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第115話 きっかけ

「アレンはここで私のことが好きになったのね」

 私はストレートにそう聞くと、彼は同意する。


「そうだよ。何度もここに一緒に来たと思うけど、その日、ルーナは落ち込んでいた。たしか、公爵家の令嬢に、伯爵家の娘のくせに王子の婚約者になったことについて悪口を言われたんだっけかな?」


 言われたら心当たりがある。とある公爵家の令嬢と私とソリが合わなかったのよね。だから、タイミングを見ては私をいびっていた。私は、次期国王の妻という立場上、国の重鎮であった公爵家との仲にひびを入れることもできなかったから、耐えるしかなかったのはつらかったわ。相手も私が反撃をできないことを知っているから、少しずつエスカレートしていった。


 ついに、我慢できなくなった私はこの丘に逃げてきたんだわ。


「私は、ルーナが苦しんでいる様子を見て言ったのですよ。『そんなに苦しいのにどうして我慢しているんですか。目撃者だっています。あの令嬢を糾弾したっていいのではありませんか』とね」


 記憶は少しずつ鮮明になっていく。


「おぼえているわ。それに対して、私はこう言い返したのよね。あの公爵家は、軍の名門です。王族を守る楯として素晴らしい実績ももっているわ。私があの令嬢を糾弾してしまえば、王家と公爵家が対立してしまえば、王国全体に数百年の災いをもたらすかもしれない。そうなれば、私が苦しむ以上に多くの人間が苦しむわ。それを良しとするほど、私の立場は軽くない」


「ええ……まだ、10代の女性の言葉ではなかった。その歳なら公爵令嬢のように私情を優先しても誰にも責められない。にもかかわらず、あなたは為政者としての責任をまっとうしていた。そして、その姿が立派だった。私は、貴族社会に絶望していたんですよ。はっきり言えば、近衛騎士団の一員として働くことの意義を感じることができなくなっていた。だからこそ、ルーナの存在が生きる希望になっていた。クルム王子とルーナの二人なら、この腐敗した貴族社会を変えられると思ったんですよ」


 あの時の私を見てくれている人が近くにいたんだ。

 ずっと一人で戦っていると思っていた。でも、違うのね。彼は私が思うよりももっと前から彼は一緒だったんだ。


 それが嬉しすぎる。


 自分の中の感情が爆発して、どうにかなってしまうくらい彼が愛おしかった。

 我慢ができずに私は力をこめて彼を抱きしめた。


 そして、少しだけ背伸びをして彼とキスをした。

 たぶん、この瞬間が人生で一番幸せな時間だった。




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