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第109話 崩壊

―アレン視点―


 俺たちファントムは、山の上流側で待機していた。オリバー公爵軍は、案の定というべきか平原ルートを選択した。


 前線の砦をあえて明け渡して、ブービートラップを仕込むことでゲリラ戦を警戒させる。そうすれば、ゲリラ戦対策に森が広がるルートは避けるだろう。オリバー公爵は軍人としては有能で、教科書通りの作戦を得意とする。


 ゲリラ戦をさけて、兵力差による力攻めを狙うはず。

 俺たちはうまく誘導できた。


 教科書通りの作戦は、負けにくいが読みやすい。だから対策を立てることが簡単なんだよ。


 平原ルートならばあとは簡単だ。シッド将軍がバルセロク付近に出陣し陽動をおこなう。そのまま、敵軍が渡河を始めたところを狙えば総崩れだ。


 川の水を氷魔力で凍結させた。そして、マジックアイテム"魔力無効化の宝玉"を使うことで、氷結が溶けて濁流が敵を襲うことになる。シッド将軍がのろしを使ってタイミングを教えてくれることになっていた。


 敵兵力に最も被害が出るタイミングでのろしが上がる。


 俺たちは頷いて、水の封印を解き放つ。下流側の住民はすでにバルセロクへ避難している。俺たちがあえて敵軍に殴り込みをかけなかったのは、避難誘導が必要だったからだ。情報が漏れる可能性はあったが、敵は進軍スピードを重視したせいで気づかなかったようだな。


 もうひとつのろしが上がった。これは「奇襲成功せり。敵軍被害甚大かつ分断に成功す」というメッセージだ。


 完璧だ。すでに川を渡り切っていた兵士たちは疲労していて、援軍は絶望的。さらに、退却しようにも水量が増した川のおかげで逃げることはできない。さらに、名将シッド将軍が率いるバルセロク地方兵団が展開している。分断された前線の敵軍はなすすべもなく包囲されてせん滅される運命にある。


 川を渡っていた兵士たちはすでに流されていて、大きなダメージを負っていて戦力には成り得ない。


 残った戦力は、公爵を守っていた親衛隊だけだ。もちろん、そちらにも手は打っている。それは、明け渡した砦の兵士たちだ。彼らは普通の兵士に偽装しているが、イブール王国最精鋭部隊"ファントム"の構成員。捕虜として王都に送られる途中で、脱出し今ごろは空中から砦の再奪還作戦を起こしているだろう。砦にほとんど兵士はおかれていないはず。だから、少数戦力でも彼らの実力なら砦を奪取することはできる。秘密のトンネルも用意されているからな。


 砦さえ取り戻してしまえば、挟撃状態を作り出せる。


「では、我々も行くか」

 俺と部下百人は、出陣する。空中からの攻撃。狙うは、公爵の首だけだ。


 ※


 俺たちはそのまま敵陣に突入する。空中から魔力で攻撃して敵陣を大混乱に陥らせる。敵は陣形が整っていれば、まだ対処できたはずだが、完全に混乱しており空中からの攻撃への対処はままならない。


「敵陣は大混乱です。逃亡兵も発生しているようです。それを処罰するために同士討ちまで……」


 副長の少佐が俺に状況を説明した。完璧だな。いくらなんでも、この状況は想定の外だったか。精鋭の王都防衛師団でも阿鼻叫喚あびきょうかんの状況では、統率を執ることはできない。


 後方にしか行き場がなく、さらに執拗な空中からの攻撃だ。どうしようもない。


「アレン大佐。オリバー公爵の旗が見えました」

 豪華に飾られた公爵家の旗は、戦場でもよく目立つ。


「俺が先に突入する。お前たちは、援護してくれ」


「「了解」」


 俺が一気に空中から距離を詰めると、公爵の親衛隊3人が彼を護衛するために前に出た。王都防衛師団のなかでも最強の3人の守護者ガーディアンか。相手にとって不足はない。


 俺は、一気に落下エネルギーを使い剣を振るう。3人の守護者の中でも一番体が大きな男が俺の剣を防ぐ。


 しかし……


「ぐぬぅ」

 男の剣は簡単に砕け、剣圧によって後方にいた2人と一緒に吹き飛ばされた。


 公爵は、その様子をみて覚悟を固めたかのように笑う。


「さすがは、イブール王国最高の英雄だね。見事な剣さばき……君のような人間が僕の部下にもほしかった」


「オリバー公爵ですね?」


「ああ、そうだよ。今は公爵ではなく、イブール王国国王オリバー1世だが?」


「あなたは正式な手続きをとっていない。自称国王だ」


「ずいぶんとひどい言い方だね。でも、すごかったよ。まさか、僕たちをここまで誘導するなんてね。そして、戦史上類を見ない見事な奇襲を成立させた。少数兵力による地形と魔力を活かした包囲殲滅作戦。僕は、たったいま歴史の目撃者になったんだ。キミとシッド少将は史上最高クラスの名将に列せられる。僕は、史上最低の愚将となるだろうね。キミたちのことだ。退却路は完全に断っているんだろう?」


「さあ、どうかな?」


「まあ、いいか。せめて、僕の人生の最期に贈り物をもらおう。キミはここで生きようが死のうが確実に名声を得ることができる。武人として名誉が手に入るキミを羨ましく思うよ。だから、一緒に死んでくれ」

 そう言って公爵は剣を抜いた。


「残念ながら、俺はここで死ぬわけにはいかないんですよ、公爵。俺は武人としての名誉なんていらないんだ。ルーナと共に、この国の変革を見るまでは死ねない」


 この戦争は最終局面に達している。俺と公爵は、直接刃をわしていく。


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