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第132話 最後の謀略

「殿下、大変です。あのいまいましいルーナ=グレイシアがクーデターなどの再調査を宣言しました。このままでは、我々は破滅です」

 

 軍務省に到着すると、そこにはリムルが待っていた。

 あいつは俺たちの敗北が決まり、顔面が蒼白になって震えていた。


「そうか」


「何を平然としているのですか。私はあなたを信用してここまで一緒にやってきたのですよ。黒い仕事だって何度も引き受けた。それなのに……」


 女々しい男だ。すべてを俺のせいにして逃げようとしている。

 

「破滅したくなければ覚悟を決めろ。これが最後のチャンスだ」

 俺は冷たくリムルに言い放つ。


「まさか、殿下……あれをやるつもりなのですか」


「もう俺たちにとって生き残る方法はあれしかない。魔女がすべての準備を整えている。お前が実行しろ」


「おれ?……」

 感情の高ぶりで普段は言わない俺という言葉を使ってしまったか。まあ、構わない。ここまできたら取りつくろう必要もない。


「やるのか、やらないのか?」


「ですが、そんなことをしてしまって発覚すれば……今以上に大変なことにっ!!」


「だが、生き残れるぞ。それに成功すれば、お前を大臣にしてやる。もうチャンスは今日しかない。明日になれば、政権交代は始まりチャンスの芽はなくなる」


「殿下は、本当によろしいのですか。あの計画を実施すれば、あなたは……」


「弟を手にかけた時点でもう戻る場所はない。俺はすでに覚悟を決めた。お前たちも覚悟を決めろ。そうでなければ、何もせずに破滅しろ!」


「わ、わかりました。本日実行します」


「ああ、そうだ。今日なら政権交代の混乱で、王宮の警備も穴ができやすいからな。ぬかるなよ」


「わかりました。このリムル、成功させてみます」


「俺はその後の準備をする。自由党の首脳部は王都に集結している。クーデターで壊滅した王都防衛師団は、俺が制圧している。お前が実行すれば、即座に戒厳令を布告できる。保守党政権はまだ、政権を手放していないからな」


「わかりました。では、《《国王陛下の暗殺》》は、深夜に実施します」


「ああ、健闘を祈る」


 そして、俺たちは別れた。内務省の情報局は諜報任務を担う機関だ。諜報任務とはすなわちスパイ行為だ。暗殺などは得意分野と言える。そして、味方だと思っている王を暗殺する。プロにとっては簡単な部類の仕事だろう。


『(兄さんは、ついに親殺しまでするんだね。ルーナにもアレンにも叔父上にも見捨てられて、弟でもある僕まで殺して……そこまでして、得られる王位に何の価値があるんだい?)』


 弟の声が聞こえたような気がしたが、俺は無視をする。

 もう誰にも止めることはできない。


 ※


「ルーナ、起きてくれ。大変なことが起きた!」

 私は議員宿舎で、アレンに起こされた。

 

「まだ、深夜じゃないですか。なにがあったんですか?」


「ああ、ついさっきだが、近衛騎士団の後輩から速報が入ったんだ。王宮で爆発が発生した。被害は不明だが、大きな損害が出ているらしい」


「えっ!! 国王陛下の安否はどうなったのですか?」


 アレンは首を横に振った。


「爆発は国王陛下の寝室付近で発生したようだ。救出作業は進んでいるが、まだ陛下は見つかっていない。おそらく絶望的だろう」


「犯人は……まさか、王子が暴走を?」


「まだ、何もわかっていない」


 このタイミングで国王陛下を暗殺する動機があるのは、王子一派だけ。政局に混乱を引き起こして、何かを狙っているのね。


 いや、自ら国王になって私を潰すのか……

 そうであれば、あいつらが繰り出す次の一手は……


 私の排除ね。


「アレン、今すぐ王都を脱出して。それから、シッド将軍と合流を。最悪の場合は、あなたの軍事的な才能にすべてを賭けます」


「なら、一緒に脱出を?」


「王子のことです。すでに、戒厳令を発しているでしょう。王都防衛師団はすでに乗っ取られている。私が一緒では、あなたまで逃げ切る可能性が低くなります。それに……」


「それに?」


「民衆を捨てて逃げだせば、次期宰相として信用されなくなります。やっていることは、保守党議員と変わらない」


「しかし……」


「大丈夫ですよ。私は、騎士ナイト様を信じています。必ず助け出してくれるでしょう。いつもみたいに?」


「ああ、絶対に約束する」


 そして、私たちは別れた。再会を約束して。


 1時間後。

 宿舎には、兵士たちが詰め寄せる。


 そして、私の部屋の扉を蹴り破って乱入してきたわ。


「ルーナ=グレイシア元老院議員ですね」


「ええ、そうですよ」


「あなたを逮捕させていただきます」


「何を根拠に?」


「あなたには国王陛下暗殺に関与した嫌疑がかけられています」


「その証拠を見せてはくださいませんか?」


「その必要はありません。上からは、あなたを即座に逮捕し政治犯収容所であるバルドロン監獄に連行しろと命令を受けています」


「それは誰の命令? 私はこの国の次期宰相ですよ?」


「クルム国王陛下のご命令です」


「……なるほど、やはりそうですか」


「それではこちらへ」


 私はゆっくりと馬車に向かって連行されていく。

 

