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第78話 再編

 私たちは、保守党の議決ボイコットを利用して一気に法案可決に動いたわ。私と副知事、そして、アレンまで動いてくれて少数派の議員さんたちを説得に回る。勝ち馬に乗ることができる。つまり、そのまま議員としての実績に繋がるわ。こんな美味しい話はないはず。


 案の定、最初は渋っていた議員も手の平を返したかのように仲間に加わった。あとは、彼女だけね。


 カレン副議長。バルセロク地方党の代表であり、地方議会の重鎮。保守党の議員が議決を欠席することとなった以上、彼女を味方にできれば勝利はほぼ確実……


 ※


「単刀直入に言います。私はあなたたちに協力することはできない。政治は一度敗北すれば影響力を失いますから」


「いい、ルーナ知事? この世界では裏切りなんてよくあること。対立する陣営、どちらにもいい顔をしておいて与えられるエサの大きい方になびくなんてよく聞く話よ。戦勝会で勝利の美酒を飲み、そのまま残念会に出るくらいのつらの厚さが必要なのよ、この職業は……あなたの純真さはとても魅力的だけど、それだけで勝てるほどこの世界は甘くない」


「もし、私を味方にしたければ、あなたたちだけで保守党を切り崩して見せなさい。この世界は実績が一番大事だからね。そうすれば味方になってあげるわ」


 ※


「あら、数日前に比べて、さらに政治家の顔になりましたね、ルーナ知事?」

 彼女は、この前と同じレストランでワインを飲んでいた。


「ええ、カレン副議長のおかげですわ」

 私はワインをいただく。ホタテ貝のバターステーキも運ばれてきた。これをつまみに女同士の話をすることになるわ。


「話は聞きましたよ。保守党幹部と密約をかわしたと?」


「はい。これで過半数のボーダーは下がります。カレン副議長が味方になってくだされば、間違いなく可決できます」


「ふふ、すごいわね。そういう政治的な動き方もできるんだ」


「答えをお聞かせください、副議長」


「ええ、可決できるなら味方をする約束だもの……でも、あなたの今後は厳しくなるわ。議会多数党とあなたは対立していることが決定的になる。あの法案を通すためにあなたは政治家としての将来を失う可能性がある。どうするつもり?」


「アドリアン幹事だけに利益を与えるつもりはありませんよ。政治の世界は、お互いに利益を得ることが大事。彼はそう言っていましたからね」


「あら、彼を出し抜くつもりなの?」


「ええ、要は私が議会と対立しなければいいんですよ?」


「まさか……」


「そのまさかです、議会を再編させましょう」


 ※


―バルセロク地方議会当日―


 ついに始まった議会の当日。議会は知事の所信表明演説からはじまるわ。


「先日の海賊騒動で、私たちは多くの血を流しました。彼らのためにもここで私たちが止まるわけにはいきません。中央からも復興特別予算は承認されました。この貴重な血税を私たちは新しいバルセロク地方を作るために使わねばなりません」


 議会からはヤジが飛ぶ。それと同数の拍手も……


「この度の議会の柱は3本です。復興予算の分配、海賊騒動で判明した港湾利権腐敗問題の改革。そして、地方の底力を向上させる教育改革。議会の皆様には、この3本の議題を中心に、よりよい地方を作るために議論していただきたいと考えております。以上、これが新知事としての私の所信表明です」


 そして、復興特別予算の分配についての議論はスムーズに終わったわ。復興と犠牲者への財政援助を中心に、今後のための海岸防衛線の強化案や医療体制の充実化だから反対も難しいはずだけどね。


 満場一致で予算配分は可決された。議会は次の議題に移る。


 そう、港湾改革ね。

 ロヨラ副知事が骨子については登壇して説明を始めた。さすがに場慣れしているわ。


「港湾改革の骨子は以下の3点であります。不正にかかわった港湾公社職員の処罰と採用方法の一新。不当な行為を行っていた港湾関連企業への許可取り消し。及び再発防止のために、港湾公社へ捜査権を付与する条例の制定であります」


 これで完全に港湾利権を失う保守党は、やはりおもしろくない様子ね。

 

「それでは審議に入ります」

 カレン副議長が、臨時議長に就任して議事を進めている。


「議長!」

 アドリアン幹事が大きな声で異議を唱えた。


「アドリアン幹事の発言を許します。登壇してください」


「はい」


 アドリアンは、芝居がかった様子で登壇した。


「単刀直入に言いましょう。ルーナ知事、ロヨラ副知事が推し進める港湾改革は権力の横暴です。地方庁がここまで私企業の命運を握るような前例を作ってしまえば、のちの災いとなるでしょう。いきすぎた行政の介入は、経済の発展の妨げにしかなりません。ルーナ知事に賛成できない企業に対しての報復攻撃としての側面がある本改革には賛同できるでしょうか。これは、知事選で争ったルーナ=グレイシア陣営とエル=コルテス陣営の代理戦争に地方庁が巻き込まれているにすぎないのです。我々はそのような私的な審議に加わることはできません。よって、我々は抗議の意味を込めてここからの審議を拒否します!」


 保守党陣営からは大きな拍手がまき起きた。

 彼が退場すると、それに同調する保守党議員の一部が退場していく。


 さぁ、はじまったわね。


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