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第92話 副総裁

 副総裁……それは、まだ自由党では空席だったナンバー2の地位。

 自由党はフリオ閣下の個人的なカリスマ性によってまとまっていることもあって、結党当初はあえて空席のままにしておいたのよ。仮に、総裁にもしものときがあったら、そのまま総裁に就任するポジション。


 そのナンバー2に私が就任!?

 いくらなんでも急すぎる……


 バルセロク地方支部長は、党内の席次は10番目くらいの地位だったのに。

 8人抜きの大抜擢だいばってき


「私なんかよりもふさわしい人がいるじゃないですか!! フェルナンド幹事長やアラゴン政調会長のほうが経歴も実績も豊富な優秀な人がたくさんいます。知事と副総裁を兼任できるほどの余裕もありません」


 でも、私の反論に対して彼は首をゆっくり振る。


「いや、フリオ閣下はルーナじゃないとダメだと考えているようだ。副総裁はあくまでも総裁の補佐役であり相談役だ。実務の割り当てはないから知事と兼任できると思う」


「なぜですか? 私は地方の知事の小娘ですよ?」


「それは自己評価が低すぎるよ。キミはバルセロク地方からすでに国を動かし始めている。キミという若き革命家がいなければ、政界再編の動きは作ることができなかったといっても過言じゃない」


「……」


「みんな、この貴族による寡頭制かとうせいは限界が来ていることを悟っているんだよ。大貴族や王族、ひとりが暴走したらすぐに国は乱れてしまうからね。クルム王子の件は、極秘にされているが、やっぱりみんなどこかでおかしいと考えている。でも、制度を根本から変えるには、この制度に慣れ過ぎているんだ。だからこそ、ルーナのような新世代に希望を繋げたいんだよ」


「重すぎますよ、まだその責任は……」


「たしかにそうだ。だが、それはフリオ閣下だけじゃない。俺の夢でもある。ルーナを中心に……弱者の痛みを知っているルーナに……この国を変えて欲しい」


「……」


「その責任はルーナだけには背負わせない。フリオ閣下も俺も絶対に支える。それに幹事長も政調会長もまだ信用できない。彼らは優秀な政治家だが、日和見ひよりみなところがある。俺たちほど、国を変えたいという真摯な気持ちはないと思う。だからこそ、ルーナに副総裁になって欲しい」


 この返事は私の人生を決めるほど大事なものだ。ここで副総裁を受ければ、内外に自分がフリオ閣下の正統な後継者だと宣言することに等しい。


 自由党の看板となり矢面に立つ覚悟を決めろということね。

 

「わかりました。お受けします」

 私は覚悟を決めてそう言った。テーブルの赤ワインは揺れていた。


 ※


 レストランを出て、私たちはお散歩をしながら話している。

 バルセロクは港町だから、潮風が心地よい。

「ありがとう。詳細は今度、フリオ閣下がこちらに来てくれる時に話すそうだ」


「わかりました」


「ルーナが引き受けてくれてよかったよ。そして、もうひとつ。王都で変な噂を聞いた」


「変な噂ですか?」

 アレンは少し複雑な表情をしている。


「そう。クルム王子は、イブール新報の編集長であるローラと手を結んだそうだ」

 イブール新報のローラ。悪名名高き"魔女"ね。

 新聞記者としての実力は文句ない。ただ、問題は……


「あの闇のフィクサーとクルム王子が手を組むなんて……嫌な予感しかしませんね」

 ローラ編集長は、マスメディアという特性を生かして政界に大きな力を発揮しているわ。

 下手に彼女に喧嘩を売れば、社会的に抹殺される可能性もあるわ。だからこそ、彼女には逆らうことができない。


 厄介な相手。イブール新報は、力がある新聞社だから、世論に与える影響が大きい。それが私たちの敵となったということね。注意しなくてはいけない。


「ああ、だが王子は諸刃もろはの剣になる。あの女は利己主義だからな。王子もいつ切り捨てられるか……」


「それだけの劇薬を使ってでも、私たちに勝ちたいんですね。もう、彼は完全に暴走している」


「ローラもさらに力を欲しているんだろうな。ヴォルフスブルク帝国にも一定のパイプを持っているそうだ。もしかしたら、自分の意のままになる宰相を作り出そうとしているのかもしれない」


「そうなったら……この国はヴォルフスブルク帝国の傀儡かいらいになってしまいまうかもしれませんね」


「それだけは絶対に避けたい。ローラについてはわからないことも多いから、調べてみる。ルーナも気をつけてくれよ」

 彼は、そう言って私の手を強く握った。本当に心配してくれているのね。

 でも、どんなに敵が強くても、恐怖はなかった。


「大丈夫ですよ。私にはこころづよい仲間がいます。ひとりじゃない。みんなが私を守ってくれます。それに……」

 私は、真剣に彼の顔を見つめる。夕日に照らされて、彼の顔は赤く染まっていた。

 イブール王国の伝説の英雄が、こうして私の横にいてくれている。彼には何度も命を救われた。


 クルム王子の魔の手からも……

 エル=コルテスの策略も……

 グラン海賊団の暴力からも……


 だから、大丈夫。あなたが近くにいてくれれば……

 もう、私はそれ以上、安心できることを知らない。


 口に出せば、すべてが壊れてしまいそうで、私は言葉を飲み込む。

 そして、ゆっくりと私たちは口づけをした。 



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