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第43話 激怒

―ルイーダ視点―


 私はさっきの言われたことを思い出してムカムカする。


 ※


「そうですか? 傾国の美女なんて初めて言われたから嬉しくて! それに、英雄とも呼ばれる騎士のアレン様が一国の殿下を捨ててまで私のもとに来てくれたなんて女として最高に名誉なことじゃないですか? 元・婚約者としてひとつだけ忠告しておきます、ルイーダ子爵令嬢?」


「あなたは次期国母になるお方です。言動には注意した方がいいですわ。誰が聞いているかもわからないんですから。あなたの話では、まるで私とアレン様がクルム殿下のことを見限っているように聞こえますよ? 殿下はそんなに甲斐性かいしょうがないわけじゃありませんから。私は伯爵令嬢の身分を自分で返上したのです。そこに殿下の意思は介在していない。それが公式発表ではなかったですか?」


「さらにアレン様は私を選んで殿下と仲違いしたというのも軽率な発言です。仮にもアレン様は元・近衛騎士団副団長。そして現役の元老院議員です。そのような方がクルム殿下と確執があるなんて噂になれば、一番困るのは殿下ですよ。噂の出元であるあなたも国母としての資質を問われることになる」


 ※


 完全に脅されたぁ。あの女、知事とはいえ平民の分際でクルム殿下の婚約である子爵令嬢の私を脅したのよぉ。


 あいつの眼が、私のことを完全にバカにしていたぁ。婚約者として知性がない女だと遠回りに言って自分の方がはるかに格上だと……


 あの女は私の叔父上を失脚に追い込んだだけじゃなくて、クルム殿下に敵対する勢力にかつがれた唾棄だきすべき女なのにぃ。


「ふざけるんじゃないわよぉ!!」


 私は部屋に飾られていた花瓶を叩きつけて粉々にする。


「こんなにバカにされたことは、はじめてよぉ。許さないぃ。私が国母になったらあの女、本当に潰してやるぅ。そもそも、あのふたりがあんなにのさばるのは殿下が追放なんて生ぬるいやりかたをするのがいけないのよぉ。どうして、あそこで殺しておかなかったのかしらぁ。あんな害悪で腹黒女はこの偉大なるイブール王国にいてはいけない災厄。私があいつらを消してあげないとダメよねぇ。そうしないと王国にとってとんでもない不幸になってしまうものぉ」


 私は自分に与えられた運命を自覚して笑い始める。


 そうか、だから神様から私は選ばれたのねぇ。

 この国を変えようなんて考えている不届き者を消せと言っているんだぁ。


 そうよね、だって、そうじゃなければ私が新しい婚約者になれる奇跡なんて起こらないわぁ。


 だから……


 私はあの二人を絶対に許さない。


 ※


 ルイーダ子爵令嬢を追い払って私達は就任式に出るための準備を整えたわ。


「似合っているよ、とてもすてきだ」

 彼は私のドレス姿を褒めてくれる。私は笑顔で頷いた。

 そして、合流場所へと急いだ。


 ※


 私とアレン様は式場の前でフリオ閣下とも合流した。


「ルーナ殿、おめでとう。やっと我々の戦いがはじまるね。君のドレスはとてもすてきだ。それがキミの戦装束なんだね? 覚悟は固めたかい、もう逃げられないぞ」


「逃げるわけありませんよ。それなら選挙なんかにでませんから」


「いい覚悟だ。それでこそ私が見込んだ森の聖女様だ。じゃあ、行こうか」


 私はふたりの男性をともなって会場に赴いた。豪華な服を着飾った悪魔たちが私達を待ち構えていた。ここが私の戦場なのね。


「よく来たね、ルーナ……待っていたよ」

 この式典を主催する宰相様が最初に話かけてくれる。


 現国王陛下の弟君にして、イブール王国の行政の頂点。保守党総裁にして、歴代最長の人気を誇る大政治家よ。


 党派は違うけどフリオ閣下とともに私達の後見人でもあるわ。


 そして彼は……



 お父様の友人でもあったわ。


 あの大災害の時、宰相様は病気療養中で執務を他の国務大臣に代理させていた。


 そして、宰相様、不在の時の内閣の中心がクルム第一王子だった。


 王子は次期国王最有力ということでその権威を使って宰相様不在の政府を牛耳っていたわ。そして、その中であのような大失敗をしてしまった。


 王子が私達家族に罪をなすりつけたのもあの大失敗を表ざたにしてしまえば政治生命の危機だから……



「キミのお父上のことは本当に残念だった。私が執務を離れていたせいで甥の暴走を許したこと、本当にすまないと思う」


「閣下!! このような公の場でそのような発言をしては……政府のメンツもあります」


 かたわらにいた軍務省大臣が戒める。しかし、宰相様は誠実な目で私を見つめてこう言い放った。


「このようなことで傷つくメンツなど不要だ。真の為政者は、メンツなどで政治をしない。謝るべきときに謝ることができない政治家はせいじかではないよ。そいつは二流以下の政治屋だ」


 公式文書や見解じゃないのはわかっている。でも、あの件についてこんなにきちんと謝罪してくれたのは宰相様だけだった。


「謝罪しても許される問題ではないのはわかっている。だから、私は私なりのやり方で君たちに償うつもりだ。私がキミの後ろ盾になる。党派は違うがバルセロクで理想を叶えてくれ。協力できることは何でも協力しよう」


「閣下……」

 私の目に熱いものを感じる。


「まだ泣くな、ルーナ。それでは就任式をはじめようか?」




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