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第19話 自由党

「自由党?」

 私は思わず言葉を繰り返してしまう。


「ああ、保守党に対抗するための党だ。マルコ革命は知っているだろう?」


「はい、200年前に起きた議会派と王党派の対立ですよね。絶対王政に不満をためた貴族と失脚した王族たちが協力し、国王陛下に反旗をひるがえした事件。当時の強権的な国王陛下が処刑されて、議会派が大きな力を持ち、元老院の権力が強化され、王権から立法権が独立した。また、行政の事実上のトップである宰相も、議会が推薦できるようになった革命です」


「正解だ。その結果、王族も議会の危険性を肌で感じてみずからの議席を確保し保守党を結党した。それに反発した議会派も国民党や庶民党を結党した。しかし、保守党の切り崩し工作でどれも保守党の対抗馬には成り得ていない。私は、政界再編を目指すために知事選に立候補した。ここを改革の拠点にしたいんだ」


「少数党をまとめあげて保守党の対抗馬にするんですね。そして、本当の意味での議会を作り出す」


「そうだ、それが私の長年の夢だ。それを叶えるために老人になってしまったがね。だが、これでキミという共犯者を得ることができた。これなら夢を継いでもらえる人ができたんだからね」


「えっ!?」


「ルーナ殿。まずはふたりで夢を始めよう。いや、ここにいるふたりが賛同してくれるなら4人だが……」


「もちろんです。あなたがたふたりについていきます」

「私もルーナ殿の最初の共犯者だからね。参加しないわけがない」


 ふたりも同意を示した。


 これはもう逃げることもできないわね。


「わかりました。やりましょう。この国をもっとよくするために……」


 私たちは、ワインをグラスに注いだ。これが結党の儀式ね。

 赤ワインは血をイメージしているの。つまり、この乾杯が血の盟約ということね。


 決して裏切ることがない血を分けた仲間たち。


「ちなみにですが、私の後ろ盾もたぶん、私たちの仲間です。だから、ここには5人いますよ」


 私はもう一つのグラスにワインを満たした。これはアレン様の分ね。


 ここから未来、私たちは巨大な敵と戦わなくてはいけないわ。今までの慣習や差別、そして、最強の政治家であるクルム第一王子。


 強敵だらけだけ大丈夫よ。


 私はすべて失った状態からアレン様に助けてもらって、村の人たち、そしてこの3人。どんどん仲間が増えていくわ。


 だから、大丈夫。私一人では絶対に勝てないけど、皆の力を借りればなんとかなるはず。


「ガラスの天井を破る時はもうすぐだ」


 閣下はそう笑った。


 ※


「それで知事選はどうしますか? 知事選で閣下が勝たなくては『クロニカル叙事詩』の出版ができなくなってしまいます」

 一番の問題はそれね。万が一、選挙で負けてしまえば叙事詩は嫌がらせを受けて永遠に出版できなくなるかもしれないもの。


 でも、選挙に勝っても出版は相当遅くなるわ。

 そうなると私たちの理想を叶えるのも遅くなってしまう。


 難しい問題ね。


「ああ、それについては私に考えがある」

 閣下はゆっくりと笑った。


「考えですか?」


「取引をしようと思うんだ。私の出馬を取り下げる。その代わりに出版を認めさせる」


「えっ、でもそうすると出版はできてもこの地域を改革の拠点にできなくなりますよ。閣下あっての新党です」


「それは違う。私はあくまで広告塔に過ぎないよ。昔から働いているから有名なだけだ。私はあくまでシンボルになればいいんだ。無理に頭になる必要はない。老人が無理に時代を変えようとするのも良くないしね。私に代わる後継者が出てきてくれたんだ。その人に任せて、私はサポートに回るつもりだ」


「その後継者って?」


「キミのことだよ、ルーナ。キミが自由党の当主になってくれ」


「私なんかじゃ皆をまとめきれません。それに私は隠れて生活している身です。表に出てしまっては……」


「大丈夫だよ。キミは何も悪いことをしていないんだ」


「えっ?」


「公式発表ではキミは、災害の拡大を抑えきれなかったため責任を感じて自ら命を絶っている」


「はい」


「だから、キミが奇跡的に生きていることに何の問題もないんだよ。こういうシナリオだってできる。キミは自ら命を絶とうと崖から落ちたがかろうじて助かった。しかし、怪我の影響かつい最近まで記憶を失っていて救助してくれた村の人たちと一緒に生活していた。これでみんなが納得する物語が出来上がる」


「でも」


「たしかに嘘をつくことになる。だが、すべての真実を話してしまえば、王子の陣営まで追い詰めることになる。追い詰めすぎるのはよくない。キミや村の人たちにまで危害を加えられるかもしれない。この物語なら向こうも、キミを暗殺しようとしたという真実はぼやけているから貸しを作ることもできる」


「危害?」


「真実を知るキミや村の人たちを皆殺しにして、別の物語を作り出すとか……」


「……」

 そんなのは絶対にいやよ。私のせいで被害者が出るのなんて耐えられない。


「だからこそ、キミの生存をできる限り穏便な形で表に出す必要がある。最悪のパターンは今のまま秘密にしている時に、王子が偶然キミの生存を知ってしまうことだ」


「その時は……私たちは秘密裏に処理される」


「そうだね。だからこそ、キミの生存をアピールしておいた方がいい。その方があいつらも表立った動きができなくなるからね。いいか、ルーナ殿。決断する時だ。キミは表舞台に立たなくてはいけない」


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