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第81話 最強の聖女

 議会が終わった翌日。

 私たちは庁舎で朝食を済ませながら、朝刊を読む。

 庁舎の食堂も昨日までの議会の余波で、みんなが興奮していた。


 朝刊も見出しが躍っている。


『自由党、バルセロク地方議会の第一党に躍進!?』

『ルーナ知事、圧巻の政治力で保守党を撃破』

『地方議会の新議長に自由党カレン氏が就任』

『今後のバルセロク地方政治のキーワードは復興と教育』


「ずいぶん、ルーナを褒めてくれているね。婚約者として、誇らしいよ」

 アレンはそう言って私をからかった。

 元老院や特殊部隊の任務がない時は、基本的にアレンはこちらに来て私たちの仕事を手伝ってくれる。


 彼は軍人枠で元老院議員になっているから、選挙もないので、仕事に専念できる。


「もう」

 私は気恥ずかしさを隠して、ハムエッグを食べる。

 バルセロクでは卵は貴重品だから、今日は奮発したのよ。村なら簡単におすそ分けしてくれるのになぁ。


 卵や牛乳の代わりに、アーモンドミルクがよく使われているわ。だから、村の料理の方が食材としては美味しいものを使っていたわ。


「こっちの記事はすごいよ。1面にわたって、ルーナ=グレイシア知事の特集が組まれている!」


 恥ずかしいけど、自分がどのように報道されているのかを知るのは政治家の義務。おそるおそる私は確認する。


―バルセロク地方新聞―


 今回の議会では、ルーナ=グレイシア知事が完璧な仕事をした。彼女は、知事になってからまだ数カ月だが、恐ろしいほどの業績を残している。「海賊討伐」、「元老院による復興特別予算の承認」、「港湾改革」、「教育改革」。

 

 本来ならば、どれかひとつでも成し遂げることができれば名知事と呼ばれるだろう4つの業績を、こんな短時間で達成したことは特筆に値する。


 彼女の政治家としての特徴は、その類まれなる「実行力」とたとえ敵対していた相手すらも魅了する「カリスマ性」だろう。


 カレン地方議会議長、ロヨラ副知事……


 両者は、かつて知事と相対あいたいする立場にあった者たちだが、今となっては知事の側近中の側近として協力関係にある。両者の例でもわかるが、彼女には圧倒的なカリスマ性が備わっているのだろう。


 今回のバルセロク地方議会再編は、中央の元老院すらも動かした。彼女の実力は間違いなく、将来の宰相候補と言わざるを得ない。


――――――


「すごいね、《《将来の宰相候補》》だってよ?」


「過大な評価ですよ。私だけの力でここまで来たわけじゃありません。アレン、クリスさんやロヨラさん、フリオ閣下の力がなければ……」


「ふふ、ルーナは肝心なことがわかってないね。いいかい、必要な時に誰かがキミを助けてくれるというのも、大政治家にふさわしい才能だよ」



 ※


―クルム王子視点―


 いつものように、議会の幹事室で職務を終わらせる。

 秘書が淹れてきたお茶を飲みながら、決裁文章を回した。


 院内幹事は、事務屋とも呼ばれるポジションだ。やらねばならない仕事はいくらでもある。


 アレンもいなくなった政治の世界には、もう安心できる場所はなくなってしまった。


 まぁ、いい。私を捨てる人間にはいつか当然の報いを受けさせる。


 思い返せば、あと1週間で自分の結婚式だ。準備は滞りなく済んでいる。カインズ子爵が中心になって準備をしてくれているので問題はない。あの娘は、王子の妻と言うポジションにしか興味はないようだから贅沢させておけば文句も言わないだろう。


 ルーナは優秀だったが、ライバルでもあった。あいつは周囲に慕われるタイプで、どちらが次の国王になるのかわからないような瞬間も多々あった。


 あいつは、俺にとっては超えなくてはいけないライバルだった。


 だから、あの日……


 婚約破棄を宣言した時、俺は勝利の高揚感に包まれた。


 だが、あいつは復活した……そして、俺の計画をことごとく潰すやっかいな政敵になった。


 ついに、フリオとルーナの自由党は、元老院でも第2党の巨大勢力となった。元老院が始まって以来、ここまで保守党に肉薄した政党はなかった。


 保守党も危機感を持っている。自由党に友好的な、保守党総裁の叔父上に不信を募らせている幹部も出てきているからな。


 叔父上の地盤が揺らいでいる。

 ならば、反・総裁派を束ねて俺の影響力を強めなくてはいけない。


 部屋の扉が鳴った。

「兄上? いらっしゃいますか?」


「ああ、空いているぞ」


 この声は、イブール王国第2王子のアマデオ。

 私の異母弟だ。


 奴は、次期国王レースの二番手で、俺と宰相の地位を競っている。

 

 俺とは違って、母親の実家が裕福だから資金力もある。俺とは違ってどちらと言えば行動派だ。


 俺の後任で宰相代理に任命された。叔父上も、俺ではなくこいつを後任にしたいらしい。


「突然、来てしまいましてすいません」


「大丈夫だ。弟に対して閉じる扉は持っていない」


 一見、仲が良い兄弟をよそおっているが、腹の中では探り合い中だ。お互いに弱みを見せれば、一気に出し抜かれる。


「兄上とは、今後の政局に対して意見を交換したいと思いましてね」


「ほう? ならば、対自由党戦略ということか?」


「はい……兄上の意見も聞きたいのですよ」



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