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第37話 でーと

 私は新しいドレスを着る。

 公式の場所に着ていくにはちょっと派手すぎるじゃ……と心配になりつつも私は着飾る。大丈夫かな? 今日は初対面の地元の有力者さんとの会食なのに……


 こんなドレスじゃまるでデートに行く女の子じゃない……


 女の子っぽいふわっとした感じの薄いピンクのドレス。腰回りにはリボンが飾られていてアクセントで花柄がほどこされている。


 こういうのを一度は着てみたかったのよねぇ。

 ドレスを着るのは王子の婚約者として公式の場に参加する時ばかりだったから……


 白や薄い青のような地味なものしか持っていなかったから……

 だって、他の王族の人たちも参加していたんだもん。一番年の若い私が目立つドレスを着るのは避けていたの……


「これを着てみると私もまだまだ若いわよね?」

 鏡を見ながら初めて着るピンクのドレスに満足して笑う。

 政治家としてずっと仕事モードだったから余計にそう思うのかもしれないわね。


「ピンクのドレスってやっぱりかわいいな。どうして、もっと着ておかなかったのかな。ちょっと後悔しちゃうな」


 鏡を見ながら私はくるっとターンする。ドレスの袖がまるで花のように舞っていく。婚約者からのプレゼント。嬉しいな。私が思わず見とれていたのを見ていてくれたのね。


 私のことを大事に思ってくれている。それだけで心が満たされる。


 クルム王子からは頻繁にプレゼントは貰っていたわ。でも、それは自分の財力をアピールするための政治家としての彼が全面に出ていた気がする。高価なものを渡せば周囲にもアピールになるもの……そして、最終的には私たちの財産を没収して自分のところに戻るなんてね。


「ルーナ? 着れたかい?」


「はい! アレンが買ってくれたドレス、とてもきれいでみとれていました」


「そうか。じゃあ、ぜひとも見てみたいな? 早くこっちに来てくれよ」


「わかりました。似合わなくても笑わないでくださいよ」


 不思議ね。さっきまでは満足していたドレスなのに、彼に見せるとなった時は似合っていなかったらどうしようってとても怖くなる。


「大丈夫だよ、ルーナは綺麗だからどんなドレスもよく似合うよ」


「もう、適当なことを言わないでくださいよ」


 私は試着室のカーテンを開ける。


「どうですか?」


 変な汗がでてきてしまう。どうしよう、変だったら……


「うん、すごく似合っているよ。知事じゃなくてお姫様みたいだ。よかったよ、そのドレス似合うと思っていたからね。プレゼントできてね」


 彼の笑顔を見れて私は仕事中なのに幸せな気持ちになってしまう。


 ※


「じゃあ、行こうか。もうすぐ時間だ」

 アレンは私のドレス姿を見て満足そうにうなずきながらそう言う。たしかに少しずつ日が暮れ始めている。


 夜の会食に遅れないようにしなくちゃいけないわ。


「ええ、行きましょう。先方を待たせてはいけませんからね」


「まぁ、そこは少しくらいは大丈夫だと思うけど」


「??」

 彼は不思議なことを言っている。どういう意味だろう。地元の有力者さんは温厚な方なのかしら?

 でも、遅れないにこしたことはないもの。少しくらい早めについていた方が心象もいいはずよね!

 私たちは会計を済ませて馬車に乗り込んだ。


「今回、会うのはどういった方なんですか?」


 私は何も知らされていなかったことに気づいた。

 どこで食事をするのかも、相手の方がどんな人なのかも……


「ああ、騎士団出身の人なんだ。今は現役を退いてこっちに隠遁生活しているんだよ。でも、現役時代のコネクションは強くてこの近くに領土を持っていて中央にも顔がきくね」


「なるほど。アレンの先輩みたいなひとですか?」


 そう言うと彼は笑顔になる。


「うん。騎士団のOBだよ。実力もかなり評価されていていてね。周囲からは現役復帰の話もでているんだけど断り続けている変わり者さ」


 そう言われると親近感がでてくるわ。あんまり貴族らしい貴族の人とは話が合わなそうだから……


 以前の私なら無理をしてでも話をあわせていたんだけど――

 今はそんな器用なこともできないわよね。


 でも、知りあえた人たちは大事にしたいわ。だって、それが今の私を作り出しているんだから。


「このレストランだよ」


 馬車は止まる。老舗のヴォルフスブルク料理屋さんね。私でも名前を知っている。お値段もそこそこに美味しいご飯が食べられることで有名よ。もっと格式ばった場所だと思ったけど、さすがは近衛騎士団のOBね。実利重視という考え方か。


「ちょっと挨拶してくるよ。悪いけど少しだけ待っていてくれないかな?」


「はい。よろしくお願いします」


 アレンはさきにレストランに入っていく。少しだけ緊張するわ。失礼がないようにしないとね。


 お化粧も少しだけなおしておこうかしら?


 そわそわしながら待っているとすぐにアレンは戻ってきた。


「もう大丈夫ですか?」


 私がそう言うとアレンは笑う。


「はい、大丈夫です。ルーナ=グレイシア次期バルセロク地方知事閣下。今日は《《私のために時間を作ってくださってありがとうございます》》。元・近衛騎士団副団長で今は元老院議員を務めさせていただいているアレン=グレイシアです」


「どうしたんですか? ずいぶんと他人行儀な……えっ、まさか――今日、会食を申し込んできた地元の有力者って……」


 私はひとつの結論に達する。


「そう私です。ルーナ知事」


 私の婚約者はいたずらに成功した子供のように破顔の笑顔を浮かべた。


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