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第34話 知事

―ロヨラ知事視点―


 壇上では若い女性が熱弁を振るっていた。

 森の聖女とも呼ばれる彼女のことを理想に燃えた女性とみんな思うんだろうな。

 だが、そんな甘い女性じゃない。


 ※


「エル前議長とは彼が亡くなる前にお会いさせていただきました。彼は多忙にもかかわらず私への誹謗ひぼう中傷を改めるために動いてくれました。まさに正義の人だったと考えています。そんな彼がテロの標的となり命を落とした。これは我々の議会政治への挑戦だと考えております。ロヨラ知事がおっしゃったようにエル前議長の意思を我々は引き継がねばなりません。ここで私たちが立ち止まってしまえばそれはテロリストの狙い通りなのですから……どんな悲劇が起ころうとも私たちが立ち止まることは許されません。それが故人に対しての私たちの責任です」


 ※


 このメギツネめっ!

 まさか、ライバルの死すらも自分の理想のための燃料に変換してしまうのか。どんな材料すらも自分の力に変える。


 美しくて優しい聖女だと……

 ふざけるなぁ!


 この女はわずか20代前半でこんな技術を身に着けているのか。


 彼女はさらに続ける。


 ※


「エル前議長は、この地方の政治に対して新しい風を取り入れようとしていました。立場は違えども私はその一点において彼と意見を同じにしております」


 ※


 エル=コルテスの意思の一部を切りぬいて自分と彼がまるで対立していないかのように演出するのか……


 俺が当てにしていたエル=コルテスへの同情を自分にも集めている。

 彼女は殺し合いをしていた男の死すら自分の力に変えてしまうのか……


 このままで逆転の切り札だった同情票が割れる……


 だが、俺から否定することもできない。なぜなら、ルーナ=グレイシアはエル=コルテスを決して否定していないから……


 あえて彼を誉めることで、俺の反論の余地すら奪い取っている。

 この演説を否定しようとする者なら、エルへの同情票は彼女に流れる。


 なぜなら彼女の演説を否定することは、テロに倒れたエルを否定することになってしまうから……


 袋小路ふくろこじだ。

 俺はどうすることもできない。


 ※


「ロヨラ知事の功績は偉大です。彼の任期中に海運はより発展し税収は拡大しています。しかし、私を助けてくれた村のようにその発展から取り残されてしまっている場所もまた多いのです。よって、私はそのような地域に手を差し伸べる政治を行いたいと思います」


 ※


 そして、このセリフだ。一体どれだけ考えてきた!?

 まるで、あなたの時代は終わった。あとは後継者である私に任せるべきだと言っている……


 そんな印象を観衆に与えているんだ。


 私は何も言っていないのに、まるで後継者が決まったかのような流れだ。

 そして、それを否定することも難しい。


 演壇で話す美しい女性がまるで悪魔のように思えた。

 これがあの聡明なクルム第一王子の元・婚約者か。


 怪物のパートナーは怪物しかつとまらない……

 あの若さでここまでの印象操作力。


 まるで足元が崩れてそこに現れた怪物に体を飲み込まれるような――

 幻覚を見て、私は恐怖に震えた。


「(あれがエル=コルテスを飲み込んだ怪物の正体か……この勝負、勝ち目はないな……)」


 私は目を閉じて覚悟を固めた。


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