083 招集
招待状に記されていた日、その前日の夕方。
俺とユナは第三休憩所の宿屋に到着した。
関門の人はあまり大きくないといっていたが、それでも二十部屋ある。
十分立派だ。
確かに提供されたご飯は質素なものだったが、この宿のある場所を考えれば当然というもの。
ここは火口にもっとも近い宿だ。
標高も高いし、都から歩いて半日。
そして誰もいない。
いるのは登山客と宿のオーナーだけだ。
近くには村も集落、家の一つもない。
そして一つ気がかかりなこと。
何故ここなのか。
『ドーリス火山、第三休憩所から火口を目指せ 残り1日』
ここに書いてある通り、目的地はドーリス火山の火口だ。
しかし何故わざわざ第三休憩所からなんだ。
いや当然登山口から火口に行くためにはここを通過するのが一般的だ。
ここに泊まらず火口に行くことはまずない。
でもなら尚更指定する意味はない。
その時ふと思い出す。
呼び出されたのは俺たちだけではないという可能性に。
そしてもし彼らも明日火口を目指すのであれば、この宿屋に泊まっているはずだ。
少し気味が悪くなる。
それなりに実力を持つ者たちが今ひとつ屋根の下で一夜を共にしようというのだ。
警戒しておこう。
などと考えていると、部屋の扉がノックされる。
慎重に扉を開けると亭主がいた。
「夜分失礼します。少しお伝えしておきたいことがありまして。先ほど都の方から、明日から火口への立ち入りを許可するとのと伝えがありまして」
「山頂までいけるのか」
「ええ。折角ここまで来られたのですから、是非とも登頂していただければと」
急だな。
というかタイミングが良すぎる。
「もし登られるのでしたら、まず宿の横の建物で入山料を納めてください。そこで手形を発行いたしますので。では良い夜を」
ともかくこれで危険を冒して火口に行く必要がなくなった。
観光客と同じように堂々と行けばよい。
ただ、誘われているの間違いないだろう。
まあ明日になればわかることだ。
俺たちはいつも通り、万全を期して火口へ向かうだけだ。
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日が昇る前に起きた俺は、亭主の言っていた建物に入っていた。
まだ亭主も起きていないような時間だが、あまり眠れなかったんだからしょうがない。
無意識のうちに緊張しているのだろう。
一方ユナはまだ少し眠そうにしている。
部屋にいてもいいと言ったのに、ここまで付いて来た。
律儀な奴だ。
再開してからというもの、用を足すとき以外ほぼずっと一緒にいる。
んでこの建物だが、色々と記念品が飾ってある。
どっかの将軍の剣の破片だとか、昔のチャンピオンベルトだとかがたくさんある。
ふと上を見上げると闘技大会の歴代優勝者の名前が並んでいた。
全く聞いたことのない名から、よく知る名まで様々だ。
眺めていると十九連勝している奴がいた。
名をダリオスというらしい。
それまでが三連勝がいいところを見るに、とんでもない男だったのだろう。
ちなみに記録によると、彼の二十連勝を阻止したのは名もなき細身の男なんだとか。
その上優勝賞金を放棄したらしい。
こっちもこっちですごい奴だ。
「その男は、一説によればロベルト様らしい」
振り返るとハットを被った聖職者の男がいた。
年は俺より少し上ぐらいか。
白い布に包まれた細身の何かを背負っている。
「ロベルトというと、教会の剣の」
「ええ。あくまで噂ですけど」
またあいつかよ。
まああり得なくはないんだろうけど。
ていうか、あんた誰だよ。
「申し遅れました。私、アントンと申します」
「私は、ゼーラです」
やべ、偽名考えるの忘れてた。
使いまわしたけど大丈夫か。
「よろしくお願いいたします」
「いえこちらこそ」
セーフみたいだ。
ゼオライトは一応指名手配中だし、教会が取り逃した相手でもある。
バレたくはない。
「貴方も闘技大会に興味がおありで?」
「一度は見てみたいですね。出たいとまでは思いませんが」
「そうですか。でもこの前の殴り合いは見事なものでしたよ」
バレてるじゃねえか!
