第96話 真意
「貴族政治の打破……」
「まさか」
ふたりは、私の真意を聞いて、言葉を失っていた。私の考えを聞いた人たちはみんな同じ反応になるわね。
この国は、建国以来ずっと貴族による支配が続いてきた。もうそれが当たり前なのよ。だから、その当たり前を覆そうなんて誰も考えないのよね。
「本来、国とは人間同士が作り出したものです。お互いに手を取り合って敵から身を守るために……そして、助け合ってお互いが豊かになるために、国は存在しなければいけないのです。本来は、貴族が豊かな生活ができる代わりに、国民にそれを保証しなくてはいけないのです。でも、彼らはそれすらできていない。もう、貴族による支配は腐敗して、本来の意味を保てなくなっています。彼らには、速やかに退場していただかなければいけません。その時がやってきました」
私の説明にふたりは頷いた。
「しかし、知事さんよ。それは理想だけどさ、いったいどうやるんだよ」
「ええ、難しいわね。でも、方法は思いついている」
「ほう?」
「まずは、自由党が選挙に勝って、元老院の第一党になる。すでに、貴族階級にすら現体制には不満をためこんでいますからね。そして、フリオ閣下を宰相にします」
フリオ総裁なら実績も人望も家柄だって申し分がない大貴族だからね。保守派たちも納得してくれる。
「それで」
「そして、少しずつ内部から現体制を変えていきます。そうすれば、私たちは信頼されて選挙に勝ち続けることができる。そして、最終目標が……」
「最終目標は……」
「憲法の制定です」
私がそういうと、ふたりはよくわからないという風に頭をかしげる。
そう、この国には"憲法"という言葉がない。
これはイブール王国よりも早く近代化に成功した"グレア帝国"が作り出した概念だから……
「憲法とは、国の基本的な原則です。これが基本的な法律――国の基本的な方針です。そして、それは国王であっても大貴族であっても、誰も破ることはできないんですよ。すべての国民が身分に関係なく、守らなくてはいけないものを作る。そして、それは国民の総意をもってしか変更することはできない」
ふたりはなるほどと、うなずく。
「つまり、あんたは最終的に憲法という法律を作って、暴走する貴族たちを抑えるんだな?」
「ええ、そしてこの国の政治体制を、"絶対王政"から"立憲君主制"に変えていくのです。そして、選挙権を拡大させて、すべての人が政治に参加できる枠組みを作る。そうすれば、貴族の腐敗は終わりです。貴族の横暴は、私たちの代で終わりにさせる。そして、ここから巣立つ新しい世代には希望を見せたいんですよ」
生徒たちは学校の庭を楽しそうに走っていた。




