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第23話 王子の怒り

―王宮・クルム王子の部屋―


「アレンが俺を裏切ってルーナの側に立つとはな……まさか、あの女がここまで政治家だとは思わなかった」


 俺は怒りに狂っていた。


 アレンは俺が10歳の時から仕えていた近侍きんじだったんだぞ。そんなやつまで俺を裏切った。その事実が俺の胸にズキズキと刺さる。


 あいつだけはどんな時でも俺の近くにいてくれると思っていたんだ。甘えていたともいえる。あいつには全幅の信頼をおいていた。だから、どんなことでもあいつに相談していたし難しい仕事も任せ続けていた。


 ルーナの暗殺を指示したのもあいつにしか任せることができなかったからで、俺は事実確認もあえてしなかった。それをしてしまえばあいつを信用していないようになるからだ。


 なのに……


 最も重要なタイミングで側近に裏切られて俺の計画も狂ってしまった。


「くそっ! 叔父上にまで弱みを握られてしまうとな……」


 俺はワインを瓶から直接口に流し込む。酔わなければやってられないんだよ!

 

 これで俺と叔父上の権力闘争にまで悪い影響がでてしまう。

 宰相代理という役職もやばいな。


 左遷は間違いない。情報局を抑えて、軍の上層部ともコネクションを作れているのに肝心の役職で左遷なんて屈辱だ。


 これもすべてルーナとアレンが悪い。


 俺は叔父上から3つの役職を提案されている。


 保守党院内幹事。

 ヴォルフスブルク帝国駐留副大使。

 軍務省副大臣。


 一応、昇進的な扱いだがどれも絶妙に中央からは遠いポジションを提示されている。


 つまり、昇進に見せかけた左遷だよ。

 政局に関与できる宰相代理のほうがはるかに大きな力を使うことができるんだ。


 政敵である俺を昇進に見せかけて中央から遠ざける。さらに、俺の異母弟が新しい宰相代理になるというのも気に食わない。


 このままでは体のいい閑職かんしょくにおいやられてライバルに負けてしまう。どうする、どのポジションを選べば最も損害が減るんだ。


 院内幹事は、議会の雑務に追われる。政策立案への関与はかなり限定されてしまい党内の事務屋的な存在になる。中央で大きな権力を持つことは難しい。


 副大使は大使館内では強く動けるが、中央からの距離が離れすぎている。ヴォルフスブルク帝国は大陸内の覇権国家だから重要で輝かしい経歴にはなるが……


 その間に国家中枢は弟たちに乗っ取られているだろうな。

 俺がイブール王国に戻ってくることはないだろう。大使職を永遠とあてがわれて死ぬまで外国生活だ。


 軍務省は権限は強い。だが、大臣は現役の軍人しかなることができない。要は副大臣なんて軍人の使い走りにすぎないんだ。


 つまり、どれを選んでも屈辱的ってことだよ。

 この野郎!!!!


 いいぜ、これくらいのハンデがあるほうが面白い。

 俺は絶対に宰相になってやる。そして、国王になってあいつらに復讐してやる。


 ※


 フリオ閣下は、自由党の結成案をまとめてくれた。

 アレン様も結党メンバーに入ってくれたのでかなり豪華なメンバーになったわ。


 フリオ様は、反保守党の大物も味方に加えていてくれたからね。

 まだ、味方は少数だけど私たちが活躍すれば地滑り的に数が増えていくはずよ。政治家たちはそういう空気に敏感だから。勝ち馬に乗りたいという気持ちをくすぐってムーブメントを作るのよ。その第一弾が私が出馬するバルセロク地方の知事選。


 負けるわけにはいかないのよ。


「では、党幹部はこれでいこうと思う」

 フリオ閣下はそう言って私たちに人事表を披露した。


(自由党3役案)


総裁:フリオ=ルイス伯爵(元・文部大臣)

幹事長:フェルナンド=エンリケス子爵(元・庶民党幹事長)

政調会長:アラゴン=レオン男爵(元・国民党副代表)

総務局長:アレン=グレイシア予備役大佐(元・近衛騎士団副団長。騎士ナイト


 フリオ閣下が反保守党の有力者を集めた形ね。

 3役は議会にも議席を有する権利を持つ人たちで固めたわ。


 アレン様も近衛騎士団での活躍が認められて宰相様から推薦されて元老院議員になることが決まったから、自由党の議席は今のところ4席ね。フリオ様が知事選に出馬したら元老院の議席を失う規定だったから実は得をした部分もあるの。


 元老院の総議席は473。全体の1%くらいしか議席を保有していないけど、まずはここから。


 ちなみに幹事長は総裁の補佐をおこなう党ナンバー2。

 政調会長は立法関係の担当者。

 総務局長は党内人事や各種調整を担当するわ。


 ただ、幹事長と政調会長は反・保守党という理念だけで集まった大物政治家。つまり、あんまり信用できないわ。隙あらば党の権力を掌握しようとしてくるだろうし。


 だから、フリオ様は総務局長にアレン様をおいて、騎士団仕込(じこ)みの組織の指導力で暗躍するであろう幹事長と政調会長をけん制するように依頼されているの。


 腹黒いふたりのベテランをうまく使いながら実権はフリオ閣下とアレン様が握る。

 頼りになるふたりだから大丈夫ね。


 そして、私は……


 バルセロク地方支部長に就任したわ。


 最初は3役も打診されたんだけど、私は貴族の身分も失った女。アレン様の婚約者ではあるけど、それをひけらかすのも良くないわ。


 だから、知事選に集中するためにも支部長になって地盤を固めることにしたわ。

 クリス男爵はアレン陣営に形だけは残っているから裏で私を支えてくれる。


 本屋さんが副支部長になってくれたわ。


 これで形式的には党の形が作れた。

『クロニカル叙事詩』の出版も来週には印刷ができるわ。


 すべてがうまくいっている。


 あとは3か月後の選挙に勝つだけね。



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