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第57話 砲撃

 遠くで大砲の大きな音が鳴る。ついにはじまったわね。戦争が……


 前線の魔力通信がこちらにも回るようにしてもらっている。


 ※


『初撃、敵4番船に肉薄。射角調整を』

『了解。敵の甲板に動きがあります』

『敵の攻撃も来るぞ。その前にこちらが第2波だ。撃たせるな。装填出来次第、こっちから撃つぞ』

『準備できました』

『よし、一斉掃射だ。第一波でダメージを受けている一番前の4番船を狙え』


『3,2,1,撃てっ!』

 将軍が言い放つと通信装置から轟音ごうおんが鳴り響く。


『当たったか!?』


『4番船に直撃! 敵船炎上しました』


『よくやった。続いて中央の2番船を狙うぞ』


 ※


 准将たちが1隻を撃破したことで会議室は沸き立つ。


「さすがの練度ですね。准将の部隊は……正確な射撃能力だ」

「はい、このまま敵を倒してくれればいいんですけどね」


 ロヨラ前知事と話す。お互いにそれが最善だとはわかっている。だが、敵もそう簡単にやられてはくれない。


 ※


『敵船から砲撃を確認』

『総員、伏せろ!』


『被害を知らせろ』

『敵攻撃、第2砲台付近に着弾。負傷者は出ていますがわが軍の損害軽微』

『准将、一発がそれて港湾市場に直撃した模様です。そちらの被害は不明』


『損害軽微なら攻撃を続ける。ここで攻撃を緩めたらさらに被害が出るぞ。ひるむな、俺たちの街を守る! 負傷者だけは後ろに下がらせろ。衛生兵と共に治療を』


『了解』


『狙いはそのまま敵の2番船だ。火力はこちらが優勢だ。撃ち合えば負けることはない』


 ※


 港湾市場に敵の攻撃が直撃。さらに兵士に負傷者が出ている。


 覚悟していたとはいえその報告は私たちの心に刺さる。ここで戦況を見守ることしかできないのがもどかしいわ。


 庁舎の近くで何かが爆発した音がした。


 上の階にいた職員が慌てて下りてくる。


「知事大変です。流れ弾が近くに着弾しました。こちらも危険です。やはり後方に下がられた方が……」

 ついにこの近くまで被害が出てきたのね。死者が出ないことだけを祈るわ。


「大丈夫です。心配ありがとう」


 私は静かにそう言った。ここで引くわけにはいかない。知事が敵前逃亡していたら誰がこの場所を守るのよ?


 前線では兵士が命を懸けて私たちを守ってくれている。

 私をそれを信用してここで待つ。


 別の職員が慌てて駆け込んできた。


「知事、海賊船とは違う問題が! 市内の方で何者かによって暴動が起きています。前線部隊は海賊船にかかりきりでカバーできません。警察は避難誘導に忙しくこのままでは大変なことに!!」


 ※


「何が起きたの。こんな非常時に暴動なんて?」

 明らかに変な時期に暴動が起きている。これはきっと海賊船の襲来と呼応しているはず。


「それが避難誘導をしていたところ、突然男たちが周囲の人たちを斬りつけ始めたのです」


 やはりそうか。しまった。海賊船だけじゃなかったのね。敵の作戦は……


 海賊の厄介なところは簡単に一般人に紛れ込むことができること。

 ここは港湾都市だから見知らぬ人が増えてもだれも驚かないし不思議にも思わない。これが敵国の兵士なら国際条約違反だけど、そもそも海賊は犯罪者で法に縛られる必要はない。


 だから、こんなだまし討ちみたいなことも平気でできる。装備が軍隊よりも弱い警察だけで対処するには厳しいものがある。


 つまり、グラン海賊団のバルセロク市潜入部隊が後方をかく乱して地方兵団を挟み撃ちにするつもりね。もしくは、守りが手薄になったこちらを強襲するのか。


「間違いないですね。海賊団の潜入部隊が一般人を装って暴動を起こしているんです。我々にはそれに対処できる戦力がない」


「しかし、そんなだまし討ちをしては!!」


「残念ながら、海賊団にはわたしたちの常識は通用しないでしょう? 今暴動を起こしている男たちはどのあたりにいるの?」


「数十人で略奪や破壊行動をしながら中央通りを北上中です」


 北上か。港ではなくてこちらに向かってきている。つまり、奴らの狙いは私達。港の占拠や略奪はあくまでおまけなのね。


「(そうか、そういうことね。クルムっ!! あなたはついに超えてはいけないラインを……戦闘に勝つためじゃなくて、賊がこちらを目指しているということは地方庁に対してなにかしらの意図があるということ……この状況で考えられるのは、私に対しての個人的な恨みによる復讐)」


 そもそもグラン海賊団が損害を気にせずにバルセロク市を襲撃するなんてありえないわ。国家を敵に回すのだから、将来は壊滅させられるはず。つまり、相当な甘い蜜を用意しているはず。


 大海賊団にそれを用意できる者なんて限られている。その中で私に恨みを持つ人物は……


 クルム第一王子とコルテス家だけ。


 でもまさか私を狙い撃つために、こんな市民に犠牲者を出すことすらいとわない計画を持ち出すなんて……


 ラインは完全に超えている。私利私欲のために自分たちが守るべき民すらも犠牲にする。そんなことが許されるわけがない。


「(わたしとあなたは完全に終わったわ。自分が高みにいると思ってそこで待っていなさい。絶対に私があなたを引きずりおろしてやる)」

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