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第67話 強制査察

―バルセロク地方港湾公社―


 ついに運命の日が来た。ロヨラ副知事を港湾公社代表と兼任させて、事前に足場を固めておいたわ。


 私はシッド将軍とともに港湾公社に足を踏み入れる。情報がれないように今日の朝まで最高幹部以外には連絡もしていなかった。あと知っているのは中央の宰相様くらいね。


 今回の強制査察は、港湾改革の根幹でもあるわ。だから、私も異例だけど立ち会っている。


「動くな。バルセロク地方兵団です。職員の人は動かないで!!」


 職員たちは一気に動揺してあたふたしている。


「なんだ、あんたたちは!! ここは港湾公社だぞ。こんなことをして許されると思っているのか!」

 太った中年の男が抗議の声をあげている。たしか、管理課長ね。コルテス家の元使用人で、港湾利権の中枢にいる人物。


「管理課長、正式な手続きは踏んでおりますわ。こちらが令状です。前・名誉顧問が海賊団と裏でつながっていた事件に関連し、こちらを強制的に調べさせていただきます」


「ルーナ知事! わかっていらっしゃるんですか? あなたがやろうとしているところは、コルテス子爵家を敵に回すのですぞ。あの家は王族にもつらなります。あんたはそんなことをしてここで生き残れるとでも!?」


「残念ながら、今回の査察はコルテス家とは一切関係がないはずですよ。私たちは国家騒乱罪の容疑で調べるだけです。それとも、まさかコルテス子爵家があの海賊騒動の黒幕だったと自供なさるんですか?」


「……」


 課長は顔面が蒼白になっていた。地方兵団は公社に次々と足を踏み入れて書類を押収していく。


 ※


 強制査察をはじめて3時間後。私はロヨラ副知事とともに待機していた。

 将軍の報告を聞いている。

「不正の部分的な証拠は少しずつ見つかりましたが、まだ確定的なものはでてきません」


「これではコルテス家関連企業までは行きつかない恐れがありますね」

 副知事も渋い顔をしている。


 おかしいわ。コルテス家との関連資料は膨大ですべてを処分できるわけがない。査察の情報が漏れているとも考えにくいわ。つまり、絶対にこの公社内に不正の証拠はあるはず。


 部屋の外では管理課長はこちらを見つめてニヤニヤ笑っていた。

 あの余裕な様子はおかしいわね。話した感じはコルテス家の威を借りる小物。

 慌てふためいていてもおかしくないはず。


 つまり、向こうにも切り札があるということ。


 そこから導き出される結論は……


「コルテス家関係者しか知らない隠し部屋があるのよ!!」


 ※


「隠し部屋ですか!?」

 将軍は驚く。


「ええ、その可能性が高いわ。公社以外に書類をおいておいても流出する可能性が高まるだけ。ならば、公社の少人数だけが知っている隠し部屋に入れておいた方が安全です」


「だが、問題はその隠し部屋がコルテス家一派しか知らないとしたら我々がその場所を把握することは不可能に近いことです。公社代表でもある私でも知らないのですからね」


「ロヨラ副知事、公社の設計図面などはありませんか?」


「残念ながら、私も就任時に確認しましたがそのような部屋はありませんでしたね」


「そうですか……もしよければ私にも見せてくださいませんか? 私も少しは建築に興味があるので」


 実は知事になる前の1年間のアルバイト生活時代に、いろんな本を読んだわ。その中には建築関係の本もあったから少しくらいはわかる。こういう隠し部屋を作る時は図面上に怪しい空間や不自然な柱が作られることが多いはず。図面を見ながら怪しいポイントをしらみつぶしに潰していくしかないわ。


 私達3人は図面とにらめっこを続ける。


 ※


「怪しいところはありませんね」


 私たちは図面を見て怪しい場所を探したがそんなところはなかった。

 そもそも怪しい空間がこの公社内には存在しなかった。つまり隠し部屋を作る余地がない構造ということ。


「見つかりましたかな、コルテス家を追いやる決定的な証拠が?」

 課長は私たちが手詰まりになった様子を見ていじわるそうな笑顔を浮かべてこちらに挑発に来たようね。


「ずいぶん、嬉しそうですね。管理課長?」


「いえいえ、そんなことはありません。我々はバルセロク地方のために仕事をする言わば公僕こうぼく。ですが、謝罪の言葉を聞くくらいの余裕はあります。コルテス家が許してくれるとは思いませんがね?」


「言うことが支離滅裂しりめつれつね。公僕がどうしてコルテス家への謝罪を受け付けるのよ?」


「あなたたちの希望だった隠し部屋は存在しない。あなたたちはコルテス家へ言いがかりをつけて破滅に追い込もうとした謀反人むほんにんだ。コルテス家の港湾利権は、裏返せばあの家がなければそれが回らないということです。あなたたちはそれがわかっていない」


「行き過ぎた港湾の私物化は正当化できません。それに、私たちは負けたわけではない」


「負け惜しみを……」


「隠し部屋がないということが分かったから、私たちの勝利は確実になったのよ?」


「なにを……」


「隠し部屋がないならば、不正書類の隠し場所はひとつだけよ。地下ね? 1階のどこかに隠し階段がある。違うかしら?」


 私の言葉に課長は青ざめて震えはじめた。

 私は勝利を確信した。


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