第1話 婚約破棄と追放
―王国歴720年 イブール王国王宮―
「キミと私の婚約は解消だ、ルーナ。早く王宮から出ていけ。いや、違うな。貴族社会にお前が残る場所はない。イブール王国宰相代理として、お前に命ずる。ルーナ。キミの身分と財産はすべてはく奪する」
私は、婚約者のイブール王国第一王子であり宰相代理としても活躍しているクルム様にそう告げられた。私はうなだれる。自分の黒い髪がまるで呪いのようにドレスにふりかかった。
クルム殿下は、金髪をたなびかせて私をまるでごみのように見つめていた。
「何をおっしゃるんですか!!」
温かい言葉をかけてくれると期待していた私は、その非情な言葉に絶句した。
今まで、私に対して優しかった彼は、突然豹変して、悪魔のような表情で私を罵倒する。
「お前はもう平民だ。二度と会うことはないだろうな。さあ、何をしている、お前たち。この平民を王宮の外に連れ出せ。平民の汚い足で、王宮を汚すな」
「お待ちください。私は、あなたを一生懸命支えてきました。たしかに、この度の災害で、お父様の伯爵領は壊滅しました。しかし、私たちはあなたにこれまで多くの献金をおこない支えてきたのではないですか。なのに、お金が無くなったら、即婚約を破棄して、私を捨てるなど、道義に反します。私のことを《《金のなる木》》としか、考えていなかったのですか?」
数日前。私のお父様の領土が、火山の噴火によって壊滅したわ。今まで裕福だった伯爵家はすべてを失った。お父様もお母様も、災害に巻き込まれて行方不明になってしまった。邸も財産も両親もすべてを失った私に突き付けられたのは、この残酷な宣言だったわ。
「金もないお前に用はない。今回の災害も、お前の父親のミスが被害を拡大させたのではないか! お前はその責任を取って、身分をはく奪されるのだ。何の問題がある?」
何を言っているの? すべてはあなたの指示よ。火山噴火の確証がないから、王国軍の本隊は動かせないと私に言ったのは、あなたじゃないの?
「お父様は、被害の拡大を恐れて、救援要請を出しました。しかし、それを許さなかったのは、クルム様ではないですか? このひとでなし!」
「うるさい。救援要請を出した証拠などどこにもない。お前らは、私の身代わりになって失脚しろ」
「冤罪をなすりつけるなど、為政者がするべきことですか!」
「何を勘違いしているんだ? 俺は王子だ。王子の失敗を、部下のお前たちが取るのが自然の道理だろう。お前たち家族は悪徳貴族で義務をはたさずに被害を拡大させた。だから、失脚するんだ。世の中には便利な言葉があるだろう? なぁ、悪逆令嬢ルーナ? それとも、処刑されたいのかな?」
「ひどい。ずっと私の家族はあなたを支えてきました。あなたが宰相代理になれたのも、私たちの資金があったからのはずです」
「その資金がないお前たちに何の価値がある? よく言うだろう、金の切れ目が縁の切れ目だってな。今がその瞬間だ。過去の献身を考慮して命だけは奪わない。さあ、消えろ。今すぐな!!」
「それが10年間、婚約者として連れ添った女への最後の言葉なんですね?」
「そうだ。今までありがとう、さようなら。早く消えろ、平民っ!!」
こうして、私は20年間で築き上げたすべてを失ったわ。衛兵たちに連れられて、馬車にのせられる。
たぶん、口封じのために殺されるんだわ。
いやだ、死にたくない。こんなのってないわ。
罪人用の馬車は、動き始めた。
※
―12年後 元老院―
「諸君、議長より宰相選挙決選投票の結果を報告します。投票総数473票。自由党ルーナ=グレイシア君、282票。保守党クルム=イブール君、190票、無効票1票」
会場がどよめいた。議長は私の勝利を宣言したのだから当たり前よね。
私の元婚約者であり、王国第1王子のクルムは怒りに震えて、顔面が蒼白になっていた。
「よって、元老院はルーナ=グレイシア君をイブール王国第64代宰相に指名することに決しました。ルーナ=グレイシア君、登壇願います」
議長の宣言によって、会場は大きな拍手に包まれる。
「歴史上初めての平民宰相、誕生だ!」
「それだけじゃないぞ。初めての女性宰相だ」
「山が動いたな」
「歴史のはじまりだ」
「王族が選挙に負けたぞ!!」
そうよ。ここからはじまるの。私の復讐物語が……
私の家族に冤罪を押し付けて、没落に追い込んだクルムへの復讐がね。
私は最高権力の座を射止めた。
「この度、イブール王国第64代宰相に就任しましたルーナ=グレイシアです」
ここまで来るためにたくさんのことがあったわ。
最初は本当に苦しかった。信じていた彼に寄り添って欲しい時に、裏切られたんだから。
でも、私にはたくさんの仲間がいる。
もう、泣いていただけの弱虫の私じゃない。
この場に来るまでに、私はたくさんの人に助けられて強くなった。
だから、もう何も怖くない。たとえ、敵が王族だってもね。
私にはたくさんの優秀な仲間と王国宰相としての権力があるもの。
はじまりは、12年前の自然災害だったわ。
火山の噴火で、両親も財産も失った私は、婚約者だった彼に助けを求めたの。
でも、彼は私に対して非情な宣言を突きつけた。
すべてはあの日からはじまったの。
私は、あの追放された日、運命と出会ったわ。
本日から連載を始めさせていただきます。Dと申します。
先日、50万字超えの長編を完結させたばかりなので、こちらも頑張ります!
長編完結率(90%以上)には自信があるので、無事に走りきろうと思います。
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