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第27話 舌戦

 まさか、ここに敵陣営の大将が殴り込みに来るとはね……

 でも、おもしろくなったわね。


「これはこれは、エル=コルテス議長。まさか、来ていただけるとは思いませんでしたわ」


「いやなに、私は森の聖女様の大ファンなんでね。ここでお会いできると聞いて飛んできたんだよ」


 さすがはタヌキね。一見、私をおだてるように見せて警戒感を解こうとしているのね。でも、残念。私だって元貴族で元国母候補。この程度の状況では動揺なんてしない。


「それは光栄です。お互いに今度の選挙は正々堂々と戦いたいものですね」

 私は嫌味を付け加えてみる。この前の怪文章の出元は間違いないエル=コルテス陣営だもの。


「そうですな。バルセロク地方は海運の中心。まさに国家の心臓ともいえるほど重要な場所です。この地方のトップを選ぶ選挙ですから慎重にならないといけませんな~」


 嫌味には嫌味で返す。政治家の常とう手段ね。

 災害時の失敗のことを婉曲えんきょく的に批判しているのね。


 この国家の心臓部を平民の女には任せられない。

 そんな自信が垣間見える話し方だったわ。


「それで質問とは?」


「いえ、なに大したことではないのですよ。もしかしたら、皆さんもご存じかもしれません。どうやらここ最近、怪文書が出回っているようでしてね。私のところにも届きました。これですよ、これ! そうだ、記者の皆さんにもみてもらいましょうか? その方が話が早い。秘書に複写を用意してもらっているんですよ。準備がいいでしょう?」


 そう言うと勝手に文章が配布される。

 なんとしらじらしいことをしているのかしらね。自分たちが作った文章だからこんなに早く用意できたんじゃないの……


「なんと卑劣な文章でしょうか? あの森の聖女たる高貴な思想家に『この1年間彼女は、立派に森の聖女を演じて周囲を《《だまし続け》》てきた。だが、彼女の行為はしょせんは欺まんであり、偽善である』なんて言っているんですよ。僭越せんえつながら一番大事な場所を音読させていただきますね。『甚大な被害が発生し彼女は領民を守るという義務を果たせなかったからすべてを失ったのだ……有事の際に彼女に地方の指揮を任せてはいけない。彼女は能力に欠ける。その事実だけは忘れてはいけない」


 まさかここまで酷い茶番を用意するとは……

 怪文書だけならそこまで拡散力はないのに、あえてここで読み上げることでそれを補強している。


 それも自分は私に同情しているなんて演技をしながら……


「ここまで酷い怪文書に私も憤りを感じているんですよ。つきましては、ルーナ=グレイシア候補にもどうかきちんと説明をいただきたい。私はそう思ってここに来たんです!」


 会場の雰囲気が一気に張りつめていく……


 ※


「お気遣いいただきありがとうございます。エル=コルテス様。たしかにひどい侮辱で私も怒りに震えていますわ」


 もちろん、怒りの矛先はあなたですけどね。

 こんな茶番の演出。


 許せない。


 いくら政争に勝つためとはいえ、やっていいこととやってはいけないことがある。

 

「まず、はっきり言っておきましょう。たしかに、あの災害の被害に私達一族は責任があります。しかし、事前の災害対策はしっかりしていました。緊急時に備えた非常物資は規定数以上のものを用意していました」


「責任転嫁するつもりか!!」

 ヤジが聞こえた。サクラね。


「そのつもりはありません。災害の時に大きな犠牲が出てしまったのは私たちの責任ですから。ただ、私たちは最善を尽くしたんです。それだけははっきり言っておきます」


 私は力強く宣言する。


「この偽善者め。ならどうして軍隊を早く要請しなかったんだ!!」


 別のヤジが飛ぶ。会場は騒然となったわ。

 いったいどれだけシンパを会場にいれているんだか……


 たしかに軍隊の要請はできなかったわね。でも、あれはクルム王子によって要請を握りつぶされたから……

 

 私の爵位返上も災害対応の不手際だと報道されているから仕方がないと言えばしかたがないんだけど……


 だけど、真の主犯が王子と暴露したら危ないわ。まだ、彼と正面から戦うには力が足りないから。


 王子とは戦わないようにしながらも自分の無実も主張しなくてはいけないわね。

 ここで投入しないといけないわね。


 実は、まだ自由党の幹部は全員は発表していないのよ。

 それは切り札を温存するため。


 クルム王子の性格を考えれば、周囲にアレン様と仲違いしたとは言えていないはず。プライドが高いからね。たとえ味方の陣営でも完全に信用しない性格を考えれば自分の恥(=側近中の側近に裏切られたこと)をできる限り隠しておきたいはず。


 だから、アレン様が私の味方にいるなんてエル=コルテスには想定外のはず。そして、こういう戦術に出るなんてわかりきっていたもの。


 つまり、こういう状況になるのは想定内よ。

 むしろひねりがなさすぎて拍子抜け。


 これもスタンドプレイばかりしている貴族たちの悪いところがでたわね。

 私に勝てる可能性も高いのに、もったいない。


「皆さまの言うことももっともですわ。私だけの言葉では信用できないでしょう。だから、証言をしてくれる人を呼んでおります。彼は、近衛騎士団の重要な役割を担っていた人で、災害時にも軍の中枢にいた方ですわ」


 この発言に会場はざわつき始める。

 切り札を私は投入する。


 ※



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