 私はアレンとこの国の人々のことを信じている。だから、何の心配もしていない。


 そして、このクルムの暴走が、革命の導火線になると確信して、私は馬車に揺られた。


 ※


 バルドロン監獄。政治犯を収容するために作られた大監獄。今ではほとんど使われていない施設だけど、国王権力が絶大であったときは陰湿な拷問や裁判さえおこなわれずに処刑まで発生していたとされるイブール王国の暗部ね。


 どことなく血の匂いが染み付いているような嫌な気分になる。


 クルムは、ここを復活させようとしている。

 絶対王政の復活。時代錯誤、ここに極まれりよ。


 独房に監禁されて2日が経過していた。外の情報を知りたい


「ルーナ議員、取り調べ室に起こしください」

 やっとはじまるのね。茶番が……


 ※


「ルーナ議員お待ちしておりました」

 取り調べ室にはクルムの側近中の側近がいた。


「リムル情報局長、まずはこの状況を教えていただけますか?」


「残念ながら、私は内務大臣です。そして、あなた達は、もう元老院議員でも次期宰相でもない」


「どういうこと?」


「クルム国王陛下が即位し、国王親政を宣言。国家緊急事態法による特別委任を根拠に元老院は解散されました。新宰相には、コルテス子爵が指名されておりますので、元老院の首班指名は無効になっております。あなたは、ただの平民なのですよ、今となってはね!! どうですか、勝利を奪われたお気持ちは。自由党の最高幹部はあなたを含めて拘束しております。前宰相閣下をはじめとする親自由党派も同じです。唯一逃亡中のアレン将軍も時間の問題でしょうな」


「……」


「悔しくて何も言えないようですな。今の気持ちなど聞くまでもない。すべての頂点に立てる寸前ですべてを奪われたのですから。大人しく命乞いをしなくてよろしいのですか? まあ、そんなことをしても結果は変わらないでしょうが……」


 まるで、小さな王子が出てきたみたい。どうして、こんな人たちしか周囲にはいないのかしらね。


 人材不足がひどいわ。


「絶対王政が復活しました。あなたたちは、栄えあるこの監獄の復活を間近で見ることができるのです。光栄でしょう?」


「もう、取り返しのつかないところまで来ているという実感はあるの? あなたたちは、ついに大罪である国王暗殺と政権を強奪した。歴史に残る悪行ですよ」


「我々は後世の歴史家の評価など気にしてはいません。そして、国王を暗殺したのはあなたたちだ。歴史にはそう書かれる!!」


 もう何を言っても無駄だと思うほど強情な言い方だった。


 でも、まさか本当にここまで無能だとは思わなかったわ。国民の代表者たちの決定を反故にして、自分たちの都合のいい結果にゆがめてしまう。


 そんなことをすれば、もう政府に対しての信用は地に落ちる。この後どうなるかは日の目を見るよりも明らかよ。


 国民の不満は、裏切られたことにより爆発する。

 革命が始まる。


 もう歴史の流れは巻き戻すことはできない。


「リムル閣下、大変です!!」

 部屋に一人の看守が入ってくる。


「何事だ! こちらは重要な取り調べ中だぞ!!」


「しかし……」

 そう言って看守は耳打ちする。


「なんだと!! シッド将軍とアレン将軍が合流し、地方軍を集結させてこちらに向かっているだと!! 早すぎる」


 さすがは、あのふたりね。

 でも、そんなことを大声でしゃべってしまっていいのかしら?

 看守もあきらめたように、耳打ちを辞めた。


「地方軍だけではありません。正規軍にも裏切り者が……このままでは、敵の数は当方をはるかに上回る危険性が……」


「なっ……」


「コルテス宰相が王都防衛師団を率いて、出陣しました。閣下も早急に王宮にお戻りください!」


「わかった。ルーナ議員を独房に戻してくれ……」


 さきほどまでの威勢の良さはどこかに消え去り、蒼白な顔で部屋を出ていこうとするリムルは、取調室の扉を開けて「あっ」と声を上げた。


 私も独房に戻るために、部屋を出ようとして、外を見た。

 監獄の前には、たくさんの群衆が詰め寄せていた。



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