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第9話 悪徳貴族を追い詰める

「このパスタ、すごくおいしい!!」

 ルイちゃんと一緒に入った食堂で、私たちはお昼ご飯を済ませたわ。

 彼女はペスカトーレを食べる。


 シーフード、トマト、ニンニク、ワインで煮込んだソースをパスタに絡めて食べる料理よ。漁師さんたちが、余りもののシーフードで作ったのが始まりと言われる料理。ルイちゃんから少しもらったけど、ここは、まさに港町だから、本当に海の幸が新鮮でおいしいわ。


 貴族時代は、毒味役の人が食べた後で食事をしなくちゃいけなかった関係で温かいものが食べられなかったから、こういうホカホカの食事に憧れていたのよね。村の人たちの料理もおいしいけど、やっぱりプロの作った料理は最高よ!


 ルイちゃんも嬉しそうにご飯を食べているもの。


「でも、ルーナお姉ちゃんはすごいです! 本屋の人も言ってたけど、本当に天才なんだね!!」


「ほめ過ぎよ。本屋さんも大げさなだけだから、村の人に話しちゃだめよ?」


「はーい!」


「よろしい! 本も安く買えたから、お腹いっぱい食べてね。ルイちゃんには、いつも助けてもらってばかりだから、お礼にごちそうする!」


 法律の本は、店主さんが格安で譲ってくれたわ。


「申し訳ございません。あなたが大学者様とも知らずに、失礼な態度を取ってしまいました」と平謝りで、私が逆に申し訳なかったくらい。


 ルイちゃんの勉強用の本も一緒に買えたから、今回の事件が落ち着いたら、一緒に勉強を始めないとね!


「お待たせしました。アクアパッツァです」


 私の注文していた料理も届くわ。

 魚をオリーブオイルと野菜で煮込んだ料理ね。


 やっぱり取れたての魚の鮮度は最高よね。


 王都の高級料理店の魚料理もおいしいけど、やっぱりとれたてをすぐに食べるのが最高の調理法だとよくわかったわ!


 ※


 そして、私は村へと戻ってきたわ。


 私は、畑を少しだけ世話して、部屋にこもる。


 さっそく買ってきた『法律大全』を開いたわ。

 最新の法令とその注釈がのっている解説書よ。


 まぁ、解説書と言っても、学者さんや裁判官さんくらいしか読まないから、とても難解。


 学生時代にこれをやっていたら、すぐに挫折ざせつしていたはずね。

 でも、今は私の背中にたくさんの人の命がかかっている。だから、やる気が違うわ。


 昔の偉人は、一度読んだらそのページの内容は覚えてしまって、もう読む必要がないから食べてしまったという人もいるそうだけど……


 さすがに、私はそんなことができないから、何度も音読して、文章を頭に叩き込むわ。


 ひたすら、必要な場所を見つけて、しつこく何度も読む。

 皆のために、頑張るしかない!!


 ※


 そして、ナジンたちが来る当日。

 すでに、村の広場には人だかりができていたわ。


 村長さんからすでにみんなに情報は伝わっているはず。

 みんな農具を持って、あの男たちを待ち構えている。


 私が失敗したら、たぶん暴発するはずよ。

 そんなことになれば、たぶん惨劇さんげきが起こる。


 そんなことを起こすわけにはいかないのよ。


 あいつらは、そんなところにやってきたわ。


「皆の者、ご苦労。それでは、税の徴収をはじめる。さあ、絹は、ここだな。どれどれ……」


 ナジンと護衛の10人の男は、私たちが用意した箱を開けた。


「なんだ。何も入ってはいないではないか!? これはどういうことだ。まさか、貴族である私を愚弄ぐろうしているのでないか? どうなるかわかっているのか、平民ども?」


 男どもは怒りに震えていた。


「ナジン様。正式な手続きで、税を徴収してください。まずは、徴収許可証を読み上げることから始めなくてはいけないのではありませんか?」


 私は、ここで前に出た。


「また、お前か!! 浅い知恵をつけおって。徴収許可証は、この前、見せただろ!! ほら、これだ。私が読み上げるのも面倒だ。勝手に読め。読めるもんならな! まぁ、お前にはハンコの色くらいしかわからないだろうな」


 ナジンは、私に紙を投げつけた。


「それでは、失礼しますわ。代官様?」


「なんだ、その眼は?」


「失礼ですが、あなたはこういう言葉を知っていらっしゃいますか? "のうあるたかは爪を隠す”」


「何を言っているんだ?」


「徴収許可証。我は、ウォーレン男爵領バルク地方の徴税権を、下記の者に委任する」

 私が書類の音読を始めると、男たちの顔色は一変する。


「なぜ、その書類が読める!?」


「そんなこと、どうでもいいじゃないですか? でも、この書類は変なところばかりなんですよね。この村は、バルク地方にありません。バルク地方は、ここから10キロは先の場所ですよね、ナジン様?」


「……」


「そして、この財務大臣の名前ですけど、先々代のエーデン様がサインされています。しかし、今の財務大臣閣下は、ジョンソン様のはず。これはどういうことでしょうか?」


「……それは、しょ」


「書類を間違えたなんて言わないでくださいね。この書類の日にちは、つい2か月前のもの。エーデン様が財務大臣を引退したのは、もう2年も前ですよね?」


「おまえ、文字が読めないふりを……」

「今ごろ気がついたのね。意気揚々と、私が仕掛けたトラップの真ん中に来たのは、あなたよ。ナジン様? いえ、ナジン=ウォーレン男爵様?」


「なぜ、俺の正体を……」


「さあ、そんなことはどうでもいいじゃないですか。でも、あなたがどうやってこの場を切る抜けるのかには、興味がありますわ?」


 私は、冷や汗をかいた悪徳貴族に王手チェックをかけた。


 ※


「平民どもに何がわかる! お前は文字が読めたとしても、俺がやっていることのどこに問題があるのかわかるのかぁ! どこに申し立てしたら、俺を破滅させることができるかわかるのか! 痛い目にあいたくなかったら、早く絹を出せ。お前たちの生意気な態度も一度だけは見逃してやる!」


