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第67話 元婚約者

私はそう言って、クルム王子に白い手袋を投げつけた。イブール王国に伝わる伝統的な決闘の申し込みの方法よ。剣と魔法の戦いじゃないけど、私は政治の場で彼と決着をつけるつもり。


 女の私に決闘を挑まれる。プライドが高い彼にとってはこの上ない屈辱のはず。でも、自分で同じゲーム盤に立ったのだから逃げることもできない。


「クルム殿下。あなたは、私を何度も殺そうとした。火山噴火の責任を負わせた時。知事選挙の時。そして、今回の海賊騒動。でも、結果はどうですか? 《《あなたは失敗した》》」


「失敗してなどいない!! あれは私がやったことではない!!!!」


 失敗の言葉に過剰に反応している。やっぱり、プライドだけは高いのね。


「王族は結果こそ重視されます。政治家も同じです。あなたは私の政治活動を何度も妨害した。でも、そのたびに失敗した。あなたは、名もない私たちに政治的に何度も敗北をきっしたんですよ。あなたは王族と言う圧倒的な権威を持ちながら平民の私一人始末することができない。違いますか?」


「違う!! お前は俺に勝ってなどいない」


「ならば、政治的に私に勝ってみせなさい。今のままではただの敗北者ですよ? そして、断言します。あなたは私に勝つことはできない。あなたには信念がない。だから私に敗北する」


「言わせておけば!! おい、バルセロク地方知事のお帰りだ。早くこの女を俺の見える場所から連れていけ」


「クルム殿下。最後に言わせていただきます。私はあなたを決して許さない。自分の野望のために、守るべき人たちすら利用して切り捨てる。そんな男が将来国のトップになっては滅びるだけ。私は必ずあなたを今いる場所から引きずり下ろす」


「このアマ! 言わせておけば……ならば、お前が目指す理想とはなんだ?」


「守るべき人を守ることができる政治です。このまま、あなたが支配者になったらできない政治ですよ」


「ならばいい。お前の決闘を受けてやろう。そして、最終的に俺が勝つ。俺が国王になればお前たちはみんな粛清だぞ。そして、お前を断頭台に送ってやる。俺に逆らうものは全員処刑だ。わかっているんだろうな、ルーナ=グレイシア?」


「すでに、私は何度も命を失うはずだった身です。いまごろ処刑が怖いなど言うわけがありません。すでに大義名分を失ったあなたたちに未来はない。もう歴史の流れは止めることができませんよ? 自由を求める人たちの願いをあなたたちは抑えることができない」


 そして、衛兵がやってきた。私たちはうながされる前に、彼の部屋を出る。


 ※


―バルセロク地方庁 知事室―


「それは最高幹部会議を始めましょうか」


 私たちは知事室に集まって会議を始めた。会議の参加者は5名。私、副知事2名、元老院議員のアレン、地方兵団長シッド少将の5人。シッド将軍は昇進したため本来なら地方兵団から異動しなくちゃいけないんだけど、特例でここに残ってもらったわ。宰相様からの強い要望ということで。


 シッド将軍も地方に残りたかったらしい。中央の貴族たちのごたごたに巻き込まれるのが面倒というのが大きい理由。


 バルセロク地方兵団長兼中央情報本部情報官になれば、少将が地方兵団長を兼務してもいいらしい。前例があるかないかが大事なのよね。


「中央情報本部情報官」とは最前線で情報を集める担当者のこと。バルセロク地方は港街だから各国の情報が集まりやすい。情報担当者がここにいるのはむしろ好都合とのことよ。


 ロヨラ副知事が議事を務めてくれる。

「さて、コルテス家が独占している港湾利権の解体をどうするかだが……」


 これに関してはかなり調べ上げたわ。


「私に腹案があります。イブール王国国家騒乱(そうらん)罪を適用しバルセロク地方港湾公社(こうわんこうしゃ)を利用します」


「「「国家騒乱(そうらん)罪と港湾公社?」」」


「逮捕された前港湾部長は、コルテス家の影響下にあるバルセロク地方港湾公社の幹部を兼任していました。港湾公社は半官半民の会社で、代表は港湾部長が兼務するのが通例です。私が彼を罷免ひめんした時、同時にその職を失っていますが、コルテス家の影響力を行使して名誉顧問という職にとどまっています。港湾公社が不正の温床だったことは間違いない。だから、港湾公社を解体します」


「しかし、それでは地方庁にまで責任を問わることもありますよね?」

 クリス男爵が懸念を表明する。


「ええ、それは間違いない。ですが肉を切らせて骨を断つですよ。新しい代表として、異例ですがロヨラ副知事を港湾公社の代表に派遣し、同時に国家騒乱罪疑惑をかけて港湾公社を地方兵団を使って徹底的に調べ上げます。代表が私たちの陣営のロヨラ副知事ですから、公社にくうコルテス派も散発的な妨害くらいしかできないはず。やつらの手先はそこで徹底的に排除して、コルテス家関連企業の営業許可を取り消す」


「そして、コルテス家の影響を完全に排除したらロヨラさんのプランで改革を断行するということだな、ルーナ?」


 アレンの言葉に私は同意する。


「ここから反撃開始ですな!」

 将軍は豪快に笑った。知事選から続いているコルテス家との戦争はついに佳境かきょうを迎えた。



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