表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

125/135

第125話 世界を変える夜

 私たちはルイちゃんの家でご飯を食べた。

 トマトと野菜のパスタ。

 残り野菜で作ったベーコンのスープ。


 とてもやさしい味のその食卓は、私たちを幸せな気持ちにさせてくれた。


 そして、私は家に帰った。村の人たちが私がいつでも帰ってきていいように掃除をしてくれているから、いつもきれいになっているわ。


 やっぱり、私はここが一番よね。


「とてもやさしい顔になっているな、ルーナ?」


「たまに、妄想することあるんですよ。政治家を辞めて、あなたとこの村でみんなの笑顔に囲まれながら、普通の暮らしをするのもいいなって。アレンは思いませんか?」


「ああ、キミと普通に結婚して楽しい新婚生活をここで送れるなら最高だな」


「ですよね。私もそう言う人並みの幸せを送れたらいいなって思います」

 アレンは少しだけ寂しそうな顔になる。


「もしかしたら、俺がキミに余計なものまで背負わせてしまったんじゃないか。実は、それが怖かった。ルーナは本当は政治の世界になんかに戻りたくはなかったじゃないかって。きみは、王子の婚約者時代からずっとつらそうだったし、いまだって王子との政争に苦しんでいる」


「たしかに、苦しくないなんて言ったらうそになりますよ」


「だよな。俺のために頑張ってくれているなら、気にしないでくれ。ルーナには幸せになる権利がある」


 彼は優しいな。そういうところが、私は好き。


「でも、それだけじゃないですよ。ずっとやりがいは感じています。ルイちゃんやバルセロク地方の住民の人たち。私が頑張れば頑張るほど、みんなは笑顔になってくれる。そして、みんなが幸せになれば、こんなに幸せなことはない」


「だが……」


「やりがいは本当に大きいんですよ。たしかに、物質的には貴族時代の方が、個人の自由度で言えばこの村で単なる平民として暮らしていた時代の方が、よかったのかもしれない。でも、そのままじゃ私はこんな幸せな生活はできていないんですよ。この10年間、死にそうな目に何度もあいました。でも、もしまた自分に生まれ変わったら、この10年間をもう一度繰り返したいと思います。失敗はたくさんありました。でもね、後悔はないんですよ。今の私を誰にも否定してほしくない。私がここまで来れたのは、アレンのおかげです。2人でここまでやってきた今までの功績が不幸なわけないですよ」


 そして、私は力強く彼の手を握った。


「すべてが終わってこの国を変えたら、一緒にここで暮らしましょうね」


 まるでプロポーズみたいな言葉をつぶやいて、私たちはキスをする。


 ※


 そして、私たちは久しぶりに家で横になる。

 この時間が私にとっては一番幸せな時間。


「ずいぶんと難しいことを考えているんじゃないかな、ルーナ?」


「ええ、ちょっとだけ仕事のことを考えていました」


「仕事のこと?」


「はい、ルイちゃんのように自分で働きながら学費を稼ぐのも素敵だと思います。でも、子供は国にとっては宝です。国からも勉強をし続けたいと思う真面目な学生に何か援助できる体制を作りたいと思っているんですよ」


 基本的にイブール王国の学制は、貴族教育のために作られているわ。少しずつ改革は進めているけど、まだ不十分。


 貴族や富裕層のための教育制度。

 だからこそ、彼らを教育するためにしか考えられていないので、庶民が同じ制度で学ぼうとすると無理がたくさん出てくる。


 だからこそ、抜本的な改革が必要なのよ。いまは、変化期ね。


「うん、いい考えだ。具体的には?」


「成績優秀者には、国から奨学金ということで援助を出すとかですね。ただし、その場合は財源を確保しなくてはいけません。庶民に課税する余地はほとんどありませんから……やるとしたら」


「貴族階級か。反発は来るだろうね。それも庶民のために貴族から課税するとなれば間違いなくつぶされるね」


「ですがやるしかないと思います。この国を変えるためには。それに、教育費無料の大学も設置するのが私の大臣としての目標です」


「教育費無料の大学?」


「ええ、他国では教育者を養成するための師範大学や将来の高級軍人を養成する軍事大学など設置されていて、それらの学費は無料になっているんです。国を担う人材を育てるために必要な機関ですからね」


 特に、グレア帝国は師範大学が国の最高教育機関になっているくらいよ。

 教師の人格や知性は、子供たちに大きな影響を与えるからそういうところを評価されているのね。研究機関としても優遇されていてたくさんの予算が回されている。


 そう考えると、この国は遅れてしまっている。


 ヴォルフスブルクやグレアは、貴族の力は抑えられていて庶民もしっかりと権利を獲得している。


 だからこそ、国が一丸になっているのよね。そう考えると、貴族階級という特権階級の力が大きすぎるイブールは、階級ごとに分断されていると思う。


「ルーナなら大丈夫だ。俺たちもしっかりサポートするから、自分が考える道を突き進んでくれ」


「ありがとう、アレン。あなたがいてくれるからこそ、私は前に進むのを恐れない」


 次の元老院が最大の山場になるわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