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第45話 ルーナvs王子

「ありがとうございます。連絡もせずに申し訳ございません」


「ああ、それはしかたないよ。だって、記憶喪失だったんだろう? それも《《偶然》》アレンの領土にたどり着いてよかったな。貴族の令嬢が何も持たずに知らない土地に取り残されても1年生きてさらに地方の知事として復活した。なんという奇跡だろうね?」


 嫌味ね。暗にアレンの裏切りと私の実績を批判している。めんどくさい王子様。


「ええ、ひとの温かさに助けられた1年間でしたわ。王都にいたころはこんなに人が優しいなんて思えませんでしたから……」


 私も嫌味は嫌味で返す。王都でクルム王子と過ごした10年間では味わえない貴重な体験をしてしまったから――


 もう王都での生活になんて戻れないわ。


「そうか、満足しているのか。それはよかったよ。ルーナが望むなら貴族の身分や爵位も元に戻せるように尽力させてもらうよ。キミの強い責任感はこの1年間でみんなに伝わったはずだ。誰も反対しないよ。いくら婚約は解消したからって僕はキミの元婚約者だ。キミと何年も同じ時間を過ごしてきた。家族同然の女性だ。甘えてくれ」


 なにを言っているの……

 この人は一体何を言っているのよ!


 自分の利益のために私たちを切り捨てた男が――


 ※


「キミと私の婚約は解消だ、ルーナ。早く王宮から出ていけ。いや、違うな。貴族社会にお前が残る場所はない。イブール王国宰相代理として、お前に命ずる。ルーナ。キミの身分と財産はすべてはく奪する」


「お前はもう平民だ。二度と会うことはないだろうな。さあ、何をしている、お前たち。この平民を王宮の外に連れ出せ。平民の汚い足で、王宮を汚すな」


「金もないお前に用はない。今回の災害も、お前の父親のミスが被害を拡大させたのではないか! お前はその責任を取って、身分をはく奪されるのだ。何の問題がある?」


「何を勘違いしているんだ? 俺は王子だ。王子の失敗を、部下のお前たちが取るのが自然の道理だろう。お前たち家族は悪徳貴族で義務をはたさずに被害を拡大させた。だから、失脚するんだ。世の中には便利な言葉があるだろう? なぁ、悪逆令嬢ルーナ? それとも、処刑されたいのかな?


 ※


 あの日、ぶつけられた暴言を私は絶対に忘れない。

 だけど、この人にとっては私たちはボードゲームの駒みたいな存在なのね。都合が悪くなれば簡単に切り捨てるし、利用価値があれば平気で優しくする。


 気持ち悪い。

 嫌悪感しかない。


 こんな人と私はあの時まで婚約していたんだ。本当にバカね。


「クルム殿下、もしよろしければ昔なじみの3人だけでお話をしませんか?」


 私は逃げない。


 ※


 私達は、迎賓館の中庭に移動する。ここならパーティーの参加者も来ないからきちんと話ができる。


「なんのつもりですか、殿下?」


「なんのつもりとは心外だね。僕は元婚約者の君を心配していたんだ」


「もう演技の必要はありません。あなたから私を心配していたなんていう言葉を聞くだけで鳥肌が立ちますよ」


「そうかい。じゃあ、本音で話そうか。俺とアレン、ルーナの仲だからな」


 クルム王子は怒りを込めた笑いを浮かべている。私たちは身構えて次の言葉を待った。


「とりあえず、お前たちは俺に宣戦布告した。どうなってもいいんだろう? その覚悟はあるんだよなぁ、ああ?」


「ずいぶん、けんか腰ですね。そもそも私を切り捨てたのはあなたですよ」


「俺は選ばれた者だ。お前たちのような臣下とは違う。いいか、イブール王国の王族は頭だ。そして、貴族や平民は手や足に過ぎない。お前たちがいくら傷つこうが、俺たちが生き残っていれば王国は続いていく。お前たちは俺たちを守るために存在しているんだ。だから、切り捨てられることも名誉なことだろう?」


 完全に暴走している。

 

「お言葉ですが、手足を切り捨てていけば頭もいつか死にますよ。あなたの考え方はいつか国を滅ぼします。臣下を守るためにあなた方は全力を尽くさなくてはいけないのです。それが逆転してしまえば、あなたたちに未来はない」


「青いな。不敬罪に問える発言だが、見逃してやろう。お前たちは政治の場で叩き潰すと決めているからな。俺は保守党院内幹事で、お前は自由党の幹部。だが、お前らは吹けば飛ぶような弱小勢力。今回のバルセロク地方知事選挙で俺に勝ったからって調子に乗るなよ。俺はいつかこの国の宰相になって、最終的に国王になる男だ。そうなれば、俺が国家だ。お前たちに未来はなくなる」


 ついにこの話になったわね。直接、宣戦布告される日が来るなんてね。


「そうですか。では、言わせていただきます。私たちはこの国に住むすべての人たちのために政治をさせていただきます。それ以上でも以下でもありません」


「……そうなれば、俺たちはかならず対立する。その覚悟はあるんだな?」


「私は一度死んだ身です。もう何も怖くありません。それに、殿下は私を何度も殺そうとしたのではないですか? でも、結果はどうですか? 私はこうして表舞台に戻ってきた。これだけでもはっきりします。いくら高位な身分を持っているあなたでも必ず思い通りになるとは限らない。あなたに私たちは殺せない」


「そうだと、いいなぁ。ここまで不快な夜ははじめてだ。もう直接会うこともないかもな」


「私もそう願っています」


「お前たちとの関係は、今日で完全に終わった」


 それを言い捨てて元婚約者は闇に消えていった。


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