第51話 ロヨラ
私は会議の後に、昼食を食べてロヨラ前知事の家を訪ねた。
客間に案内されて私たちは久しぶりに対話する。
「任期初日にまさか会いに来てくれるとは思わなかったよ」
「私にとって一番大事な話をしたかったんですよ」
「ほう……ドン・キホーテ港湾部長を更迭したと聞いたがそれ関連かな?」
「話が早いですね」
「長く知事をやっていれば、慕ってくれる部下だっているさ。私が何年もかけてできなかったことを1日で成し遂げてしまったとは。無茶が過ぎる」
「どうせ、私たちはコルテス家と対立していますから。支持母体にいたロヨラ知事とは状況が違いますよ」
コルテス家は有力な貴族だから保守党に属している。ロヨラ知事も現役時代は保守党推薦だったからそういうしがらみはあるわよね。
「それはそうだが……中央とのパイプも大丈夫ということかな?」
「そちらは企業秘密ということで」
「そうか。じゃあ、本題に入ろうか。何を言いに来たんだい?」
ここからが本番ね。
「ロヨラ前知事。失礼だとは思いますが、我々の共通目的のためにお願いをさせていただきます。私のもとで、副知事になってはくださいませんか? 私たちにはあなたの力が必要です」
「なっ……私に副知事になれというのか!? 選挙のライバルだぞ」
「実力を考えたらあなた以上に適任の人物はおりません。コルテス家との直接対決も考えれば、バルセロク内で団結しなくてはいけないと考えます。私とロヨラ前知事が組めば最大の抵抗勢力でもあるコルテス家と海運マフィアを倒すことも可能になります」
「だが、それを受ければ私の政治生命は終わりだ。有権者からは自分の地位のためにライバルにすり寄った卑怯者だと思われるだろう。そんな不利益を私が被る理由は何があるんだ? それもこれは降格だろう?」
「たしかにそうです。でも、地位をかける価値がある提案だと思います。あなたの長年の悲願は私と手を組むことで成就される。あなたはバルセロク発展の礎として永遠に名前を刻むでしょう」
「魅力的な提案だと思う。だが、対価が大きすぎるな。即断できるほど私は英雄ではないよ」
「では、1週間後にまたお伺いします」
「キミにとっては1週間も副知事の人事が宙に浮くんだぞ? 不利益になるだろう」
「その程度の不利益を被ってもあなたを味方にできるなら安いものです。嬉しい返事をお待ちしておりますね」
私はそう言ってロヨラ邸を出た。
可能性は半分ってところかしら?
それだけあれば十分よ。私は自分の理想を叶えるために一歩ずつ歩きはじめる。