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第49話 幹部会議

 会議室にはバルセロク地方の課長級以上の幹部が集まっていた。


 みんな難しそうな顔をしている。

 

「それでは会議を開始しましょう。まずは、知事が考える優先目標をお聞かせください」


 司会役の総務部長にうながされた形で私は話し始める。


「私が考える優先目標は、3つあります。最も優先するべきことは、教育の普及です。我が国は列強諸国と比べて識字率の面で大きなハンデがあります。教育が普及すれば、産業の発展に大きなチャンスがやってきます。そうすれば、地方はうるおい税収は上がります。たしかに初期費用がかかりますが、それを上回る価値になるでしょう」


 ベテランの男の人が手を挙げる。


「知事。教育部長をつとめるエイフマンです。担当部門の長として、とても魅力的な提案だと思います。しかし、教育を充実するにはお金がかかる。教師を新しく雇う必要もありますし、校舎も必要になる。そこはどうでしょうか?」


「はい、エイフマン部長の言うとおりだと思います。将来的には立派な学び舎を整備するのが理想でしょうね。でも、それは現実的ではない。だから、形にこだわらないことにしましょう。子どもたちが勉強し将来の可能性を手に入れることが最優先です。既存の建物をうまく利用しましょう。教会や庁舎の空いている部屋、村の大きな空き家。なんでもいいんです。教師と生徒がいるなら、外だっていい。学ぶことはどこだってできますから」


「なるほど。教師の確保を優先しそこに予算を集中させるわけですね」


「その通りです。そうすれば、理想を叶えることは容易になります」


 拍手が起きる。よかった、この提案は受け入れてもらえたわね。


「次は、海運業です。ここがバルセロク地方の生命線です。ロヨラ前知事も海運業改革を志向しておられました。私もそこを引き継ぐ予定です」


 ここは前知事からも要望されていたところ。


 ※


「まず、バルセロクの最大の問題は治安だ。ここは港町を中心に発展してきた地方だからね。荒くれ者も一定数いる。だが、本質はそこじゃない。治安悪化の最大の要因は格差と労働環境だ。これを是正にしなくては根本的な解決にはならない」


「格差と労働環境ですか。たしかに貧困は心の余裕をなくしますよね。労働環境とは?」


「実はエル=コルテス議長関連の海運会社がかなり無理な条件で労働者を酷使しているらしい。それを是正にするには彼が死んだ今がチャンスだ」


 ※


「お言葉ですが、私はその意見に反対です!」


 体の大きな中年男性が私の意見に異を唱えて叫んできた。


 ※


「(彼は……)」

 私に反対意見を叫んでいる幹部の名前を秘書課長に問いかける。


「(彼は、ドン・キホーテ港湾部長です。港湾畑の専門家プロフェッショナルですが保守的な考えを持つ人です)」


「(もしかして、コルテス家とも関係が深いんですか?)」


「(彼は、あちらに気に入れられてあの地位を確保しました)」


 やはりそうね。つまり、私の政敵の息がかかっている男。抵抗勢力としてはなかなか厄介な相手。


「いいですか、知事。あなたは港湾行政については詳しくないはずです。たしかに、港湾労働者が治安を悪化させたりしている面はあります。しかし、彼らが居なければバルセロクだけじゃなく、イブール王国すべてに問題が発生するのです。いいですか、改革と聞けば聞こえはいいかもしれません。前・知事もおっしゃっていましたがこの改革にはリスクが伴います。海運業を潰せば地方は終わってしまうんですよ?」


 正論を並べているわね。でも、本音は自分の既得権益きとくけんえきを守りたいというところかしらね。でもやっかいだわ。私の政策の柱に対して内部でここまで強硬な反対意見を出す人がいたら改革案なんて進めることはできない。


「わかっています。しかし、海運業の違法な操業を認めることは行政としてはできないでしょう?」


「なにをもって違法と言うかです。公共の福祉のために、清濁併せいだくあわせ吞むのもトップには重要ではありませんか?」


「それは問題発言です。私たちは法を守ってもらうことが大前提ですよ、港湾部長? そのあなたが例外を認めろなんて言ってはいけないはずです」


「きれいごとですね。この地方の税収の3割は港湾関係から入っています。それを敵に回してしまえばあなたは終わりです。きれいごとや理想だけでは政治はできない。青すぎますな」


 随分と言ってくれるわね、この男は……


「ですが、理想や情熱がなければ人は動かない。それを忘れてしまった時、人間としては終わってしまう。そうは思いませんか?」


 これが私からの最後通告。


「思いませんね。何をするにしても金は必要です。自分から財布を捨てるバカがいますか? 知事の目指す改革はそういうことです」


 私をバカにするように笑う彼。どうやら無理のようね。なら、私も切り札を抜くしかない。


 仕方がないわよね。初日からこんな強硬手段を使いたくなかったんだけどね。


「わかりました。ならば、致し方ありません」


「ようやくわかってくれましたね」


「はい、わかりました。もうあなたとはやっていけませんね」


「はぁ?」


「ドン・キホーテ港湾部長、あなたを罷免ひめんします」


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