 太った悪徳貴族は、私にそう言って詰め寄る。


「自分の悪事をお認めになるんですか? 男爵?」

 私は、冷たい声で聞き返す。だって、そうでしょう。男爵は、「俺がやっていることのどこに問題があるのかわかるのかぁ! どこに申し立てしたら、俺を破滅させることができるかわかるのか!」と言っているのよ。これは、自分の罪を自白したのと同じ。


 こういう言い争いの場では、絶対に熱くなってはいけない。熱くなったら、自分の自制心が効かなくなってしまい、不利なことまで口にしてしまうから。


 貴族は、幼いころからそう叩き込まれるのよ。でも、実践できる人はほとんどいないわね。


 この男爵も同じ。年齢は30歳くらいだろうけど、まるで自分の感情を制御できていないもの。


「うるさい。俺の罪を、教えてみろ。言えたなら、認めてやろう。だが、できるわけがないだろうな。お前は、しょせん平民だ。平民はな、貴族に雑巾のようにしぼり取られているくらいがちょうどいいんだよ。下手な知識も持たずに、俺の言うことをはいと言えばいいんだ。それが、平民の幸せなんだからなぁ」


 この横暴な発言に、皆が歯を食いしばっているのがわかるわ。

 こんな奴のために、税を払っているわけじゃない。


 民は、貴族たちに守ってもらうために税を払っているのよ。

 そんなこともわからずに、ただ自分の欲望のために、平民を重い税を支払わせるなんて、許せない。


 こんな奴に、皆の幸せを奪われるわけにはいかないのよ。


「イブール王国徴税法第21条。何人なにびとも許可なく、税を徴収することはできない。それに違反した場合は、極刑に処す」


 私は必死になって、暗記した法律を、男爵にぶつける。


「何を言っているんだ……おまえ」


「イブール王国行政法第156条の2。政府が発行する公文書を偽造してはならない」


「おい、やめろ」


「イブール王国憲法第31条。貴族は、己が特権をむやみに乱用してはならない。また、平民は貴族が権利の乱用をしている場合は、抵抗権を持つ」


「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ!!!!!!!!!!」


 私が、何も見ずに法律を読み上げている姿を見て、目の前の男は青ざめていく。もう、男爵と呼ぶのすら、ためらわれるわ。


「認めていただけますか? 素直に認めて、今まで私たちをだましてきことへの補償をしてもらえれば、今回の件は不問に付しますよ?」


 私もあまり表沙汰おもてざたにされたくはないし、村の皆も貴族に歯向はむかったという事実は、できれば隠しておきたいらしいわ。

 だから、甘いけど、ここで妥協だきょうしておきたい。


 でも、そんなことができるような人ではなかったわ。


「誰が認めるかぁ!! お前たちは、貴族である俺様をバカにしたな。その罪は、万死ばんしあたいする。裁判など必要ない。お前らを皆殺しにしてしまえば、私の罪などわからない。お前たちやってしまえ! 法律など知ったことじゃない。貴族の誇りを汚した平民など殺してしまえ!」


 男たちは、剣を抜いて、私たちを威圧する。


 やっぱりそうなるわね。

 これだけは避けたかったんだけど……


 一応、私は護身用の魔力が使えるけど、男たちを全員倒せるほどのものじゃない。村の男の人たちと力を合わせれば、なんとか撃退できるかもしれないけど、相手は武装しているから、犠牲は避けられない。


 だから、私は別の作戦を用意していたのよ。


 彼が近くの領土の貴族であることはすぐにわかったわ。あんなに男を雇うことができるなんて、貴族か大商人か盗賊くらい。


 そして、大商人は容疑者からは簡単に外れる。

 だって、この村の皆をだまして得ることができる絹なんて、こんな危険を冒してまで得るほどの利益にならないわ。


 盗賊集団も疑わしいけど、しゃべり方が、盗賊じゃなかったもの。そもそも彼らはこんな回りくどい方法をする必要もないわ。偽造書類なんて作るくらいなら、剣で襲って奪ってしまった方がいい。


 だから、容疑者は貴族だと思って、私は情報を集めたのよ。


 そして、詐欺グループの主犯が、男爵だとわかった。


 彼の領土では、当主を恨んでいる人がたくさんいたから、すぐに情報はつかめたわ。贅沢ぜいたくと出世のためのワイロにいつもお金を浪費しているから金欠だってね。


 自分の領土の税だけじゃ贅沢ができないからって、ずるいことを考えていたんでしょう。


 それが転落への入り口とも知らず。


 こういう名誉欲に駆られた悪徳貴族には、たいていの場合にお家問題があるのよ。

 それが定跡。


 だから、私は、男爵家を調べたわ。


 そして、弱点を見つけた。


 異母弟の存在ね。


 彼の父親は、どうしようもないくらい女好きだったらしいの。そして、父親が亡くなった後は、男爵と異母弟は跡目を争って、骨肉の争いをした。


 そして、なんとか彼が勝ったけど、弟はまだ跡取りの道をあきらめずにくすぶり続けているのよ。男爵家には、優秀な弟を支持する家臣もたくさんいるから、失脚した弟を兄が好き放題できずに緊張関係が続いている。


 その緊張関係に、今回のようなスキャンダルが見つかった。

 あとは、わかるでしょう?


「そこまでだ、兄上! 武器を捨てて、降伏しなさい」


 こうなるのよ!


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