第61話 突入
私は知事室に籠もる。ここまでくれば少しは時間を稼げるはず。ルートを間違えれば罠に阻まれて戦力を失うはず。
ここまで頑張ったのだからあとは天命に任せるだけ。
知事のいすに座って、時が来るのを待った。本当ならば外に逃げるべきだったのかもしれない。でも、入り口は完全に賊によって封鎖されていたからそれもできなかったわね。仕方ない。
「きっと知事室にいるぞ。みんな、用心して進め。ここはトラップだらけだ。あの女はかわいいくせに、かなりの悪女だ。そこら中にあいつが仕掛けた罠があると思え!」
ついに4階に賊がやってきたわね。私は目をつぶってその時を待った。
数分後、敵は知事室に突入してきた。
多くの男に矢が突き刺さっている。ほとんどの男たちが血だらけだ。見事にトラップに引っかかってくれたのね。
私は知事の椅子に腰かけて威厳をもって賊を迎えた。
「やっと来ましたわね」
「このアマめ。俺たちのことを散々いたぶりやがって……覚悟はできているんだろうなぁ、あぁ?」
「あなたが勝手に踏み込んだのでしょう? たとえ猫に追い込まれたネズミでも反撃はしますよ。窮鼠猫を嚙むというでしょう。それも予想できなかったのですか? だから、あなたたちは私に負けるんです」
「ふざけるな! おい野郎ども。この女の顔を殴ってやれ。人相を変えるくらいにな」
男たちは怒り狂って私に向かう。男たちの先頭は、港湾部長が走っていた。
椅子の後ろには、窓ガラスからバルセロナ市が見えた。今日はとても晴れている。
『ルーナ、伏せろ』
愛しい人の声が聞こえた。幻聴かもしれないけど私はその言葉に従うべきだと思った。
私は机に潜り込むようにして床に伏せた。
ガラスが割れる音がする。外から煙玉が投げられて、あたり一面が煙に包まれた。
外からは魔力による攻撃が賊を襲った。
「馬鹿なっ! ここは4階のはずだぞ。どうやって魔力攻撃を……」
「ぎゃあああぁぁぁっぁああああああ」
「敵だ、どこにいる。叩き切ってやる」
「やめろ。こんな視界の中で剣なんて振るったら同士討ちになるぞ」
「じゃあ、どうしろっていうんだよ、ぎゃっ」
「このままじゃ一方的にやられちまう」
「ルーナ、無事か!」
愛しい人が私のもとに来てくれた。
重そうな装備を背負っているけど、たしかにアレンだった。
「アレン。どうしてここに?」
「黙っていてすまない。実は、私は近衛騎士団を辞めた後に宰相様からスカウトされたんだ」
「スカウト?」
「ああ、宰相閣下直属の精鋭特殊部隊"亡霊"の指揮官にな」




