第58話 暴徒
「暴徒なおも侵攻中です!」
「警察隊は?」
「完全な装備をもっている海賊とは分が悪く敗走中です。やはり、前線から兵を持ってきたほうが……」
「それはだめ。前から兵を連れてきてしまえば、海賊団本体が上陸してしまうリスクが高まってしまう。そうなれば、被害はさらに増えてしまいます」
「しかし」
「あいつらの動きから見るからに狙いは間違いなく私。だから、あいつらは私さえ捕まえれば目的は達成される。ゲリラ部隊はここに攻めてきますから、まずは職員の人たちは避難してください。私さえ残れば大丈夫ですから」
ロヨラさんと私を見つめて頷いた。
「わかりました。知事。地方庁の資金はこの下の階の金庫に隠されています。賊にそれを渡すわけにはいきません。鍵は誰が持っていけばいきましょうか?」
ロヨラさんは私の気持ちを察してくれた。
だが秘書課長は反対のようだ。
「ロヨラ前知事!?」
秘書課長は声をあげて反対した。
「秘書課長ありがとう。でもね、大丈夫よ。さっきの通信で准将が言ってくれたじゃない。『なんとかするよって』。彼は性格的には少し軽いけど、中央での評価は戦場の心理学者と言われるほどの人物よ。彼がなんとかするよって言ってくれたのだから信じて大丈夫。鍵はロヨラさんに任せます。職員は中央病院へ移動してください」
ロヨラさんが驚愕していた。
「まさか、かつての政敵である私に鍵を? 裏切ってしまえばあなたは確実に終わるのに」
「たしかにそうですが……あなたは、コルテス家とは違う。選挙で戦ったからよくわかるわ。あなたは、この地方に住む人たちのことを考えて仕事をしていた。だから、大丈夫。あなたは私の背中にいる人たちを裏切ることは決してない。そう、確信しています」
「過大な評価ですが最善を尽くしましょう。知事もご無事を祈っております。あなたとは《《これからも》》一緒に仕事をしたいですからね」
「それは?」
「さきほどのスカウトの答えですよ。よろしくおねがいします、ルーナ知事?」
「ありがとうございます、ロヨラ《《副知事》》」
「まだ、地方議会の承認がありませんから気が早いですよ」
そう言って私達は別れた。再会の約束を笑顔で交わして。
※
―シッド准将―
魔力通信を使って旧友と会話をする。
「ああ、海賊船の方はもうすぐ制圧だ。だが、沈没した船から賊が泳いでこちらに来ている。そいつらも倒さねばならないだろう?
ああ、だから地方庁に向かっている賊の別働隊はキミたちに任せたい。宰相閣下直属部隊のキミたちの初陣だ。
なんだ、そう怒るなよ。……くらい……で守れよ」




