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第110話 決着

 俺たちは何度も剣をぶつけ合った。さすがは、王都防衛師団を任された武闘派貴族。公爵家と言えば、何もせずに遊んで暮らせるはずなのに……ここまできちんとした剣術が使えるというのは、彼がストイックに努力してきたことの裏付けだ。


 彼の努力と才能はたしかにある。国を思う気持ちだって、間違った方向に発揮されてしまったが確かにあったんだ。家柄も責任感も才能もすべてを満たしていたはずの男がここで死のうとしている。


「さすがは、英雄だ。一切乱れない」

 俺に対して、素直に賞賛する様子はもう何も恐れている者ではなかった。


「公爵、降伏してください。これ以上、味方同士で血を流しては……」


「残念だよ。僕は、もう止まることはできない。ここで僕が死ななければ、のちの災いになる。誰かが僕を祭り上げようと動くかもしれない。僕を助けることで、反逆者が罰せられない前例を作ることになる。今回、僕は信念をかけて立ったのだよ。だからこそ、その責任を果たす」


 もう説得はできないな。悲壮な覚悟を固めている顔だ。


「ならこれ以上は言いません。覚悟してください」


「それは僕のセリフだ。せめて英雄の首くらいは取らなくてはならないだろう?」

 だが、公爵の剣は弱ってきていた。まちがいなく疲労感が蓄積している。剣にはブレが生まれている。この状態の男に負けるわけにはいかない。


「僕は、この国の国王だ。王国の正当性を守る。お前たちが政権を取れば、貴族の威厳も正当性もすべて失われる。庶民に政治ができるのか? どうせすぐに腐敗して、さらなる犠牲者を生む。だからこそ、僕が導かなくてはいけないんだ。愚民どもたちに政治なんてやらせるわけにはいかない。僕が、僕こそが……この正当なる国家の守護神……」

 執念だけの公爵は完全に崩壊しかけている。

 彼はもしかしたら庶民に生まれるべき人間だったのかもしれない。貴族社会に生まれて、その世界の常識だけを吸収してこんなに歪んだ怪物になってしまった。


 恵まれたものがありながら、なんて器が小さいんだ。

 自分以外の人間を下に見て、そして肥大化したプライドが自分勝手な正義を振りかざす。


 クルム第一王子も、もしかしたらこのゆがんだ貴族社会の被害者なのかもしれない。俺の目の前にいるのは貴族社会のゆがみの象徴だ。ここで切り捨てる。


「死ねぇ、アレン」


 俺は、彼の剣を簡単にかわした。そして、公爵を斬った。

 急所に直撃したはずだ。あまり苦しまずに逝けるはず。


「嫌だ、死にたくな……苦し……」

 短くそう言って、公爵は動かなくなった。


 これでクーデターは完全に失敗した。クーデター軍主力の王都防衛師団は、中心人物のオリバー公爵を失い瓦解するだけの運命となった。


 ここからは戦後を考えなくてはいけないな。

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