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第24話 敵陣営

―子爵陣営―


 俺はエル=コルテス。次期バルセロク地方の知事候補。姪のルイーダ=コルテスは次期国王最有力候補であるクルム第一王子の婚約者に内定した。兄のカインズ=コルテスは軍務省の法務局長まで昇進したエリート官僚だ。


 俺は輸入業を生業にしている。コルテス子爵家は兄が継承したから俺は商人になって自由にやらせてもらっている。俺は兄を経由して数々の特権を手にしている。だから、めんどくさい許可や承認も他のライバルたちと比べても有利な立場で動くことができる。


 おかげで大商人だ。バルセロクは海運業の街。海運を抑えた俺は事実上の知事として君臨している。今まではそれでよかった。だが、姪が次期国母となれば、叔父である俺にも相応の地位が必要になる。


 だから、今回は立候補したんだ。


 現知事あいつは再選を希望していたんだけどな。


「エル殿。どうかお考え直しくださいませ。まだ、私は何もなしえていません」


 俺の立候補を説明した時、あいつはそう言って土下座をしていたが無視した。虫にかける慈悲などない。


「お前はどれほど俺から献金をもらったんだ? それで口ごたえとはずいぶんと勇気があるなぁ」


「しかし!!」


「おいおい、明日の朝、海に浮かびたいのかな? それともお前がもらってきた不正献金の証拠を洗いざらい新聞に話してもいいんだぞ。冷たい海か血の味がにじむ牢獄のどちらが好みかしっかり考えるんだなぁ? 今ならしっかり謝れば許してやるよ。地位を失うだけだ。お前はバルセロク地方前知事という名誉は守れる。退職金だってでる。それで満足しろ、なっ?」


「……」


「しっかりしろ。俺の兄貴が誰か知っているんだろう? 軍務省の法務局長で、姪は次期国母だぞ? お前の存在なんて簡単に消し去れる。そして、隠ぺいだって簡単なんだ。警察にだって圧力をかけることができる。いくら知事でも中央の権力中枢に喧嘩を売れるのかな? いや、売れるんだろうな、お前は偉いもんな。俺に指図さしずできるんだもん。だろ、バルセロク地方知事閣下?」


「ひぃ」

 いつもは威厳あるように見せかけている太った老人は真っ青になって震えている。


「ああ、家族ももちろん抹殺してやるから、安心しろ。地獄でも寂しくないぞ?」


 これが決定打になった。知事は泣き叫んで俺に謝罪を始めた。


「許してください。この任期だけで満足します。生意気を言って申し訳ございません。どうか、家族までは……家族までは……」


 ああ、こいつの部下にもこの光景を見せてやりたい。


「冗談だよ、そんなに本気にするなって!」


 俺の許しの言葉に――


「ありがとうございます、ありがとうございます」


 知事は泣きながら喜んでいた。

 

 ※


―敵陣営―


 俺は新聞を読む。そこでは知事が今期限りで政治家を引退するという記事が大々的に取り上げられている。


 少し脅されただけで簡単に折れてしまうやわな政治家だな。いつもはあんなに偉そうなのに俺に脅迫されただけで泣いて許しを請う愚かな男。


 俺の傀儡かいらいとして祭り上げただけの男だからな。ちょっと勘違いしていたがまぁ大人しくなったからいいとしよう。


「後継候補としては、エル=コルテス・バルセロク地方議会議長を指名させていただきます。彼は家柄・能力すべてにおいてふさわしい方ですから」と知事は俺を後継指名している。


 これで大義名分まで獲得した。


 フリオ元文部大臣が出馬を検討しているという情報があった時は、少し焦ったが奴が出版を計画していた『クロニカル叙事詩』の出版許可を交渉カードに出馬を取り下げさせた。


 あの本の出版くらいで出馬を取り下げるとは愚かな野郎だな。別の者を出馬させるつもりらしいが、あいつ以外なら俺の対抗馬には成り得ない。つまり捨て駒にしかすぎないだろうな。


 フリオは自由党という新政党を作り政界再編を目指すらしい。相変わらずの理想主義者だ。反吐が出るぜ。


 この国は保守党という絶大な力を持つ与党だけで十分なんだ。野党はあくまで国民いや、国民と言うのは貴族や金持ちだけだな。貧乏な平民という非国民のガス抜きでしかない。


 存在するだけで価値がある。だが、力などは与えてはいけない存在だ。


 永遠に夢を見続けていればいい。

 その夢を見るだけで、あとは雑巾のように特権階級に搾取されていればいい。


 あいつらはそれが幸せなのだからな。


「エル議長! 大変です。フリオ元大臣の代わりの自由党の候補者が判明しました!!」


 秘書は大慌てで俺に迫る。


「誰だ?」


「ある意味で、大物です。ルーナ元・伯爵令嬢です。クルム第一王子の元婚約者で……今はルーナ=グレイシアと名乗っていますが、彼女が最近うわさになっていた"森の聖女"の正体です」


「ほう?」


 これはおもしろくなったな。なるほど、元婚約者が出てきたか。生きていたんだなぁ、あの女。


 だが、もう殿下の婚約者の地位はうちのカワイイ姪がかっさらっている。

 つまり、ルーナは終わった女だ。もうあいつの時代はやってこない。


 時計の針は元に戻らないからな。

 森の聖女と呼ばれて人気はあるらしいが、まぁいい。


 俺が正しい金の使い方ってやつを教えてやろう。


 メディアと金、権力を持つ男を敵に回したらどうなるか教えてやろう。


 ネガティブキャンペーンの始まりだ!


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