第86話 最終
―3か月後―
教育改革は順調に進んでいるわ。
後半の議会に備えて、法令の整備もしっかりと整いつつある。
「知事、こちらの条文でどうでしょうか?」
バルセロク地方の法制執務部門が正確な条文を作ってくれる。私もある程度は法律はわかる。でも、やはりこの特殊な文章を作るのには専門家の助けが必要ね。
私が大枠を作って、専門家が他の法令との整合性を考えながら清書をしてくれる。別の法律との兼ね合いもあるからね。職員の中でも、専門家中の専門家が法制を担当しているの。
ロヨラさんが私の執務室にお茶を持ってきてくれたわ。
私が教育改革に専念できるのも、経験豊かな副知事がいろんな分野でカバーをしてくれるから。
書類で散らかった部屋を見て彼は笑う。
「頑張っていらっしゃいますね」
「みんなに助けてもらいながらなんとかやれていますよ」
「官僚は優秀です。トップのやりたいことがはっきりしてしていて、それに道理が伴っていれば、すさまじい力を発揮してくれる。地方庁の職員たちが生き生きと仕事をしているのは、知事の器がそれほどしっかりしているのですよ」
「そうだといいんですが……ロヨラさんにもかなり助けてもらってばかりで……」
私の発言に、ロヨラさんは好々爺のように優しい顔になった。
「何を言ってるんですか。あなたがいなければ、私が理想としていた港湾改革は実現できなかった。あなたのおかげで、私はライフワークを実現したのですよ。支えないわけがないでしょう?」
その温かい言葉に、私は感謝しながらお茶を飲んだ。
もうすぐ14時か。そろそろ秘書課長がやってくる時間よね。
「知事、準備が整いました。最終面接の時間です」
「ありがとう。今行きます」
今日は、教育改革に必要な教師の採用試験の最終面接よ。
本格的に動くのは来年からで、まずは今の予算で可能なバルセロク市と周辺の村に派遣する教師を採用することになったわ。
すでに、貴族学校や裕福な商人家庭のためにいくつかは学校があるんだけど……
庶民階級がいきなりそこに合流しても深刻な対立が生まれるかもしれない。だから、時間をかけて少しずつ統合していくのが私たちの狙い。
この最終面接で採用された教師陣を中心に、教育改革のモデルケースになる学校を作る。その学校ではきっとたくさんの問題が出るわ。それを解決するために動くことでたくさんの経験が手に入る。
そして、その経験から作られた方法を使ってバルセロク地方全土に教育をいきわたらせるわ。
その試金石となるのが今日ね。ここまでの試験でかなり面白い人材が集まっていると聞いている。楽しみだわ。




