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第30話 失脚

―エル=コルテス視点―


「くそ、どうしてこんなにうまくいかないんだ!!」

 俺は自分の事務所に戻って部屋に立てこもる。

 ワインの瓶を床に投げつけた。1本じゃ落ち着かない。


 自慢のワインが次々に粉々になっていく。


 赤ワインの液体がまるで自分の血液のように思えるほど散乱する。


「いてえ」

 指が瓶で切れてしまった。

 だが、心の穴は埋まらない。


 俺はあいつの、ルーナ=グレイシアの弱点を見つけて意気揚々と会場に向かったんだ。さらに、腕の立つ刺客も雇っていた。これは保険的な意味での用意でこんな場所で仕掛けるつもりはなかったんだ。


 だが、アレン=グレイシアが――

 カステローネの英雄がすべてを破綻させてしまった。


 脅しだけのつもりだった。

 殺そうとするつもりはなかった。


 今回の怪文書でルーナの人気を下げて勝てればそれでよかった。

 だが、アレンの存在で俺が逆に追い詰められてしまった。このままでは負ける。俺はすべてを失う。名誉も権力もすべてだ。


 その恐怖に駆られてしまった時、俺は思わず指示をしてしまった。

 ルーナ=グレイシアを殺せと――


 ここで俺が逆転するためにはあいつが突然死ぬしかないと思ってしまったから……


 だが、それすらもアレンに阻止された。


 もう、悪評は消せるレベルを超えてしまった。

 あんなに人間がいた中で大きく動き過ぎた。圧力で消せるようなものじゃない。


 刺客は毒で自殺しているだろうし、警察は抑え込んでいる。だが、人の口には戸が立てられない。


 終わった。

 知事選で平民に負けた愚かな男。

 数々の汚い手段を使ったにもかかわらずぼろ負けした敗北者。


 もう俺は二度と表舞台に立つことはできないかもしれない。


 絶望感に打ちひしがれている時、秘書がドアをノックする。


「エル様、ご来客ですが……」


「うるさい。今は誰とも会うつもりはない!」


「しかし――」


「命令がきけないのか!?」

 俺はむしゃくしゃして、残っていたワインをドアに投げつける。


「ひぃ」

 瓶は粉々に割れた。


 だが、ドアノブは動き誰かが入ってくる。なんだ、と――


「どうして、《《兄貴がここに》》……」


 ドアの向こうにはカインズ=コルテス子爵がいた……

 軍務省法務局長が……


「お前の応援に来たんだがな……まさか、あんなことになるとはな」


「すまない。失敗した……そうだ、兄貴ならなんとかできるだろう。頼むよ、なんとかしてくれよ。もう、兄貴しか頼れないんだ」


「ああ、なんとかしてやろう。でも、ひとつ俺の言うとおりにしろ」

 兄貴はいつものように冷静だった。大丈夫だ。兄貴は優秀だ。なんとかしてくれる!!


「もちろんだ。なんでもする」


 兄貴はそれを聞くと満足そうに笑う。

 そして、ひどく冷たくこう言ったんだ。


「じゃあ、死ね」

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