここにいない。……だから、……私の最後の願い、……聞いてくれるかな……?
……私が愛したあなたの手で、…私を、……殺して……。
彼女は微笑む、俺の最愛の人、そして、俺の憎むべき相手。
あなたには私を殺す理由がある。
私の犯した罪があなたを縛り続ける限り、あなたは決して私から解放されることはない。
彼を唯一救う方法は、私を、……コロスシカナイ。
私は多くの人の命を奪った。
過去の私は、それが当たり前のことだと、疑わなかった。
弱者は、強者に殺される。それが世の理。そして私は、生まれながら強者という立場にいた、ただそれだけ。
そして私は、生きる為に、命を喰らう。
私は世界で最後の吸血鬼《エリナ・ヴァン=オルヘルス》
でも、今はすごく後悔している。
私の犯した罪は消えない。生きる為には仕方がなかったこと、でも、それがどれほど多くの悲しみを生むのか。私は考えたこともなかった。
そして人は、私を許さないだろう。
私を殺しに来た人達を、私は見せしめと称し。思いつく限りの残酷非道な行為で、その人達の命を奪った。
恐怖こそが、……私の力…!
恐れる心が、私をより強くする!
さぁあ、ニンゲンよ。私に恐怖しろ…!
我は世界最恐の吸血鬼、エリナ・ヴァン=オルヘルスである!!
死にたくなければ、我に服従しろ、そして我に、永遠の忠誠を誓うのだ。
そして私は、……彼に、……許される気は、……ない。
「「だからこうして、互いに刃を向けるのだ」」
「リィーネになら、……私、…殺されてもいいよ。その為に、私は今日まで生きてきた。本当はね。もっと早く私を殺して欲しかったの。……でも、あなたは最後までそれを躊躇した。だから、私は再びこの手を血に染めた…!」
彼女は笑う。
彼女が指す方向には、いくつもの死体が転がっている。顔はおろか、それが本当にニンゲンだったものなのかもすでに分からない。
「これは、いつも私に優しくしてくれた村長さんの死体。いつもくだらない冗談で私を笑わせてくれたっけ。……その横にいるのは、……私に初めて友達だと言ってくれた、ローラ。いくら私が断っても、勝手に私の手を引いて何処かに連れ回そうとする。……ほんと、楽しかったなぁ。………それからそれから……、」
彼女は死体を一つずつ指差し、それが誰の死体なのかを教えてくれる。
そして次第に、彼女の瞳からはポロポロと涙がこぼれだす。
「……あっはははは、……はははははっはは、あっははははははははははははははは、」
彼女の罪は重い、だがこれは彼女だけの罪ではない。
俺がもっと早く彼女の願い叶えていれば、こんな事にならずに済んだ。
「もういい、黙れ。……これ以上喋るな…」
俺は、彼女に向けた剣を下ろす気はない。彼女も、それを分かっている。俺が、彼女を殺すことを、彼女自身が一番望んでいるのだ。
彼女と、もっと違う出会い方をしていれば、……もっと違った未来も、あったのかなぁ……。
俺はあんたを恨むぜ、……あんたは俺たちに幸せな時間を与えた。
それがどれだけ残酷なことか分かっていながらッ!
あんたはそれを与えて、俺たちからそれを奪おうとする!
そんなお前を俺は許さない。見てんだろう、分かってんだぜッ!
俺はこんな結末を受け入れない!!
お前の思い通りにはならない!!
最後まで抗ってやるよ!
そこで待ってろ、……必ず俺が殺してやる。
リィーネは自らの剣で、命を閉じることにする。
再び運命に抗うために。
そして彼は、再び出会う、エリナ・ヴァン=オルヘルスに、そこから始まる物語。
彼は何度でも抗う、そこに希望がある限り、彼はその希望を信じて、その手を彼女に伸ばす。
彼女がその手を掴むと信じて。