第31話 悪徳議長、粛清
「兄貴、今なんて言ったんだよ?」
死ねって聞こえたぞ。そんなどうして俺が死ななくちゃいけないんだ。
俺は兄貴の要請で知事選に出馬したんだぞ!?
「聞こえなかったのか? いや、違うな。認めたくなかったんだよな。だから聞こえないふりをした。その時点でお前は間違っているぞ。俺はそう言う無能が大嫌いなんだ」
「だって、俺たち兄弟だろ! なのに、どうして――」
「だから、お前はしょせん地方議会の議長どまりなんだよ」
そう言って兄貴は俺に向かってワインの瓶を投げつけた。破片が俺の顔に傷をつける。
「ひぃ」
「いいか、こんな状況を招いてお前は責任を取らなくてはいけないんだ。お前はコルテス子爵家に泥を塗った。このままではうちの一族から平民に負けた政治家を生み出してしまうんだ。それも、それがクルム王子の元婚約者……一番負けてはいけない相手だよなぁ。コルテス子爵家はしょせんそのレベルだと社交界で笑い者にされてしまう」
「大丈夫だよ、兄貴……俺たちが協力すればここからだって逆転できる。だから、負けたことには……」
「はぁ――出来が悪い弟を持つと困るな。いいか、すでにこんな状況に追い込まれた時点で終わりだ。すでに既成事実ができてしまっている。この既成事実を覆すためにはより大きな事件が必要だ」
「何を言っているんだよ」
「いいか、できの悪いお前のために教えてやる。すでに、コルテス家が選挙で負けそうになったから対抗馬のルーナ=グレイシアを暗殺しようとして失敗したという噂が流れ始めている。これはクルム第一王子とルイーダの婚約にも悪影響を及ぼす。お前の存在自体が、俺たちの最大の障壁なんだ。この地方の知事は魅力的だが、それ以上の喪失を俺たちの陣営に与えてしまっている」
「だから、俺が死ねってことかよ!?」
「ああ、筋書きはこうだ。あの暗殺は本来、ルーナ=グレイシアを狙ったものではなく、お前を狙ったものだったんだ。あの騒動は陽動で、本当の目的はお前の暗殺。捜査当局は見事に引っ掛かりお前は凶弾に倒れてしまった。お前は一躍悲劇のヒーローで、王室とコルテス家の婚約も無事に結ばれる。お前が死ねば、すべて無事に解決できる」
「いやだぁ、死にたくない。俺たち兄弟じゃないか。どうして、そんなことができるんだよぉ」
「兄弟? ああ、確かに生物学的にはそうだな。だが、いるだけで邪魔になるやつは俺の家族じゃない。お前は俺の代理になるという一点だけは使える奴だったのに、最後はそれを裏切った。もう、お前には存在する価値もない。最後の最後に家の名誉のために死ねるんだ。そこだけは喜べ、バカ弟……」
「助けてくれぇ。俺は選ばれた存在なんだぁ。名門・コルテス家に生まれた大貴族の俺がァ。もう失敗しない。だから、もう一度チャンスをくれ、頼む!!」
「もう遅い。最悪の状況に追い込まれた自分の才覚を呪え」
「いやだああああぁぁぁっぁぁあああああああ、あっ……」
俺は胸に激痛を感じる。
嫌だ、死にたくない。富も権力も現実で培ったすべてが無慈悲にすべて奪われる。
それも信じていた兄に裏切られて……
選ばれた権力者の俺がこんな虫けらみたいに死ぬ。
絶望に包まれがら意識が重くなっていく。
俺は死ぬんだ……な




