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第18話 同盟

 アレン様からの連絡はすぐに来たわ。


「キミの人生だ。私に遠慮することはない。それにフリオ閣下は素晴らしい人格者だから説明すればわかってくれるよ」ってね。


 この手紙を読んで私は覚悟を固めたわ。


 私はリスクを取ってでも、フリオ閣下と男爵に正体を明かすわ。そうしなければ不誠実だもの。


 私を信用してくれている人たちにもう嘘はつきたくない。村の人たちにも少しずつ本当のことを話していこうと思う。大丈夫、1年間かけて私たちは信頼関係を作ることができたもの。


 望月に向けて私は決心を固める。澄んだ村の空気は星を綺麗に夜のキャンバスに映し出していたわ。

 

 ※


―バルセロク市―


 私たちはオシャレな個室のレストランで待ち合わせをしたわ。これがデートならどれだけいいだろう。ここのご飯はたぶんとても美味しいんだろうけど、味はわからないわね。今日だけは……


 本屋さん、男爵、そして私が待ち合わせの個室に到着すると、すでに閣下は部屋でワインを飲んでいるようすだったわ。


「失礼します」


「どうぞ」

 声とともに私は意を決して部屋に入る。


 私の顔を見た瞬間、閣下はワインを飲む手を止めて驚いていたわ。震えてもいる。

 それはそうよね。私はみんなから見れば幽霊のような存在。


「まさか、生きていたとは……」


「お久しぶりです、フリオ閣下。私のことは覚えていらっしゃいますよね」


「もちろんだよ、ルーナ殿。アルフレッド伯爵家の一人娘にして、クルム第一王子の前婚約者……火山噴火の後に、責任を取って死んだはずでは……」


 閣下は驚きながら私のことを説明する。


「伯爵家の一人娘ですって!!! それもアルフレッド伯爵家!? 建国の英雄が初代当主の名家中の名家じゃないですか」

 男爵は驚いて血の気が引いている。


「クルム第一王子の婚約者ということは、将来の国母候補最有力のはずですよね。道理で聡明なわけだ!! それなのにどうしてあのような森で村長をしているんですか!?」

 本屋さんも固まってしまって動かない。


 自分の本名を名のるとあの時のことを思い出してしまう。


 ※


「キミと私の婚約は解消だ、ルーナ。早く王宮から出ていけ。いや、違うな。貴族社会にお前が残る場所はない。イブール王国宰相代理として、お前に命ずる。ルーナ。キミの身分と財産はすべてはく奪する」


「金もないお前に用はない。今回の災害も、お前の父親のミスが被害を拡大させたのではないか! お前はその責任を取って、身分をはく奪されるのだ。何の問題がある?」


 ※


 あの時の幻影を振り払うように私は宣言する。


「はい、私の本名は、ルーナ=アルフレッド。没落した伯爵家の現当主にして、元第一王子の婚約者です」


 歴史の流れは止まらない。


 ※


 私は真実をすべて話す。


 父がクルム王子に助けを求めたにもかかわらずそれを握りつぶされたこと。

 私が助けを求めても、それを拒否して婚約破棄を突きつけたこと。

 すべての責任を伯爵家に押し付けて、私を殺そうとしたこと。


 そして、とある人物に助けられて今は隠れて生活していること。


「なるほど。それで森の聖女と言われていたんですね」

 クリス男爵はすべて納得したように話す。


「ごめんなさい。私の立場的に本当ことは言えなかったんです」


「いえ、謝ることではありません。その話が本当ならば話せる内容ではありませんからね」


「ありがとうございます」

 これでとりあえずは私の正体については説明できたわ。あとは他の人たちが評価するべきこと。


「ルーナ殿は、現体制についてどう思いますかな?」

 閣下は私に核心をつくように迫る。お互いに腹を割って話そうということね。ここまで話してしまえば何も怖くないわ。


「まず、平民階級から搾取さくしゅする構造が問題です。列強国は識字率向上に力を入れて産業を伸ばす方向にシフトしています。しかし、イブール王国はいまだに教育は貴族に独占されていて知識が全国民に行き届かない危機的な状況です。平民に知識を与えてしまえば反乱が怖い、テロなどが発生し治安が維持できなくなる。それが貴族側の言い分ですが、ヴォルフスブルクやグレアではそのような傾向は認められていません」


「ふむ。イブール王国の貴族が前時代的な考えに凝り固まってしまって周辺国から置いていかれると?」


「そうですね。今の社会は、ほとんどの国民ががんばって作った富を税という形で特権階級だけが享受しているいびつな関係です。力がある貴族の領土の一部だけが発展してそれ以外の場所はおいていかれる。私が住んでいる村も、男の人たちは出稼ぎにでなければ生活が成立しない人がたくさんいます」


「……この社会が改革なしに進めばどうなるかな?」


「最悪の場合は列強国に敗北し併合されて貴族と国民が奴隷のように扱われる未来でしょうね。そうならないとしてもこのいびつな関係では国家の発展なんて望めません。いつかは限界がきて国は2つに分裂する。どちらにしてもたくさんの血が流れることは間違いないかと……」


「私も同じ意見だ」

 閣下は私の考えに納得してくれたみたい。


「やはり、現状を変えるためになにかしないといけませんね。閣下は『クロニカル叙事詩』の現代語訳を通して貴族の知識の独占を崩そうとしているんですね」


「ああ、その通りだ。そして、もうひとつ作戦がある」


「作戦?」


「ああ。改革主義者は我々だけじゃない。声をあげることはできないが、現状の体制に不満を持っている者はたくさんいる。その改革派を集めて、パーティーを作る。保守党に並ぶもう一つの党だ」


「まさか、貴族に団結して戦いを挑むんですか?」


「そうだ。現状の体制で唯一の救いは選挙に勝てば誰でも政治に参加できることだ。我らの協力者を増やして保守派に対抗しよう。自由党。私はそう名付けようと思う。ルーナ殿も結党に参加してくれないか?」


 私は、また新しい人生の岐路に差し掛かった。


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