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第63話 絶望する海賊たち

―アレン視点―


 私はルーナを病院まで届けた。見た感じは重いケガはないが先程まで敵に襲われていたんだ。無理をさせるわけにはいかない。

 

 病院では、先に避難した職員たちに彼女は歓迎された。もう人心掌握は完璧だな。


 本当はずっと寄り添っていたいが、私も自分の義務を遂行しなくてはいけない。市内の海賊の残党を駆逐くちくする。


「じゃあ、そろそろ行ってくるよ、ルーナ? ここですべてが終わるときを待っていてくれ」


「アレン、無事に帰ってきてください」


「だいじょうぶだ。伊達だてに英雄なんて呼ばれていない。街を取り戻してくるよ」


 そして、私は空へと向かう。愛する人を守るために……


―グラン船長視点―


「くそ、どうなってやがる。あんな空中浮遊できるなんて聞いてねぇぞ。こうなったら海に戻って逃げなくては……お前たち、こっちだ……あっ……」


 俺は残存している部下をまとめて退却をしようとする。しかし、俺の周囲にいた5人の部下は次の瞬間に吹き飛ばされていた。


「ぎゃあああ」


 部下たちの断末魔を聞いて俺はただ走った。止まっていたらやられる。


 奴らは空中から強力な魔力攻撃で一方的に俺たちを蹂躪じゅうりんしている。空中にいるせいで反撃すらできない。強者が俺たちを圧倒していく。


 屈辱だ。小国の海軍に匹敵する戦力をもつ俺の栄光あるグラン海賊団が一方的にボコボコにされている。


 何人もの人を殺してきた俺が今度は殺されのか?


 嘘だろ。俺は今回の件で成功して海賊を引退して遊んで暮らすはずだったのに……


 海まで走った。だが、海岸はさらに絶望的な状況だった。俺たちの船はすべて炎に包まれていた。海岸に漂着した部下のほとんどは捕まっている。


 抵抗したと思われる海賊団の幹部は斬りつけられてこときれていた。


 今まで作り上げてきた俺のすべてが失われていた。


 もう仲間も船もそれに乗っていた財産もすべてが失われた。俺は政治家の甘い話にのってすべてを失った愚かなピエロということだな。


 散々人に死を与えてきたのに、今はどうしようもないくらい怖い。


 生き残る方法を必死に考える。


 一台の馬車が見えた。どうやら混乱の中で乗り捨てられたものらしいな。馬は生きている。この一本の糸にすべてをかける。


 まだ、市内は混乱しているはずだ。イブール王国の本隊が到着する前ならぎりぎりで逃げ切ることができるかもしれない。どうせ、捕縛されれば、厳しい尋問の後に処刑されるのは間違いない。ならば、山賊になろうが自由に生きられるならそれに越したことはないはず。


 これは天恵だ。

 俺は馬を走らせて市内を激走する……


 ここで死ぬわけにはいかねぇ。


 ※


「アレン司令。海岸から逃亡する怪しい馬車を視認したと情報がありました。現在逃亡中のグラン海賊団一味が中にいるかもしれません」


「わかった。だが、民間人の可能性がわずかに残っている。私がそちらに向かうまでは攻撃はおこなうなよ。追跡だけに専念しろ。やっても警告射撃だ。数分で合流できる」


「了解。逐一、馬車の位置を連絡します」


「よろしい。頼んだぞ」


 部下からは連絡があった。街を走り回っている怪しい馬車がいると。すでにほとんどの海賊は制圧している。あとはグラン船長だけだ。


 すでに元港湾部長は逮捕している。あとはもうひとりの首謀者の逮捕をすれば完全に勝利だ。


 仮に取り逃がせば、必ず後の災いになる。クルム王子の陣営が自由に動かせることができる犯罪者を残すことになってしまう。そうすればまた、ルーナは襲われるだろう。私がいないときに暗殺者が動く。それを想像するだけで怒りしか湧いてこない。


 クルム王子は恩人だが、すでに彼は超えてはいけないラインを超えてしまっている。


 ルーナを逆恨みし、関係のない人たちまで不幸にするような作戦を実行した。もうあの人に政治を任せることはできない。いや、任せてはいけない。私が止めるべきだった。だが、止めることができなかったからこうなってしまった。私にもあの人の暴走を許した責任を取らねばならない。いつか、あの王子に自分の犯した罪を償わせなければいけない。


 そのためにも今回の海賊船の乱は完膚かんぷなきまでに叩き潰して、こちらの力を向こうに把握させる。グラン海賊団がクルム陣営の最大の戦力だ。いくら軍務省の法務局長を味方につけたといっても、正規軍が地方庁を攻撃することはできないからな。自由に動ける戦力で最も巨大なものをこちらにぶつけたとすれば、俺たちはそれを簡単に退けて向こうに煮え湯を飲ませればいい。


 ここでグラン海賊団が壊滅したら、向こうも同じような実力行使の謀略は使えなくなるはず。


 そして、俺は部下たちと合流した。中央通りを逃走する馬車が視認できた。


「司令。あの馬車です」


「警告はしたか?」


「はい。警告射撃もしましたが、停止する様子もありません」


「わかった。なら、俺が確保する。魔力で援護してくれ。お前たちは馬車の荷台を吹き飛ばしてくれ。俺は運転手を拘束する」


「了解」


「撃て!!」


 俺の掛け声とともに部下は攻撃をはじめる。一瞬にして馬車の荷台は吹き飛び、運転手は道路に叩きつけられた。


 俺は一気に加速して、運転手のもとに向かう。

 男はうずくまっている。

「くそ、なんだこりゃ。痛ぇ」


 転がっている男の顔がよく見えた。やはり、今回の事件の首謀者・グランだ。


「目標確認。即刻、逮捕する」


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