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第22話 ふたりの夜

 私たちは、お互いの気持ちを交換した。

 言葉にしなくてもキスをするだけで私たちはお互いに自分が相手のことを好きだとはっきりわかるの。


 こんなに満たされた気持ちになるなんて初めてよ。

 他の人を好きになるってこんなに幸せな気分になれるのね。ずっと政略結婚するためのうわべだけの関係だったから知らなかった。


 夜もすがら、私たちはお互いに触れあい続ける。


「ねぇ、アレン様? あなたは私のことをいつから好きだったんですか?」


「そうだね。初めて見た時かな?」


「それって……」


「恥ずかしいけど、ひとめぼれだった。ルーナに会えたことが運命だと思ったよ。だからこそ、キミがクルム王子の婚約者だと知った時は奇跡だと思えた運命を呪った。でも、それもまた反転するんだけどね」


「反転してくれなかったら、私はここにいなかったんですよ」


「ああ、だから奇跡なんだよ。神様は俺たちが結ばれる運命だと最初から決めていたと思えるんだ」


「なら、私は最初からあなたの婚約者でいたかったんですよ。それなのにこんな回り道をしてしまったんです」


「人生において回り道なんてことはないよ。でも、その途中でルーナは大事な人たちに出会うことができたんだから……それは必然だったともいえるよ」


「アレン様。私はこの国を変えたいです。あの災害の時も、クルム王子の政治的な思惑がなければもっと被害を減らすことができたと思います。貴族たちが豪華な暮らしをするために村の人たちは苦しんでいました。この国はどこかゆがんでいます。貴族の力が強すぎるんです。特権が人をダメにしているんですよ。特権を与えられた人たちは、国を良くすることや民を豊かにするという義務を忘れて自分の利益だけを追求している」


「ああ、そんなことが続けばこの国は滅ぶ。僕も協力するよ。キミと閣下の夢を一緒に見たい」


「アレン様が一緒なら心強いですよ」


「だが、私はすべての公職を辞めてきた。予備役大佐にあんまり期待しないでくれよ?」


「違いますよ。本当の意味での私にとっての王子様はあなたです。だから、頼らせてもらいますよ?」


 そして、私たちは今日何度目かわからないキスをした。


 早暁そうぎょうの明かりが村を照らした。


 私たちの夜は少しずつ終わっていく。


 ※


 次の日。私たちはフリオ閣下に会いに行ったわ。閣下も計画を進行中なのよね。

 すでに対立候補との話し合いは終わっているはずよ。


 自分の立候補を取り消す代わりに、『クロニカル叙事詩』の出版を認めさせる取引のことね。そして、知事選には私が代わりに出馬する。


 被選挙権は税を一定額以上収めた者だけが獲得できる。

 私は農業収入だけでは足りないんだけど、本屋さんでのアルバイトのおかげでなんとか50万以上を税として納めていたわ。


 ちなみに、この税はアレン様の代官に渡しているのでどうやっても妨害されないわ。よく言うのよね。対立候補を失格させるために税務担当者にワイロを渡して記録を改ざんするのって……


 その妨害がないのが確実なのは嬉しいわね。

 アレン様が味方だから妨害できないわ。


 そして、私たちは閣下の家にお邪魔する。


 客間に通されて、アレン様を紹介すると閣下は目を見開いて驚いていた。


「これはとんだ大物が出て来たな。まさか、クルム王子の側近中の側近が協力者だったとは……ルーナはとんだ食わせ者らしい。いや、天性の政治家と呼ぶべきか……アレン大佐を前に失礼だが……君が二重スパイという可能性はないと信じていいのか?」


「閣下のご心配はもっともです。ですが、私がクルム王子を支持したのは彼が改革の旗手になってくれることを期待していたからです。ですが、その可能性はなくなりました。ルーナを不当な手段で退場させた後は、彼は政治の野心を隠さなくなりました。もう、普通の保守的な政治家と変わりません。彼は自分の野心のために弱者を簡単に切り捨てるような非道な男になり下がってしまった」


「だが、それだけでは……」


 閣下はやはり政治の道が長いだけあって理念だけでは人を信用しないみたいね。でもアレン様には――いや、私たちには彼を信用させる決定的な事実があるわ。


「閣下。大丈夫です。私たちは一心同体ですから。実は私たち婚約しているんですよ」


 ちょっと気恥ずかしくなりながらも、私は彼にそう告げる。婚約という言葉を使うだけで胸が弾むわ。


 王子と婚約している時は、自分で使っても会話相手につかわれても胸がときめくことはなかったのに……


 本当に恋に落ちた後の婚約ってやっぱり神聖なものだから……


 世界は恋によってこんなにも変わってしまうんだ。


 貴族じゃなくなったから私は自由になれた。

 私の世界がみんなとの出会いによって変われたように、私もこの世界をもっとよくしたい。


 だから、世界と戦うわ。

 それは私だけじゃなくて、みんなのためにも……


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