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第28話 論破

 そして、アレン様が登壇する。

 勝負ありね。


 観衆がどよめいている。


「あれは、アレン=グレイシア退役大佐!?」

「まさか、そんな大物が……」

「近衛騎士団の前・副騎士団長だと!?」

「本物のあのカステローネの英雄だ」

「元老院議員のひとりがでてきた。後ろ盾にフリオ=ルイス元文部大臣と英雄アレン=グレイシアがついているのかよ。すさまじいな、おい」

「だから、ルーナさんはグレイシアと名乗っているんだな。もしかして、二人は結婚しているのか?」

「でも、アレン大佐はクルム第一王子の側近中の側近だろう? エル議長の姪が王子の次期婚約者なのにどうして敵を応援しているんだ……」

「まさか、あの鉄の結束を誇る主従関係が破綻したのか?」


 もちろんアレン様は有名人。

 カステローネの英雄。


 それは国王陛下を暗殺しようとしたテロ組織をひとりで阻止したアレン様を讃える称号よ。


 田舎貴族の傍流にいた彼が一気に歴史の表舞台に立てたのもその影響。テロ組織を剣一本で壊滅させて、国王陛下を狙った狙撃魔法を自分の体を使って防ぎきった彼の立ち回りは本当にすごかったわ。


 新聞では彼を連日報道し、英雄と讃えたわ。

 中尉であった彼は、その功績によって2階級特進。史上最年少の少佐になったの。

 中佐、大佐昇進も最年少。


 まさに歴史に残る英雄ね。


 その英雄が理由も説明せずに軍を辞めてしまった。

 皆いろんな憶測を流していたわ。


「クルム第一王子のために元老院議員になった」とか「軍の将軍にうとまれて解任された」とかね。


 その彼が下野してから初めて表舞台に登場する。強い印象を与えることができる。


「皆さん、元老院議員のアレン=グレイシア退役大佐です。ここでバルセロク地方に流れているうわさについて私の方がひとつ言わせてもらえればと思います」


 にこやかな笑顔でアレン様は力強く演説を始める。

 その力強さは観衆たちの注意を一身に引き付ける。


 もう、エル=コルテスの存在なんてみんな忘れてしまったかのように……


「まず、伯爵領から救援要請がなかったという《《噂は事実無根です》》」


 エル=コルテスの顔が真っ青になっている。


「伯爵領から救援の要請は災害発生後すぐにありました。運が悪いことに軍の本隊は演習中で、伯爵領とは真逆のバルセロク地方の演習場にいたため向かうのが遅れてしまったというのが噂の正体です。軍の記録や新聞記事にも演習の記事があります。こちらがその写しです」


「「「おおお~」」」


「さらに、不運が続きました。なんと救援活動の陣頭指揮を執っていたルーナ候補のお父上が災害に巻き込まれて行方不明になってしまったのです。彼は一番危険な地域の避難活動に従事していたんです」


「じゃあ、伯爵家がなにもしなかったという怪文書は真っ赤な嘘だな」

「そうよ。むしろ伯爵領じゃなかったらもっと大きな被害が出ていたかもしれないわね」

「領主が行方不明になったのに、迅速に対策に動けたというのは危機管理能力の高さの裏付けだよな」

「誰だよ、こんなうわさ流した奴……」

「本当に失礼な奴だ」

「ルーナ様もあえてそれについては語らず責任を自分だけに背負っていたなんて……なんて立派な女性だ。彼女が爵位を返上する必要すらなかったはずなのに」


 ありがとう、アレン様。

 これで完全に噂の影響は消えるはず。

 メディアにも取り上げられるだろうし、アレン様の知名度は本当にすごいわね。


「そして、これは完全に個人的な話ですが……私の婚約者を侮辱ぶじょくすることは許せません!」


 アレン様は私のことをじっくり見て力強く断言した。


 ※


「(勝負あったわね)」

 私は無言で、エル=コルテスを壇上から見つめた。

 彼は、顔面蒼白になって小刻みに震えているわ。


「ありえない、ありえない……どうして、ここにアレン大佐がいるんだ。兄上は何も言っていなかったぞ。こんな重要な情報がどうして共有されていないんだよ――まさか、俺はあいつらにとっては捨て駒に過ぎないのか」


 自分で墓穴を掘ったわね。こんな怪文書がなければあなたは若干の有利をもって選挙に臨めたはずなのに。


 もしくはここで自分が出てきてかき乱さなければよかったのに……

 悪手に悪手を重ねたわね。歴戦の政治家にしては不用意だったとしか思えない。


 有利な側がどうして積極的に動くのよ?

 自分から争点を作ってそれが突破口になってしまい逆転を許す。

 策士策に溺れるとはこういうことね。


 これで私に対する誹謗中傷は完全に覆ってしまった。

 怪文書のような形では影響力は限定されていたのに、わざわざマスコミの前で大事にして私の弱点を潰してくれた。


 もう、味方なのかしら? このおじさんは……

 壇上ではアレン様が演説を続けている。


「よって、伯爵家の対応を考えれば、ルーナの危機感力にも問題はありません。彼女は、お父上が行方不明という絶望的な状況にもかかわらず、領土の救援のために王都で気丈にも奔走していました。間近で見ていたから間違いありません。よって、エル=コルテス殿の――失礼しました。今回は怪文書でしたね。怪文章の内容は事実無根です。今日はそれをはっきりさせに来ました」


 あえて、エル=コルテスの名前を挙げて非難の意味を込めているわ。


 でも、会場の人たちもこの怪文書はエル陣営が作ったものだと察してくれているみたい。明日の朝刊が楽しみね。やんわりとエル陣営の責任を追及するような記事がたくさん発表されるわね。


 それが出れば勝負が決まる。

 僅差しかなかった支持率が逆転する流れが生まれた。


 会場は拍手に包まれる。

 

 エル=コルテスはうつむいたまま顔を上げない。ずいぶん素直に負けを認めるのね。


 おかしいわ。こんなに素直な相手なわけがない。なにかあるはず。


 コルテスに注意を向けていた私たちの前でひとりの男の記者が立ち上がる。


「この偽善者め!! 覚悟しろ!」


 男は絶叫しながら、魔力を手に集めた。


「伏せろ、暗殺者だ!!」と誰かが叫んだ。


 これがあいつ(コルテス)の用意していた切り札ね。

 いざとなったら私を直接排除するために用意した強硬手段……


 男の手からは火炎魔法が放たれた。

 火球が私に迫る。


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