絶対前の闘技場の話だろ。
「大丈夫だ。事情があるのだろう。他の方には秘密にしておく」
いやいや信用ならんでしょ。
というか、それでまあ人畜無害みたいな感じいられるな。
確かに一見爽やかな聖職者に見えるが、そのガタイは普通じゃないよ。
「警戒されてしまっているようだな。致し方ない。今日ここにいるということは、お互いそういうことだろうからね」
「貴方もあの紙を?」
「そういうことだ。もっとも君のように私も一人ではない」
他には誰もいないようだが。
「連れは朝に弱くてね。もうじき来るだろう」
そう話していると、扉が開かれた。
入って来たのは三人の騎士だった。
所属はわからない。
ただ間違いないのはオステルでもティロニアンでもないことだ。
三人はこちらに向かって会釈すると部屋の中央の椅子に腰かけた。
なんというか重苦しい空気になった。
密度というか、圧というか。
アントンはいつの間にか窓際におり、本を読んでいた。
俺はその場をそっと離れるとユナの横に座った。
「主様、あの」
「わかってる」
ユナもしっかりと警戒モードに入っている。
俺もその気でいよう。
また扉が開いたかと思うと、今度は聖職者の女性が入って来た。
オドオドとしながら俺たちを一瞥すると、アントンの方へ寄って行った。
さっき言っていた連れだろう。
しばらく時が経つ。
誰も何もしゃべらない。
動くこともない。
それもそのはず。
この部屋の大きさに対して存在するべきでない戦力がここに集まっているのだ。
下手なアクションを起こせば一瞬にして誰かが死ぬ。
そう思えるほどの緊張感があった。
そんな中最初に声を上げたのがアントンだった。
「もういいだろう。皆も分かっているはずだ。我々がここに集ったのは偶然ではないと」
「なぜそう思う」
「この面子を見ればわかるというもの。というか、これがわからないような奴はここまでたどり着いていない」
騎士たちもアントンの話に耳を傾ける。
心当たりはあるようだ。
「ひとまず自己紹介といこう。私はアントン。宣教師だ。そしてこちらが――」
「侍祭の、カリムです」
「さあ次は、頼むよ」
あ、え、俺?
急に振らないでよ。
「ゼオライトです。よろしくお願いします」
「ユナです。あ、主様の従者です」
それは言わなくていいのよ。
俺が言わせてるみたいじゃん。
「君があの……」
「ふむ。ならば我々も名乗るとしよう」
騎士が立ち上がる。
まず初めに三人の中でも一番歳を取っていそうな男が挨拶した。
大きな盾を背負っている。
「私はレイブン騎士団の団長を務める、ハイダだ」
それに続くように大剣を背負った中年の大男が自己紹介をする。
「私はビル。初めまして」
最後に二刀の剣を携えた男が挨拶を行った。
多分俺よりも若い。
16歳ぐらいだろうか。
「僕、あいや、私はレイド。お初にお目にかかります!」
張り詰めた空気が少し和らいだ気がした。
元気のある挨拶っていいね。
「それで、皆これを持っているのだろう?」
アントンが紙を取り出す。
続けて俺も、ハイダも取り出した。
「なるほどな。もしやとは思っていたが」
「試練を乗り越えたもの同士の邂逅というわけか」
「皆さんも人形と闘ってきたんですか」
「人形?」
「そういうのはなかったが」
与えられた試練は別なのか。
随分と手が込んでるじゃないか。
「さてもうそろそろ登りたいところだが」
「お待たせしました!」
タイミングよく亭主が現れる。
そして一人一人に手形を渡す。
「代金は?」
「さっき来た役人から人数分きっちりいただきましたので、結構ですよ」
これは完全に誘われているな。
隠す気もない。
だがここに集まった奴というのは、そんなことじゃ止まらない連中だ。
「ま、じゃあ行きましょうか」
順に部屋から出ていく。
こいつらは仲間なのか、それとも敵なのか。
それは火口に着けば答えが出るはずだ。




